「東京ガーデンテラス紀尾井町」パブリックアート

7月27日、グランドプリンスホテル赤坂跡地にオープンした東京ガーデンテラス紀尾井町。施設内には国内外の現代美術家によるパブリックアートが設置されています。


東京ガーデンテラス紀尾井町
http://www.tgt-kioicho.jp

まずは紀尾井タワーの入口です。ちょうど赤坂見附から弁慶濠を越え、ホテルニューオータニの真向かいに位置する場所です。花の広場と名付けられたスペースが広がっています。


大巻伸嗣「Echoes Infinity〜Immortal Flowers」 2015-2016年

カラフルなオブジェが出迎えてくれました。大巻伸嗣の「Echoes Infinity〜Immortal Flowers」です。高さは8メートルと巨大。モチーフは花と蝶でした。一際華やかです。色鮮やかに咲いては舞っています。


大巻伸嗣「Echoes Infinity〜Immortal Flowers」 2015-2016年

また大巻は花の広場の右手、テラスの小道にも作品を設置しています。同じく花に蝶が寄り添っていました。

さてパブリックアートは1つを除いて全て屋外。ちょうどタワーを中核にしてぐるりと外周部を囲むように点在しています。


青木野枝「空玉/紀尾井町」 2016年

テラスの小道から空の広場へと進んでみました。すると一番高い地点に青木野枝の「空玉/紀尾井町」があることが分かります。おなじみのコルテン鋼による彫刻です。まるで泡のようなリングが軽やかに連なっています。「水が地から上昇し、また戻ってくる世界」(パンフレットより)を表しているそうです。


坪田昌之「the wind of self」 2016年

その左手、住居棟こと紀尾井レジデンスの入口には坪田昌之の「the wind of self」が控えていました。横から見るとほぼ長方形です。水流のような無数の切れ込みが入れられています。素材は大理石でした。周囲に吹き抜ける風を表現しています。


赤坂プリンスクラシックハウス

かつてのプリンスホテル時代、旧館として親しまれた旧李王家東京邸が、赤坂プリンスクラシックハウスとして生まれ変わりました。


名和晃平「White Deer」 2016年

この洋館の前に位置するのが名和晃平の「White Deer」です。巨大な鹿の彫像。高さは6メートルほどです。首を捻り上げては見る者を威圧するように立っています。鹿の剥製を3Dスキャンして得られたデータを元に制作されました。


隠崎麗奈「ヨヨ」 2015-2016年

またクラシックハウスではもう1つ、隠崎麗奈の「ヨヨ」も可愛らしい。モチーフは純白の真珠です。ちょうど雫の形をしていました。


竹田康宏「息吹く朝」 2016年

ハウスのさらに奥へと進みます。視界のやや開けた丘が広がっていました。芽生えの庭です。ここでは竹田康宏の「息吹く朝」が木陰に隠れるように設置されています。芽生えの場に相応しく、植物の若芽や蕾をイメージしています。


ジュリアン・ワイルド「System No.31」 2016

ビオトープとして整備されたのが光の森です。鬱蒼とした木立です。足元には小川も流れています。その中に現れるのがジュリアン・ワイルドの「System No.31」でした。楕円形の彫刻。素材はステンレスです。銀色に輝いています。蜘蛛の巣なども連想させるのではないでしょうか。


東京ガーデンテラス紀尾井町「芽生えの庭」

最後の1点、西野康造の「空の記憶」はタワーオフィスエントランス内にありました。チタン合金による軽やかな作品です。曲線上のフォルムが美しい。船が浮かんでいるようにも見えます。ただしこちらは建物内のため撮影は出来ません。(観覧は可)


東京ガーデンテラス紀尾井町

東京ガーデンテラス紀尾井町に登場した8つのパブリックアート。永田町駅からは地下通路で直結。赤坂見附駅から地下道を歩いてもさほど時間はかかりません。都心へお出かけの際に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

