「MADウォール」 松戸駅西口6号バイパス(岩瀬立体)側壁

松戸駅西口6号バイパス(岩瀬立体)側壁(千葉県松戸市根本
「MADウォール」
3/31~

無機質な陸橋をエネルギッシュな壁画で演出します。千葉県松戸市、松戸駅西口近くの「MADウォール」を見てきました。



「MADウォール」については以下の記事をご参照下さい。

高架道路壁に巨大アート 『街を明るく』地元町会とNPOが企画(東京新聞)



現地へは常磐線の松戸駅の西口が便利です。駅からスーパーやパチンコ店などの林立する雑多な商店街を進み、公園の脇をすり抜けると、突如、高層マンションをバックにした高架道路の側壁が横たわるように出現します。そこにこの壁画、「MADウォール」が描かれました。駅からはせいぜい5分程度ではないでしょうか。



そもそもこの壁画は地元町会が地域活性化のため、NPO法人を介し、オランダ人のストリートアートの大家ZEDZと、芥川MHAK真博、そして大山エンリコイサムの三名のアーティストに制作を依頼したことから始まりました。記事によれば何と彼らは無報酬で壁画を描いたそうです。

MAD WALL Project in 松戸 レポート(CBCNET)(アーティストプロフィール有り)



それにしても近寄ってみると確かに相当の迫力です。何やら巨大生物のようなモチーフが、横へ縦へと広がる幾何学的な紋様と組み合わさります。側壁の空間を縦横無尽に駆け巡っていました。



色の展開もまた鮮やかです。陸橋下ということで周囲はどうしても暗くなりがちですが、それを打ち破るような活気があるかもしれません。



松戸駅周辺は商業地としての地盤沈下が激しく、地元のひいき目に見ても華やかとは言い難いものがありますが、この「MADウォール」を契機に、地域が少しでも元気になればと思いました。



また企画に携わったNPO法人KOMPOSITIONは、「脱東京」と銘打ち、東京以外でのアーティストの制作をサポートする活動を行っています。その一環として今回、松戸の地が選ばれたというわけでした。



なお松戸へ上野から常磐線の快速で20分、大手町からも千代田線で30分強ほどで到着します。都心から少し足を伸ばしてストリートアートに浸ってみては如何でしょうか。



ちなみに「MADウォール」の前は当然ながら一般の道路です。(現地地図)抜け道になっていて交通量も少なくありません。鑑賞の際は車にお気をつけ下さい。
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「鷹形金冠飾り」 江戸東京博物館(チンギス・ハーンとモンゴルの至宝展)

江戸東京博物館墨田区横網1-4-1
「チンギス・ハーンとモンゴルの至宝展」 - 「鷹形金冠飾り」
2/2-4/11



先日、「チンギス・ハーンとモンゴルの至宝展」の特別内覧会に参加させていただきましたが、その際にチラシ表紙にも掲載された金の飾り物、「鷹形金冠飾り」についての簡単なレクチャーがありました。こちらでもご案内したいと思います。


「鷹形金冠飾り」(戦国時代/金製/内モンゴル自治区博物館所蔵)

順路の冒頭に展示されていることもあってか、モンゴルの至宝展の金工芸品の中でも特に目立つものかもしれません。頭部にトルコ石のはめこまれた勇壮な雄鷹が、何やら虎視眈々と獲物を見定めるかのようにして立っています。ちなみに鷹の乗る半球台には、狼が羊に噛み付く場面が描かれているのだそうです。モンゴルの匈奴族の王冠の中でも随一の優品とのことですが、確かに紀元前3世紀頃のものとは思えないほどの眩い輝きを放っていました。



ところでこの飾りものが、金工工芸家の石川光一氏によって、何とレプリカとして制作されたことをご存知でしょうか。実際、上に掲載した写真こそレプリカに他なりませんが、おおよそ10キロ以上もの純金を用いて、実に精巧極まりなく模されています。(大きさはオリジナルの9割ほど。)会場で少し触れさせていただきましたが、ずしりと手の沈むような感覚はまさに金の重みそのものでした。

 

そのそばにさり気なく置かれていたプライスリストを見て驚きました。当然ではあるかもしれませんが、価格は税込みで18,900,000円です。また現在、この作品は、銀座メルサ3階の「銀座SGC」という金製品の専門店に展示されているそうです。興味のある方はお問い合わせ下さい。

銀座SGC(銀座メルサ)@SGC信州ゴールデンキャッスル


「金製鹿板り板」(東漢/金製/内モンゴル自治区博物館所蔵)他


「金製高足杯」(元代/金製/内モンゴル自治区博物館所蔵)他

ちなみにモンゴル展には金工芸品がいくつも登場しています。モンゴル文化と金工芸品の接点については意外な感がありました。


(展示会場風景)

なお何かと『謎めいた』モンゴルの至宝展の全体像については、近日中に別途の記事でまとめる予定です。
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「洛中洛外図屏風(舟木本)」(本館7室/VRシアター/リーフレット) 東京国立博物館

東京国立博物館台東区上野公園13-9
「洛中洛外図屏風(舟木本)」(本館7室/VRシアター/リーフレット)
作品展示:1/13~2/21、VRシアター:1/2~3/28

東京国立博物館の平常展で公開された「洛中洛外図屏風(舟木本)」(重文)を見てきました。

作品自体は過去に何度も展示されたことがありますが、この壮麗な屏風を存分に楽しむのは今が最もチャンスかもしれません。「洛中洛外図屏風」そのものはもとより、ミュージアムシアターで上映中の「今めぐる、いにしえの京都」、さらにはあわせて発売されたリーフレットが、さながら三点セットと化して作品の理解を深めてくれました。

1.「洛中洛外図屏風(舟木本)」(本館第7室 - 屏風と襖 - 安土桃山・江戸) 1/13~2/21



作品は本館の屏風室で展示中です。右に方広寺大仏殿、左に二条城の対峙する、17世紀初頭、おそらくは大坂の陣で豊臣家が滅びる前の京都の姿が描かれています。なお作者については諸説あるものの、かの岩佐又兵衛ということで認知されているようです。



上杉本でも同様ですが、やはり洛中洛外図と言えば、例えば祭りや名所などを捉えた情景と、細密極まりない人物描写から目が離せません。



いわゆる「異国人」が歩いている姿も描かれています。物珍しそうに見物する人々が連なっていました。



京都の夏を彩る祇園祭のシーンももちろん登場しています。



例の豊臣家滅亡の切っ掛けともなったと言われる。「国家安康・君臣豊楽」の鐘も描かれています。ちょうど鐘をつくシーンなのでしょうか。一人の男が威勢良く振りかぶっていました。

2.「今めぐる、いにしえの京都」(資料館・TNM&TOPPANミュージアムシアター) 1/2~3/28(期間中毎週金・土・日・祝日。当日予約制。上映スケジュール詳細。)



肉眼では判別しにくい舟木本の細部までを見事に再現したのが、ミュージアムシアターで上映中の「今めぐる、いにしえの京都」です。クリアな映像と明快な色彩、そして簡素ながらも美しい演出は、まるで屏風の中へ自分自身が入って旅しているかのような錯覚を引き起こします。目玉のバーチャルリアリティの効果は控えめですが、洛中洛外図の魅力を堪能出来るのは言うまでもありません。

なお現在、「リクエストシステム」として、事前に6つのシナリオから見たいものを選ぶことが出来ます。シナリオ一覧、またリクエストの結果などはミュージアムシアターのWEBサイトをご参照下さい。なお現状で人気なのは「今日の名所今昔」のようです。

3.「洛中洛外図屏風(舟木本)」リーフレット



洛中洛外図の世界を自宅で味わうのにこの上ない屏風型リーフレットが誕生しました。それが同館ミュージアムショップで発売されている「洛中洛外図屏風(舟木本)」リーフレットです。



ともかくもまずサイズに驚かされます。早速、自宅で開いてみましたが、一番右に置いたハガキと見比べていただければ、その大きさがお分かりいただけるでしょうか。実物大の4分の1、横90センチ、縦40センチの巨大な紙面上には、それこそVRシアターでも見たようなクリアな画質による屏風の光景が余すことなく写し出されていました。



もちろんこうして見るだけでも十分に満足し得るものですが、このリーフレットが『凄い』のは、裏面に単なる土産物の飾りの領域を越えた解説が詳細に記されていることです。ちなみに価格は超お値打ちの840円でした。にわかには信じられません。

最初にも触れましたが、「洛中洛外図屏風(舟木本)」を実物、デジタル、そしてリーフレットの三点で楽しめる滅多にないチャンスです。是非ともお見逃しなきようご注意下さい。
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「表慶館 アジアギャラリー」 東京国立博物館

東京国立博物館台東区上野公園13-9
「表慶館 アジアギャラリー」
2009/8/4-2010/1/31

耐震工事のため長期休館中の東洋館にかわって、ここ表慶館が「アジアギャラリー」として生まれ変わりました。東洋の彫刻・工芸・考古物などを展示する表慶館へ行ってきました。


エントランス。大きな案内板が設置されました。

広大でかつ、複雑怪奇な館内構成であったせいか、如何せん最後まで集中して見ることが出来なかった東洋館に対し、こちらの表慶館では展示品を絞って、ご自慢の美しいライトアップのもと、中国の青銅器や器、それに西アジアの立像などの様々な文物を、さながら手に取れるようなスケールにて紹介しています。展示スペースは表慶館の一階部分限定です。それこそ作品数は東洋館の時の数分の1程度に過ぎませんが、いくつかの見慣れた作品もまた場所を変えることで新鮮に感じられました。


館内配置図。三方のスペースにそれぞれ中国、朝鮮、東南アジア他、西アジアの文物などが展示されています。

【中国】


中国考古展示室。


「揺銭樹」(推定中国四川省・後漢時代)
死後の世界でも裕福に暮らせるようにと墓に納められた青銅製の組み立て木です。(キャプションより引用。)枝に銅銭などを飾っていました。透かし彫り風の精緻な文様が印象に残ります。