「パブリックアート」 東京ガーデンテラス紀尾井町
参加作家:大巻伸嗣、青木野枝、坪田昌之、名和晃平、隠崎麗奈、竹田康宏、ジュリアン・ワイルド、西野康造
オープン:2016年7月27日(水)
住所:千代田区紀尾井町1−2
交通:東京メトロ南北線・半蔵門線・有楽町線永田町駅9a出口直結。東京メトロ丸ノ内線・銀座線赤坂見附駅D出口より徒歩3分。
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大友良英+青山泰知+伊藤隆之「without records - mot ver. 2015」 MOTコレクション

MOTコレクション(東京都現代美術館)
大友良英+青山泰知+伊藤隆之「without records - mot ver. 2015」
2015/11/7-2016/2/14



東京都現代美術館で開催中のMOTコレクション、「大友良英+青山泰知+伊藤隆之『without records - mot ver. 2015』」を見て来ました。



92台の古びたポータブルレコードプレイヤーの立ち並ぶアトリウム。全てはポールの上に置かれ、高さも様々です。さながらプレイヤーの林と化した空間が広がっています。

色々な音が聞こえてきました。まるで船の汽笛のようなブーという音。と思いきやにわかにガチャガチャと機械同士が擦れるような音が鳴り出します。ゴー、あるいはザーといったノイズも頻繁です。さらにはポン、カンといった金属的な音が響きました。何やらししおどしを連想したのは私だけでしょうか。ともかく無数の音という音が次々と変化しては鳴り続けます。



種を明かせばこれらは全て機械自体、すなわちプレイヤー自身が発する音。何もターンテープルにレコードが回っているわけではありません。

作家の大友良英は演奏家、ないしは作曲家として活動。近年は「映画やドラマ音楽の分野でも才能を発揮」(キャプションより)しています。



共作者は美術家の青山泰知とプログラマーの伊藤隆之です。コンセプトは「ノイズ/即興/アンサンブル」。確かに聞いているといずれの要素も含まれていることが分かります。



プログラムによる音は再生する度に組み合わせが変わり、同じシーンが再現されることは一度もないそうです。賑やかでかつ突如、静かになる音は、確かに自律的です。生命の躍動感すら感じられます。



プレイヤーの林が奏でる音の森。天井高のあるアトリウムのスペースを効果的に利用しています。しばし音に耳を傾け、また忙しなく動くプレイヤー自身の動きに目を向けては楽しみました。



2016年2月14日まで開催されています。

「MOTコレクション アトリウム・プロジェクト 大友良英+青山泰知+伊藤隆之の『without records - mot ver. 2015』 東京都現代美術館@MOT_art_museum
会期:2015年11月7日(土)~2016年2月14日(日)
休館:月曜日。(ただし11/23、1/11は開館)。11/24、1/12。年末年始(12/28~1/1)。
時間:10:00~18:00。
 *入場は閉館の30分前まで。
料金:一般500円 、大学生・65歳以上400円、中高生250円、小学生以下無料。
 *企画展チケットで観覧可。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。

*写真は全て大友良英+青山泰知+伊藤隆之の「without records - mot ver. 2015」。この作品のみ撮影が出来ました。
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速水御舟「菊花図」 世田谷美術館

現在、世田谷美術館で開催中の「速水御舟とその周辺」展。没後80年を迎えた速水御舟を中心に、師の松本楓湖や兄弟子の今村紫紅、同輩の小茂田青樹をはじめとした一門の画家らを参照。御舟の画業を師弟や門人との関係から追っています。



「速水御舟とその周辺ー大正期日本画の俊英たち」@世田谷美術館
会期:5月2日(土)~7月5日(日)

私も既に一度、GW過ぎに展示を見ましたが、その際にはチラシ表紙(上画像)を飾る「菊花図」が出ていませんでした。つまり期間限定、後期のみの出品だったわけです。6月2日(火)より「菊花図」が公開されています。

「菊花図」は冒頭での展示です。思いの外に小ぶりの屏風でした。形式としては4曲1双、高さは各93センチに横幅は182センチです。金地の平面に黄色や赤などの菊が描かれています。菊が横へ連なり、また上下に段差をもって広がる構図は、光琳の「燕子花図屏風」を連想させる面もあります。