「藍釉粉彩桃樹文瓶」(景徳鎮窯・清時代)
深い藍色を背景に艶やかな桃の木が描かれています。その絵画的表現には目を見張るものがありました。


「白磁印花蓮花文鉢」(景徳鎮窯・元時代)
ミルク色をした美しい白磁の小鉢です。青磁にも良品がありましたが、私が惹かれるのはやはりこの温もりを感じさせる白でした。


「白磁鳳首瓶」(唐時代)
可愛らしい鳳が首の部分にのっかっています。あまり凝った造形ではなく、古代の土器を思わせるような意匠に親しみを感じました。

【エジプト・西アジア】


「山羊頭形リュトン」(イラン、ギラーン地方出土・アケメネス朝時代)
池袋のオリエント博物館の「ユーラシアの風」でも見たリュトンが東博でも展示中です。文字通り、山羊の頭が付けられています。


「ヘラクレス立像」(イラク、ハトラ出土・パルティア時代)
ギリシャ神話に登場する半神半人の英雄です。どっしりとした体躯で威圧的に立ちはだかります。

【インド・東南アジア】


インド・ガンダーラ彫刻展示室。


「ガネーシャ坐像」(カンボジア、ブッダのテラス北側・アンコール時代)
一際、異様な雰囲気を醸し出すヒンドゥー教の坐像です。頭が何と象になっています。謂れはキャプションに記載がありました。


「交脚菩薩像」(パキスタン、マルダン地区・クシャーン朝)
うっすらと笑みをたたえながら両足を交互に組んで座っています。流麗な着衣が艶やかでした。

【朝鮮】


朝鮮考古展示室入口。


「冠」(伝韓国慶尚南道出土・三国時代)
全展示品中でもっとも雅やかな作品です。側面には立ち飾りがまるで蔓のようにのびています。随所にぶら下がる金の板は歩揺と呼ばれ、王はそこから鳴る音を自らの威厳の象徴ともしていました。

なお彫刻、工芸の他、今回表慶館で展示されていない作品(特に絵画)については、今後、本館の特集展示などで紹介していくそうです。



来年1月31日まで開催されています。

注)平常展は指定されている作品を除き、全て写真の撮影が可能です。
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「平常展 - 書画の展開 - 安土桃山・江戸 他」(2009年9月) 東京国立博物館

東京国立博物館台東区上野公園13-9
本館平常展(7~8室) - 屏風と襖絵、書画の展開 - 」(2009年9月)
8/25~10/4

特別展の間の中休みと言った様相の東京国立博物館ですが、平常展の装いはすっかり秋になっています。本館2階、江戸絵画のコーナー、第7室と第8室の「屏風と襖絵/書画の展開」を見てきました。

【書画の展開】(8室)





「秋草白菊図屏風」筆者不詳(江戸時代)
ススキなどのお馴染みの秋草に、非常に存在感のある白菊がむせるように咲き誇ります。秋の雰囲気を楽しむというよりも、菊花を愛でる作品と言えるかもしれません。

 

「芙蓉泛鴨図」 渡辺崋山(江戸時代)
颯爽たる線にて池に鴨の泳ぐ姿が描かれています。うっすらとピンク色を帯びた芙蓉の質感は重々しく、今にも池に落ちてしまいそうでした。鴨の飄々とした様子も好印象です。



「月に秋草図」長谷川雪旦(江戸時代)
中央に中秋の名月を、そして右に麦、左に稲や粟を描いています。キャプションによれば、右から月を挟んで順に収穫される作物を並べているのだそうです。

 

「牽牛花・葡萄栗鼠図」曽我蕭白(江戸時代)
いかにも蕭白らしい脱力系の描写が逆に面白さを与えています。何らかの余興で描いたのかもしれません。栗鼠がひょいっとぶどうの蔓にぶら下がっていました。





「秋草鶉図」土佐光成(江戸時代)
こちらは蕭白とは一転して、厳格な描法にて定番の秋草と鶉の風景を描いています。光成は光起の子で宮廷の絵師として活躍しました。



「秋海棠図扇面」佐脇嵩之(江戸時代)
今回の8室のハイライトはこれら数点登場する扇面画に他なりません。銀地に濃い顔料にて秋海棠を示しています。





「武蔵野図扇面」酒井抱一(江戸時代)
真打ち抱一の扇面画も展示されていました。草が流麗に靡く様子は夏秋草図の秋草を連想させます。うっすらと散る金砂子が華やかさを演出していました。

【屏風と襖絵】(7室)





「蔦の細道図屏風」深江芦舟(江戸時代)
芦舟の名作も展示中です。伊勢の第九段、宇津の山のシーンが描かれています。





「芦雁図屏風」筆者不詳(江戸時代)
金地を背景に、水辺へ群れるのは何羽もの雁でした。飛来するもの、また羽を休めるものなど、一見静かなようでも、至る所に動きを感じさせる作品です。

激しい混雑の予想される次回の「皇室の名宝」を前に、静まり返った空間で見る平常展もまた良いのではないでしょうか。

10月4日までの開催です。

注)平常展は指定されている作品を除き、全て写真の撮影が可能です。
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「平常展 - 雨宿り図屏風(英一蝶)他」(2009年6月) 東京国立博物館

東京国立博物館台東区上野公園13-9
本館平常展(7~8室) - 屏風と襖絵、暮らしと調度、書画の展開 - 」(2009年6月)
屏風と襖絵、書画の展開:6/2~7/12、暮らしと調度:5/19~8/2

日本美術関連としては過去最多の入場者を記録した阿修羅展(92万6172名)が先日閉幕しましたが、何も東博の魅力はこうした特別展だけにあるわけではありません。阿修羅終了後、静けさを取り戻した館内で見る平常展もまた良いのではないでしょうか。本館2階、江戸絵画コーナーの一角で印象に深かった作品をいくつか写真におさめてきました。

【屏風と襖絵】(第7室 6/2~7/12)

「雨宿り図屏風」英一蝶



突然の驟雨に見舞われた中を、人々が慌てて屋根の下に駆け込んで肩を寄せる姿が描かれています。心配そうに雨を眺める者から、何やら楽しそうに談笑する者、または退屈してしまったのか、門の中で遊ぶ子どもらが生き生きとした様子で表現されていました。



黒い犬の表情が何やら怪し気ですが、唐突に登場する赤い獅子もまた不気味です。何者でしょうか。

「歌舞伎図屏風」(重文)菱川師宣



芝居小屋「中村座」の舞台から観客席、それに楽屋から茶屋までが、人々の集う熱気までをも伝えるかのように描かれています。



忙し気な楽屋でのシーンが鳥瞰的に示されています。次々と繰り広げられる情景描写には思わず目移りしてしまいました。



花見の席でのばか騒ぎは今も昔も変わらないようです。

【暮らしと調度】(第8室 5/19~8/2)

「染付吹墨月兎図皿(伊万里)」



初期伊万里の名品では、可愛らしいウサギの描かれた一枚が目に留まりました。上部の月と下方のウサギ、そして銘までが、あたかも皿の中を回転するかのような収まりよい構図で描かれています。

【書画の展開】(第8室 6/2~7/12)

「山水図屏風」狩野探幽



余白を十分に活かし、広がりある空間を作り上げた長閑な山水図です。中央に湖を配し、右に切り立つ岩山、また正面に楼閣と、整理された風景にも探幽画らしい几帳面な部分を感じます。所々に散る金砂子が微かな光をまとっていました。

「花鳥図」英一蝶

 

上記屏風でも目立った英一蝶の風流な花鳥画です。写実すら思わせる花や枝にちょこんと鳥が乗っています。板橋の一蝶展が待ち遠しくなってきました。

「宇治蛍狩図」酒井抱一



実は下調べもせずに出向いたので、まさかの抱一の登場に胸が高まりました。目に眩しいほどに鮮やかな彩色は、蛍狩りをする男女を華やかに演出します。



抱一というよりも光琳の様式を連想させる作品かもしれません。

「竹図」池大雅



何気にも今回一番惹かれた作品はこれです。颯爽たる墨の線描が、竹の漲る生気を見事に表します。

なお昨日は前述の阿修羅展閉幕と合わせ、東洋館が長期改修工事に入る前の最後の公開日でもありました。なお工事は数年の長期にわたるため、その間の館蔵品は表慶館で紹介されます。東洋館は外見以前に、内部空間にも良い印象がなかったので、借景に優れた表慶館での展示に期待したいと思いました。

「東洋館休館」(弐代目・青い日記帳):こちらの記事が参考になります。

上記の作品は全て次の特別展、ともに7月14日から始まる「伊勢神宮と神々の美術」「染付展」の始まる前に展示が終わります。また阿修羅の半券をお持ちの方は、入口で提示すると平常展の入場料が半額の300円(6月28日まで)になります。そちらも合わせてご活用下さい。

注)平常展は指定されている作品を除き、全て写真の撮影が可能です。
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「遠藤利克 - 『無題』」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館千代田区北の丸公園3-1
「遠藤利克 - 『無題』」(常設展ギャラリー4「木に潜むもの」)
3/14-6/7

「木」や「水」を用いて、彫刻を超えた静謐な空間を演出します。常設展ギャラリー4、特集展示「木に潜むもの」に展示されていた遠藤利克の作品を見てきました。



やや照明の落とされた展示室の中央にぐるりと一周、円を描くのは、上部の窪みに水のたたえられた22本の木でした。白い壁を借景に、床面へ伸びる影を従えたそれらは、まるで祭祀的な空間を作り上げるかのように立ち並んでいます。その神聖な気配にのまれてしまいました。



おそらく偶然ではあるのかもしれません。床の色、もしくは格子状の天井までが、偶然にも作品と良く釣り合っています。



しばらく見ていると、その凛とした空気に心が洗われるような気がしてきます。円環というシンプルな造形の内部には、アニミズム的霊魂の力がこめられているのかもしれません。



SCAIの個展、またハラミュージアムアークの常設で惹かれて以来、久々に遠藤の作品とじっくり向き合うことが出来ました。

開催中の常設展は6月7日までです。

注)常設展示は一部作品を除き、許可制にて写真撮影が可能です。
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「岡村桂三郎 -『白象図』/『黄象』他」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館千代田区北の丸公園3-1
「岡村桂三郎 -『白象図』/『黄象』他」(所蔵作品展
3/14-6/7