ただしここには光琳画の特筆である装飾性よりも、写実、ないしはそれを通り越した、御舟独特の濃密、あるいは執拗なまでの細密表現を見て取ることが出来ました。

御舟が「菊花図」を制作したのは1921年。ちょうど結婚した27歳の時です。前年には「京の舞妓」を完成させ、いわゆる写実表現にのめり込んでいた頃。「菊花図」においても同様に写実を追求しています。「北方ルネサンスの画家・デューラーの影響」(本展カタログより)を指摘される作品でもあります。

まず目に飛び込んで来たのが、鮮やかな菊の色彩、そして花弁の細かな表現です。花びらは一枚一枚、やや強めの輪郭線に象られています。また花は生々しい。劇画調と言ったら語弊があるでしょうか。何やら熱気のようなものが伝わってきます。とは言え、中には今にも萎れて丸まり、朽ち落ちてしまうような花もありました。色は意外と透明感があります。図版では濃い水色に見える菊もかなり白が混じっていました。

一方で葉の質感は重い。何層にも色を塗り重ねたのかもしれません。緑に茶色が混じっています。そして菊はいずれも針金のような棒で支えられていました。

「菊花図」にあわせて「菊写生帳」も展示されていました。こちらは「菊花図」に先立つ1年前、1920年の制作です。本画よりもさらに写実的です。菊の咲く様子を有り体に捉えています。そしてこちらも実に細かい。素早い筆致にて花弁はおろか、葉脈までをも見事に浮き上がらせていました。

「速水御舟とその周辺」 世田谷美術館(はろるど)

なお「速水御舟とその周辺」展、既に会期は残り2週間。初めにも触れたように後期展示に入っています。



前後期で相当数の作品が入れ替わりました。また「周辺」とあるように、御舟作は4割ほど、残りは別の画家の作品で占められています。ただそれこそ本展の面白いところ。今村紫紅や小茂田青樹に優品も多く、知られざる御舟同門の画家の作品もなかなか見応えがあります。

また御舟コレクションで名高い山種美術館以外の作品で構成されているのもポイントです。平塚市美術館、横浜美術館、また茂原市美術館や西丸山和楽庵、さらに京都国立近代美術館や個人の作品も目立ちます。ゆえに見慣れない御舟作も少なくありません。やはり御舟ファンには是非とも見ておきたい展示と言えそうです。



速水御舟の「菊花図」は世田谷美術館の「速水御舟とその周辺展」で7月5日まで公開されています。

「速水御舟とその周辺ー大正期日本画の俊英たち」 世田谷美術館
会期:5月2日(土)~7月5日(日)
休館:毎週月曜日。但し祝休日の場合は開館し、翌日休館。5/4(月)~6(水)は開館、5/7(木)は休館。
時間:10:00~18:00 *最終入場は17:30
料金:一般1200(1000)円、65歳以上1000(800)円、大学・高校生800(600)円、中学・小学生500(300)円。
 *( )内は20名以上の団体料金
 *リピーター割引あり:有料チケット半券の提示で2回目以降の観覧料を団体料金に適用。
住所:世田谷区砧公園1-2
交通:東急田園都市線用賀駅より徒歩17分。美術館行バス「美術館」下車徒歩3分。
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ヨハネス・フェルメール(帰属)「聖プラクセディス」 国立西洋美術館

2014年7月、ロンドンのクリスティーズで競売にかけられたヨハネス・フェルメール(帰属)の「聖プラクセディス」。



「フェルメールの油彩画に11億円 ロンドンで競売」(日本経済新聞)

現存するフェルメールの絵画はおおよそ37作品。うち本作を含め2点のみが民間、個人の所蔵です。よってそもそも競売にかけられること自体が極めて稀。オークションも大いに話題となりました。結果的に作品は日本円で約11億円(約624万ポンド)で落札されました。