西洋画や日本画の印象が強い東近美常設展ですが、現代アートのコレクションも見逃せないものがあります。鎌倉(神奈川県美)の個展の記憶も新しい岡村桂三郎が紹介されていました。



本館2階「第5章」、現代美術コーナーでの登場です。近美でも一際大きな空間を用いての展示でした。さながら「岡村ルーム」とも言えるのではないでしょうか。



「黄象」。対峙するのはこれから格闘を始めようとする象でしょうか。



少し寄って接写してみました。切り刻まれたパネル表面の『鱗』は生々しく、鋭く剥き出た牙を見せながら、じろりとこちらを睨んでいました。

またこの他にも常設展内ギャラリー4、特集展示の「木に潜むもの」でも岡村のパネル画が一点展示されています。



「玄武」。92年の作品です。上の「象」のイメージとはやや異なりますが、そのモチーフはまるで太古に生きる幻獣のようです。荒々しい『傷跡』に存在の重みを感じました。

埼玉県美のニュー・ヴィジョン、そして前述の神奈川県美で一気に惹かれた氏の作品ですが、それらが基本的に暗室であったのに対し、今回はごく普通の明るい照明の下での展示になっています。その差異にも興味深く感じられました。

常設展は6月7日までの開催です。

注)常設展示は一部作品を除き、許可制にて写真撮影が可能です。

*関連エントリ
「岡村桂三郎展」 神奈川県立近代美術館 鎌倉
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「特別公開 横山大観『生々流転』」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館千代田区北の丸公園3-1
特設ギャラリー「特別公開 横山大観『生々流転』」(常設展)
1/20-3/8



東近美ご自慢の傑作が公開中です。東京国立近代美術館の所蔵作品展より、横山大観の「生々流転」を見てきました。

(向こう側の壁まで続きます。この長さで一巻です。)

毎年公開されているので目新しさこそありませんが、全長40メートルにも及ぶ一大絵巻はさすがに見応えがあります。大気より川が生成し、生き物たちの競演を経て、人里離れた大海原の彼岸にて龍が舞うという壮大なスケールを、大観は細やかなタッチにて表しました。同美術館の常設は事前に申し出れば撮影が可能です。以下、水の旅を追体験してみました。


大気の生成。靄が滲み、木々を覆います。朦朧体を駆使した大観ならではの茫洋たる表現です。


一筋の水は川を生み出しました。切り立つ崖を洗って勇ましく進み始めます。


猿の家族がひょっこり顔を見せていました。


いよいよ人間の登場です。山深き桟橋にて木こりが薪を運びます。


山を抜け、川は平地へと到達しました。大河となり悠々と流れ出します。


河口付近。舟を力一杯引く漁夫たちの姿も確認出来ます。


二羽の海鳥が彼方を見つめていました。波のうねる海はここで彼岸の世界へと進み行きます。


激しくのたうちまわる波頭から龍が舞います。水の旅はこの後登場する巨大な渦に巻き込まれて終焉を迎えました。

なお「生々流転」の画像は、以下のリンク先でも紹介されています。そちらも合わせてご覧ください。

「生々流転」(東京国立近代美術館特設コンテンツ)

3月8日までの公開です。
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伊藤若冲 「松梅群鶏図屏風」 東京国立博物館

東京国立博物館台東区上野公園13-9
平常展・本館2階(日本美術の流れ)8室「書画の展開 - 安土桃山・江戸 - 」
伊藤若冲 「松梅群鶏図屏風」

妙心寺展にて奇想の金字塔を見るかのような「老梅図襖」が注目を集めていますが、本館常設にも同じく奇想と言えば外せない伊藤若冲の大作屏風がお目見えしています。「松梅群鶏図屏風」を見てきました。


右隻。右上に走るのは棕櫚でしょうか。そういえば先日発見された「象鯨図屏風」にも同じような植物の表現がありました。


左隻。やや様式化された嫌いはありますが、お馴染みの鶏たちが歌舞伎役者の如く大見得を切っています。


石灯籠部分拡大。対決展に出ていた「石灯籠図屏風」同様、点描によって示されています。


灯籠の上にのる鶏。若冲にかかればどんな場所でも立ち止まることが可能です。


確か「動植綵絵」の鶏にもこのようなポーズがありました。


卵形の鶏たち。何故か皆困った顔をしてソワソワしています。


尾はまるで書の味わいです。

松に梅とお目出度いモチーフばかりとのことでお正月向けなのかもしれません。残念ながら公開は明後日(25日)で終わりです。お見逃しなきようご注意下さい。

*関連エントリ(妙心寺プレビュー)
「特別展 妙心寺」 東京国立博物館(その2・展示全般)
「特別展 妙心寺」 東京国立博物館(その1・速報『江戸絵画』)
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A Day in the Museum@国立西洋美術館(2009年1月)

毎年このようにして無料で開放されているのでしょうか。無料開館日の新春2日、国立西洋美術館での常設展示を見てきました。

「A Day in the Museum - 美術館へ行こう」(美術ファンクラブ)

以下、いつものように惹かれた作品をいくつかアップしてみます。ちなみにご存知の通り、同館常設展は、フラッシュを用いなければ展示品の全てが撮影可能です。



ジョルジョ・ヴァザーリ「ゲッセマネの祈り」(1570)
あまりにも有名な新約のワンシーンです。眠りこける三人の使徒をよそに、天使に祈りを捧げるイエスの姿が描かれています。また左奥から闖入してきているのは、イエスを捕まえようとユダに引き連れられた群衆です。ヨハネの魅惑的な表情に惹かれる方も多いのではないでしょうか。



ヘーラルト・ダウ「シャボン玉を吹く少年と静物」(1635)
ともかく籠の表面を見て下さい。とても絵画とは思えません。高い質感表現で魅せるダウ渾身の力作です。



グイド・レーニ「ルクレティア」(1636~1638)
短剣を右手もとに置き、これから自殺しようとするルクレティアの虚ろな表情が印象に残ります。自殺という一つの劇的なイベントより、青白い裸体、もしくはシーツなどの質感表現にも見入るべき点の多い作品です。



ダフィット・テニールス(父)「ウルカヌスの鍛冶場を訪れたヴィーナス」(1638)
「鍛冶の神ウルカヌスがヴィーナスに請われて、彼女の息子のアエネアスのために武器を鋳造」(所蔵作品検索より引用)しています。また今回は展示されていませんでしたが、テニールス(子)の「アントニウスの誘惑」も魅力ある一枚ではないでしょうか。西美でいつかテニールス親子の企画展があればと願うところです。



アンリ・ファンタン=ラトゥール「花と果物、ワイン容れのある静物」(1865)
静物画、とりわけ花卉画に佳作の多いファンタン=ラトゥールの作品です。桃の表面の毛羽立った質感までが巧みに表現されています。深い紅色のワインも美味しそうです。



ダンテ・ガブリエル・ロセッティ「愛の杯」(1867)
彼女の掲げる愛の杯を飲み干すのは誰でしょうか。アーサー王伝説に取材したロセッティを代表する見事な一枚です。彼女に会わないと西美に来た気がしません。



ギュスターヴ・クールベ「波」(1870)
クールベの「波」は各種ありますが、私の中での基準作は紛れもなくこれです。大きく曲線を描き、波頭の割れる様を描いた波の力強さは比類がありません。ちなみに本作は、印象派の画家たちを魅了した英仏海峡のエトルタで描かれていると考えられています。



アルフレッド・シスレー「ルーヴシエンヌの風景」(1873)
私の偏愛の画家、シスレーが出ていました。比較的、構図、また細部に秩序だった点の多い初期の頃の作品です。ちなみに意外にも国立美術館にはシスレーがこれ一枚しかありません。



クロード・モネ「雪のアルジャントゥイユ」(1875)
雪景色を描いてモネにかなう画家など存在しません。パリ近郊、セーヌ河側のアルジャントゥイユを描いています。モネはこの街で約7年間滞在しました。何度見てもその美しさに心打たれます。



ピエール・ピュヴィ・ド・シャヴァンヌ「貧しき漁夫」(1881)
オルセー所蔵の異作として知られる作品だそうです。灰色を帯びた抑制的な色遣いの中に、川面に浮かぶ一艘の小舟と漁夫、そして子供が描かれています。漁夫にイエスのイメージが重なることは言うまでもありません。あたかもこれから十字架にのぼる姿であるかのようです。



ポール・シニャック「サン=トロぺの港」(1901)
スーラとシニャックに甲乙をつけるのは困難ですが、今回はシニャックに良い作品が出ていました。やや大きめの描点が、光に包まれた地中海の港町をのびやかに表しています。



エドゥアール・ヴュイヤール「縫いものをするヴュイヤール夫人」(1920)
見慣れた西美常設作品のも多い中、今回初めて惹かれた一枚かもしれません。暖色系のタッチが何気ない日常の幸福感を醸し出しています。

なお西美のHP上で先日、次回企画展以降、2010年度末までのスケジュールが発表されました。

今年の展覧会・イベントラインナップ!!(PDF)

ルーヴル美術館展(2009/2/28-6/14)
古代ローマ帝国の遺産(2009/9/19-12/13)
フランク・ブラングィン展(2010/2/23-5/30)


注目のルーヴルももちろん外せませんが、もう一つ目を引くのは松方コレクションとも縁の深いイギリス人画家、フランク・ブラングィンの回顧展です。ちなみに2006年には同館で彼の版画展も開催されています。ご記憶の方も多いのではないでしょうか。

かねてより新館閉鎖中のため、本館のみでの展示でしたが、質量ともに違和感なく楽しむことが出来ました。さすがにこの日は無料のため、それなりに混み合っていましたが、ルーヴル開催前までは静かな環境で珠玉の西洋絵画に触れられる格好のスポットともなりそうです。
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博物館でお花見を@東京国立博物館 (2008年3月)




先日、薬師寺展がはじまったばかりの東京国立博物館ですが、現在「博物館でお花見を」と題し、夜間開館(夜8時まで。)の他、夜桜ライトアップや、常設での桜に因んだ作品の展示などが行われています。昨日、夜間開館時に出向くことが出来たので、本館常設より関連の作品の写真をいくつか撮ってきました。