「フェルメール作?『聖プラクセディス』西洋美術館に常設展示」(産経ニュース)

どうやら落札者は日本人のコレクターだったようです。昨秋に国立西洋美術館が寄託の依頼を受けます。そしてこの春、3月17日より常設展示室での公開が始まりました。

さて本作、美術館が「帰属」と表明しているように、そもそもフェルメールの真筆かどうか議論が分かれています。


フェリーチェ・フィケレッリ「聖プラクセディス」 1640年代 フェルニャーニ・コレクション

元になるのはイタリア人画家のフェリーチェ・フィケレッリ。本作に先立つこと約15年前に描かれた「聖プラクセディス」をフェルメールが模写したと考えられています。

競売時の科学調査では、顔料の成分が、初期のフェルメール作と極めて類似していることが確認されたそうです。それはフランドル絵画に特徴的な顔料のため、オランダで描かれたことはほぼ確実。また署名と年記の解釈から、フェルメールの23歳の時の作品とも言われています。


ヨハネス・フェルメールに帰属「聖プラクセディス」 1655年 国立西洋美術館(寄託)

2点の作品を比較すれば明らかなように、両作は単純なコピーではなく、一部に改変が加えられています。一番分かりやすいのは聖人の手です。フェルメールと考えられる作品には元の絵にはない十字架が握られています。

そもそも本作をフェルメールの真筆と唱えたのは、フェルメール研究の権威の一人であるアーサー・ウィーロックです。ただしウィーロックの説に対しては反論も多く、現在では彼を除いた「多くの美術史研究者」が「フェルメールへの帰属を疑問視」しているそうです。(カッコ内は解説シートより。)

ちなみに本作が日本国内で公開されるのは2000年に大阪で行われた「フェルメールとその時代」展以来のこと。ちなみに私自身はまだ美術に関心を持つ以前のことであり、展覧会そのものを見ていません。

率直なところ素人の私には真筆云々の件は全く分かりません。しかしながら実際に見ると絵自体はすこぶる美しいもの。初期作ということでやはり思い浮かぶのは「ディアナとニンフたち」です。2008年の東京都美術館でのフェルメール展で出品がありました。先の顔料成分の類似も「ディアナとニンフたち」と比較されたそうです。ラピスラズリを用いたという空の深い青と、やや明るいワイン色の衣服のコントラストが際立ちます。また下を向いたプラクセディスの甘美な表情も魅惑的です。

なお3月から国立西洋美術館の常設展示に加わったのは、「聖プラクセディス」を含め、以下の3点の作品です。

「常設展新規展示作品のお知らせ」(国立西洋美術館)
・ヨハネス・フェルメールに帰属「聖プラクセディス」 1655年 油彩/カンヴァス 101.6x82cm(寄託作品)
・フアン・バン・デル・アメン「果物籠と猟鳥のある静物」 1621年頃 油彩/カンヴァス 75.4x144.5cm(2014年度購入)
・ドメニコ・プリーゴ「アレクサンドリアの聖カタリナを装う婦人の肖像」 1520年代 油彩/板 76.8x55.2cm(2014年度寄贈)

「聖プラクセディス」の撮影は寄託作品のために出来ませんが、他2点は撮影が可能でした。


ドメニコ・プリーゴ「アレクサンドリアの聖カタリナを装う婦人の肖像」 1520年代 国立西洋美術館

うち特に惹かれたのはドメニコ・プリーゴの「アレクサンドリアの聖カタリナを装う婦人の肖像」です。16世紀初頭のフィレンツェで活動した画家の一枚、カタリナと推測される女性の肖像画ですが、胸元で透けた水色の衣服がこれまた美しいもの。白い肌にやや赤らんだ頬の質感も富んでいます。


フアン・バン・デル・アメン「果物籠と猟鳥のある静物」 1621年頃 国立西洋美術館

フェルメールといえば全作品を見るために世界各地を「巡礼」するファンも少なくありません。それを考えると、確かに議論あるとはいえ、一部ではフェルメールと考えられる作品を常に上野で気軽に見られるのも、なかなか贅沢、また興味深いことではあります。


国立西洋美術館常設展示室。一番右はカルロ・ドルチの「悲しみの聖母」。「聖プラクセディス」はこのすぐ右の壁に展示されています。

なお西洋美術館では現在、企画展としてグエルチーノ展を開催中です。もちろんグエルチーノ展のチケットでも「聖プラクセディス」を観覧することが出来ます。

「グエルチーノ展」 国立西洋美術館(はろるど)

ヨハネス・フェルメールに帰属する「聖プラクセディス」は国立西洋美術館の常設展示で公開されています。

「グエルチーノ展 よみがえるバロックの画家」@guercino2015)  国立西洋美術館
会期:3月3日(火)~5月31日(日)
休館:月曜日。但し3月30日、5月4日、5月18日は開館。
時間:9:30~17:30 (毎週金曜日は20時まで開館)
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学生1300(1100)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
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速水御舟「京の家・奈良の家」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館所蔵品ギャラリー「MOMAT コレクション」
速水御舟「京の家・奈良の家」
8/10~10/14

右に京都の町屋、左に奈良の大和棟の家屋を描いた二面の風景画。せり上がる三角形の屋根と赤や黄色の壁面。作品に組み込まれた色と形が鮮やかに浮かび上がってくる。


速水御舟「京の家・奈良の家」1927年 紙本彩色 額2面

東京国立近代美術館に今年度、新たに収蔵された速水御舟の「京の家・奈良の家」です。

描かれたのは1927年、御舟33歳の時。「モダニズム日本画への意識」(キャプションより引用)とも称される独特な画面構成。翌年には「翠苔緑芝」、さらに翌々年には「名樹散椿」と、時にセザンヌやキュビズムと関連付けられる名作を生み出した時期の作品でもあります。


速水御舟「京の家・奈良の家」1927年 左面

それにしてもここに見られる構図感は個性的です。縦に家屋も連なる奥行きのある空間にも関わらず、建物の面を切り取った構成だから、おおよそ平面的。建物を図像、もしくは平面として連ねていくという意識が強く感じられます。


速水御舟「京の家・奈良の家」1927年 右面

面白いのは建物の上部に着目した構成でもあることです。地面を描き入れないことで屋根と空が相似的に浮かび上がってくる。また大和棟の白い三角屋根と、なだらかな曲線を描く町屋の屋根の図形もどこか対比的です。また空も京都の「静」に対し、奈良は渦巻く雲が描かれるなど「動」的です。

新収蔵とありますが、何も新出の作品というわけではありません。近年、関東では一度、2008年に平塚市美術館で開催された「速水御舟ー新たなる魅力」にも出品されました。カタログにも図版の掲載があります。

「いつもとはからりと変つたものー二題ながら構図は児童のように単純だ。(略)壁の色の対比、屋根の頂上の鳩の瓦、作者の境地に住みたい。」
 評:京都日出新聞 昭和2年10月25日(「速水御舟ー新たなる魅力」展図録より。)

「もっと知りたい速水御舟/尾崎正明/東京美術」

半ば造形と色面構成の実験とも呼べるような展開。常に新たな画面の獲得を目指した御舟ならではの進取性にも富んだ作品と言えそうです。

速水御舟「京の家・奈良の家」 東京国立近代美術館本館所蔵品ギャラリー「MOMAT コレクション」 
会期:8月10日(土)~10月14日(月)
休館:月曜日。但し9/16、9/23、10/14は開館。9/17、9/24は閉館。
時間:10:00~17:00(毎週金曜日は20時まで)*入館は閉館30分前まで
料金:一般420(210)円、大学生130(70)円、高校生以下、65歳以上無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *無料観覧日(所蔵作品展のみ):9月1日(日)、10月6日(日)
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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長沢蘆雪「群猿図屏風」(かわいい江戸絵画展)

今日まで府中市美術館で開催されていた「かわいい江戸絵画展」。途中で大規模な展示替えがあるとのことで、前期に引き続き後期も昨日観覧。可愛らしくもまた愉快な江戸絵画を堪能することが出来ました。