「月に桜花図つば」(19世紀)
目立たない刀の鍔に桜を忍ばせています。向き合う月との対話が微笑ましくも見えました。



 
「花下遊楽図屏風」 狩野長信 (17世紀)
国宝室から。右隻が桜です。牡丹雪のような白い桜が木々を彩ります。なお、右隻中央の余白は、震災にて失われてしまった部分だそうです。


「吉野山蒔絵小箪笥」(19世紀)
流水に桜の文様の組み合わせ。取っ手の部分までが桜の花びらであしらわれていました。


「桜蒔絵十種香道具」(19世紀)より
霞の漂う大和絵に咲く桜です。


「松桜南天苫屋柄鏡」(17-18世紀)
桜の老木が鏡を彩ります。

 
「観桜図屏風」 住吉具慶 (17世紀)
公卿の優雅なお花見です。屠蘇で一杯というのがたまりません。このシチュエーションには素直に憧れます。

 
「桜花図」 円山応挙 (18世紀)
非常に精緻な筆で描かれた、応挙ならではの写実的な桜です。小鳥は別の枝へと移ろうとしているのでしょうか。今にも飛び出しそうな様子を見せています。


「小袖」(18世紀)
枝が途中で途切れているように見えますが、これは雲から覗き込む桜を表現しているのだそうです。金糸が目に焼き付きます。


「打掛」(部分)(18世紀)
まさにモダンな意匠です。リズミカルに花びらが舞っています。


「北郭月の夜桜」 歌川国貞(19世紀)
吉原の花街の夜桜。大変な人だかり。賑わいは夜になってからが本番です。

 
「簪」(19世紀)
鳳凰より金銀の桜の花びらの垂れるかんざしです。似合う女性もまたきっと素敵でしょう。


「三囲花見」 喜多川歌麿 (1799)
歌麿に花見を描かせると場に躍動感が加わります。粋な花見です。

 
「名所江戸百景・日暮里諏訪の台」(部分) 歌川広重 (1856)
150年前も今も花見の光景は殆ど変わりません。まさに花より団子状態です。

開放中の庭園で、夜桜のライトアップを楽しんできました。上野公園は既に大変な人だかりでしたが、こちらはそれほどでもありません。夜桜くらいは静かに味わいたいものです。

 

薬師寺展も夜間は大変に空いているそうです。既に昼間は平日でもかなりの入場者があると聞きますので、もしかしたら夜間開館中の今が狙い目なのかもしれません。

東京国立博物館の夜間開館は4月6日までです。(月曜休館)

*関連エントリ
東京国立博物館で「国宝 薬師寺展」がはじまる
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お正月の東博にて。(2008年1月)

平常展の写真ツアーです。やはり正月に因むということもあるのでしょうか。吉祥主題の作品が多く展示されていました。


「黒楽鶴亀文茶碗」(19世紀) 仁阿弥道八
艶やかな黒楽に吉祥主題の組み合わせ。亀は見込み部分に描かれています。ありがたいお茶碗です。


「色絵月梅図茶壺」(17世紀) 仁清
まさに壮麗。豪華な金碧障壁画を見ているような味わいがあります。


「蹲花入」(16世紀) 信楽
人がうずくまっているように見えることから、このような名前がつけられたのだそうです。私にはどちらかというと人が肩をすくめているようにも見えますがどうなのでしょうか。


「比叡山」(1919) 速水御舟
霧に包まれた朝の叡山でしょうか。隆々とそびえ立っています。


「京名所八題」から(1916) 前田青邨
京名所を全八景にて捉えた墨画です。京町家の連なる光景が俯瞰的に描かれています。構図の勝利です。


「菩薩立像」(7世紀)
この時期では珍しい木彫の仏像です。エキゾチックな出で立ちをしています。


「織部向付」(17世紀)
形の遊び。蝶が羽を開いてとまっているようにも見えました。

 
「波涛図屏風」(1788) 円山応挙
今回の常設で一推しの作品です。弛みのない緊張感が、波を神々しい様にまで昇華させています。


「猩々舞図」(19世紀) 鈴木其一
抱一の様式を色濃く残しているようにも見えます。


「二見浦曙の図」(19世紀) 歌川国貞
眩しいばかりの朝焼です。絵の中の動きが巧みです。動画を見るかのようでした。

展示室がかなり混雑していたので撮影は遠慮しましたが、毎年恒例、国宝室での、等伯「松林図屏風」もしばらく眺めてきました。残念ながら、私は未だこの作品の魅力に気が付かないでいますが、今年は少なくとも左隻における空間の妙には少し触れられたような気がします。反面、右隻にはまだ「無」が大き過ぎました。(「松林図」は14日までの展示です。)

展示品の詳細等については公式HPをご参照下さい。

*関連エントリ
「博物館に初もうで(子年に長寿を祝う/吉祥 三寒三友を中心に)」(現在開催中の特集展示、及び陳列。)
東博で見たもの、写したもの。(2007年8月)
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東京国立近代美術館コレクションより (2007年9月)

先々月、東博の常設展を私の拙い写真でご紹介したことがありましたが、今回は竹橋の近代美術館のそれを挙げてみたいと思います。ちなみにこの美術館では常設展に限り撮影が可能ですが、まず先にその旨を受付に申し出る必要があります。ご注意下さい。