「かわいい江戸絵画」@府中市美術館 2013/3/9~5/6

さてかわいい云々はともかくも、展示の中でとりわけ感銘した作品が一枚。それが長沢蘆雪の「群猿図屏風」(1786年)。和歌山は草堂寺所蔵の六曲屏風です。盧雪が師応挙の代理として寺院に招かれ、現地で描いたとされるもの。今では重要文化財の指定も受けた名品です。

盧雪の屏風絵として思いつくのが、東北三県巡回中のプライス展にも出ている「白象黒牛図屏風」。白象と黒牛の色、また巨大な象に牛と小さな鴉や子犬と、ともかく対比の妙味に秀でている作品です。その冴えた対比表現を同様に「群猿図屏風」でも見て取れます。


長沢蘆雪「群猿図屏風(左隻)」江戸時代・1786年 草堂寺(和歌山)

まず左隻から。こちらは白を背景に黒い4匹の猿たちの戯れる様子。彼らがいるのは水辺。良く目をこらすと猿の後方には薄塗りの墨によって大地に水際が描かれていることが分かります。


長沢蘆雪「群猿図屏風(右隻)」江戸時代・1786年 草堂寺(和歌山

さて右隻はどうでしょう。こちらは切り立つ黒い岩山に白い猿が一匹。三角形の頂点にぽつねんと佇む猿が上から左隻の猿を見下ろす姿が表されています。

白猿に黒猿、孤独に群れ。山と水辺。そして上からの視点と下の視点。さらには茫洋と奥へと広がる左隻と、鋭く手前に迫り出して来るかのような右隻の空間そのものの対比。筆致も左隻は穏やか。右隻は一転して荒々しくまた力強い。墨の掠れ、また流れを利用して描かれた山肌からは、岩のごつごつとした質感を見ることも出来ます。

「別冊太陽 長沢芦雪/狩野博幸/平凡社」

一枚の屏風絵、しかもシンプルな主題にも関わらず、これだけの対比を潜ませた蘆雪の画力に発想力。まさに奇才を超えた天才の技。改めて感動しました。


「長沢蘆雪 奇は新なり」@MIHO MUSEUM 2011/3/12~6/5

余談ですが盧雪の回顧展、2011年にMIHO MUSEUMであったのを見逃してしまいました。(図録は東博のミュージアムショップでも販売されています。)またいつか全貌を知る展覧会があればと願ってなりません。
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尾形光琳「松島図屏風」(ボストン美術館 日本美術の至宝展)

昨日、5/19のテレビ東京「美の巨人たち」にて放映のあった尾形光琳の「松島図屏風」。

今、東京国立博物館で開催中の「ボストン美術館 日本美術の至宝」展に展示されています。



「ボストン美術館 日本美術の至宝」 東京国立博物館(プレス内覧の様子をまとめてあります。)

元となるのはもちろん宗達の「松島図屏風」ですが、そちらは現在、アメリカのフリーア美術館で門外不出として取り扱われているため、残念ながら日本で実物を見ることは叶いません。


「松島図屏風」六曲一隻 尾形光琳 江戸時代・18世紀前半 ボストン美術館

宗達は六曲一双、金地の大画面の中へ荒波を受けて立つ岩と浜の松を描きましたが、光琳はその右隻に似た光景を、六曲一隻の中画面に表現しました。

番組でも紹介されていましたが、本作はかのフェノロサが直接大名家より購入した作品です。そのためか海外における琳派受容の先駆的存在とも知られてきました。


「松島図屏風」尾形光琳 江戸時代・18世紀前半 ボストン美術館
Photograph 2012 Museum of Fine Arts, Boston.