川上涼花「鉄路」(1912)
全く未知の作家でしたが、この閉塞感漂う構図と筆遣いには惹かれました。燃えるようなタッチにて丘を進む線路を力強く描いています。


古賀春江「海」(1929)
和製シュルレアリスム作家(と呼んで良いのでしょうか。)、古賀春江の代表作です。なかなかまとまって見る機会がありません。一度、回顧展に触れてみたいものです。


パウル・クレー「花ひらく木をめぐる抽象」(1925)
近美では数点のクレーを所蔵しているようですが、その中ではこれが一番美しい作品です。モチーフの妙はもちろんのこと、厚紙を使ったその質感も見事だと思います。


ジャン・アルプ「地中海群像」(1941)
行く度に、思わず撫でたくなってしまうようなアルプの彫刻です。見る方向、角度によってその表情が驚くほど変化します。(後ろから撮ってみましたが、この方向だと二人の男女が楽しくダンスをしているように見えませんか。)何度見ても飽きません。


須田国太郎「蔬菜」(1932)
サーモンピンクにも照る重厚なマチエールが心に迫ります。ここで見た須田の回顧展は格別でした。


中村研一「北九州上空野辺軍曹機の体当りB29二機を撃墜す」(1945)
戦争画です。今回の常設で一番衝撃を受けた作品かもしれません。モネを思わせる美しい空に見ることが出来るのは、何と錐揉みして落下する二機の戦闘機の姿でした。その美しさと画題のミスマッチはある意味で犯罪的ですらあります。


松本竣介「Y市の橋」(1943)
いつもついつい時間をかけて見入ってしまう作品です。4点確認されている「Y市」でも特に優れているのではないでしょうか。


徳岡神泉「赤松」(1956)
何となしに福田平八郎の世界を思わせます。抽象的で控えめな松林です。静寂に包まれます。


リチャード・セラ「オルソン」(1986)
ドローイングかと思いきや、シルクスクリーンの作品でした。焦げ跡のような黒い面がシャープに空間を横切っていきます。


ジュリアン・オピー「日本八景より(国道百三十六号線から見る雨の松崎港)」(2007)
オピーの新作ビデオインスタレーションです。ぼんやりと眺めるのが一番よさそうです。


マックス・エルンスト「つかの間の静寂」(1953)
「崩壊感覚」(ギャラリー4)に出ている作品です。これは一推しです。

この他、川端龍子の「草炎」などにも強く惹かれましたが、照明の写り込みも激しく、うまくおさめることが出来ませんでした。また戦前戦後の大家の作品だけでなく、丸山直文や上に挙げたオピーなどの現代アートを楽しめるのも良いところだと思います。

「所蔵作品展『近代日本の美術』」は、10月21日までの開催です。
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酒井抱一 「秋草図屏風」 東京国立博物館

東京国立博物館
平常展・本館2階(日本美術の流れ)8室「書画の展開 - 安土桃山・江戸 - 」
「酒井抱一 - 秋草図屏風 - 」

ようやく風に秋を感じる気候になってきましたが、東京国立博物館の平常展でも秋を見る抱一の名品が展示されています。それがこの「秋草図屏風」(もしくは「月に秋草図屏風」)です。金地の上に鈍く光る月を背景に、たらし込みも瑞々しい秋草がのびやかに駆けていました。


屏風の全体です。蛍光灯の写り込みが激しかったので、少し斜めから撮りました。秋草が上方と右方向へ群れるようにのびています。


浮かぶというよりも、ドンとのしかかるように存在感のある月です。秋草が一部、月に届いています。


墨、または彩色のツートンカラーの葉が絡み合います。すすきはうっすらとしたピンク色を帯びていました。


タッチは決して細やかではありませんが、群れる草花を色の濃淡によって巧みに表現しています。


葉がまるで透き通るかのようにに描かれています。それにすすきの葉はリズミカルです。秋草全体を奥から支えています。


屏風、右下部へのびる蔓です。まるでそれ自体が生きているかのように余白部分へと進んでいます。線は殆ど即興的な感覚です。

保存状態の要因もあるのかもしれません。金屏風にしてはやや地味な、言い換えればあまりきらびやかな作品ではありませんでした。ただそれも、仄かな月明かりに照る夜の秋草の風情、ととれば納得出来るのではないでしょうか。また、秋草の生い茂る地点こそ土の存在を示唆させるような表現がとられていますが、その他、上方や右へとのびる草は、一体それがどこにあるのかが分からないような、あたかも一種の非現実的な空間に置かれているような印象を受けます。これはあえて言えば、月にかかる上方の草が空間の奥へ、また右へのびゆくそれが手前部分へと迫出しているとも出来るのかもしれません。殆どシンボリックな月の存在も含め、この屏風の三次元的空間はかなり錯綜しています。

「夏秋草」に抱一一流の完成された美があるすれば、この「月に秋草図」はそれと対照的な『ゆるみの美』の極致が表現されているとも言えるでしょう。見れば見るほどやや謎めいた印象も受ける、実に味わい深い作品でした。

10月8日まで展示されています。(この他、抱一の書状も出ていました。)
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