一方でこの松島図屏風は問題作です。というのも全体に補筆が多く、とりわけ群青や緑青はほぼ後から塗られ、さらには落款も後から入れたとされていることから、光琳自筆なのかという議論も行われています。

またその加筆部分を除くと酒井抱一の「光琳百図」により近くなるという指摘もあるそうです。

もちろんそこに造形美、例えば得意とする半円型のシャープな曲線美を多用した岩の描写など、光琳画ならではの魅力があるのも事実です。

ちなみに光琳はこの松島のモチーフで計4点の作品を残しています。さらに空間を狭めた二曲一隻の「松島図屏風」(大英博物館蔵)もよく知られた作品と言えるかもしれません。

なおこちらも同じく番組で言及がありましたが、そもそも宗達画由来の「荒磯屏風」と呼ばれていた本作を「松島図屏風」と名付けたのは抱一です。例の光琳顕彰の際にそう命名したわけですが、以来、この作品の名称として定着しました。


「芥子図屏風」宗達派 江戸時代・17世紀中頃 ボストン美術館

かつての東博大琳派展の際にも出品がなかったこともあり、国内では東近美のRIMPA展以来、久々のお披露目となりました。


左:「水禽・竹雀図」宗達派 江戸時代・17世紀 ボストン美術館

尾形光琳の「松島図屏風」は「ボストン美術館 日本美術の至宝」展で6月10日まで展示されています。

*お知らせ*
ボストン美術館 日本美術の至宝展のチケットが手元に5枚ほどあります。先着順で一枚ずつ差し上げますので、ご入用の方はharold1234アットマークgoo.jpまでご連絡下さい。

予定枚数に達したため終了しました。ご連絡ありがとうございました。

「ボストン美術館 日本美術の至宝」 東京国立博物館
会期:3月20日(火)~6月10日(日)
休館:月曜日。但し4月30日(月・休)は開館。
時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで) *毎週金曜日は20時、土・日・祝・休日は18時まで開館。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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史上初!「平治物語絵巻」現存三巻同時公開

蕭白の「雲龍図」でも話題の「ボストン美術館 日本美術の至宝展」(東京国立博物館)ですが、それに並んで注目されているのが在外二大絵巻とも称される「吉備大臣入唐絵巻」と「平治物語絵巻」の里帰り展示です。

うち「吉備大臣入唐絵巻」はボストン美術館展に全巻出ていますが、「平治物語絵巻」に関しては三巻に分かれているため、残念ながら一続きで見ることは叶いません。


「平治物語絵巻 三条殿夜討巻」(展示風景)鎌倉時代 *「ボストン美術館 日本美術の至宝」(東京国立博物館平成館)

しかしながら今、ボストン美術館展での里帰りにあわせ、残りの二巻が同じく東京国立博物館の総合文化展(平常展)、及び二子玉川の静嘉堂文庫の「東洋絵画の精華 珠玉の日本絵画コレクション」で公開されています。

ボストン本が海を渡って以来、この三巻の「平治物語絵巻」が同じ時期に展示されたことは一度たりともありません。つまり現在、まさに史上初めて、場所こそ違えどもこの絵巻を一挙に楽しめるわけでした。



「ボストン美術館 日本美術の至宝」 東京国立博物館(拙ブログ)

まずは東京国立博物館の「ボストン美術館 日本美術の至宝展」に出ている「三条殿夜討巻」です。途中巻替なしの全巻公開に興奮された方も多いかもしれません。

ここでは物語の切っ掛けともなった藤原信頼と源義朝の上皇拉致、そして政敵である信西の首を求めて焼き払われる御所の様子が、極めて臨場感のある表現で示されています。


「平治物語絵巻 三条殿夜討巻」(部分)鎌倉時代 *「ボストン美術館 日本美術の至宝」(東京国立博物館平成館)

とりわけ印象深いのは燃え上がる御所の前で繰り広げられる凄惨なまでの合戦の光景です。逃げ惑う人、また首を挙げんと刀を振り上げる武士、そして滴り落ちる鮮血などの生々しい描写は並大抵ではありませんでした。



「東洋絵画の精華 珠玉の日本絵画コレクション」 静嘉堂文庫美術館(拙ブログ)

さて続いては静嘉堂文庫の「東洋絵画の精華 珠玉の日本絵画コレクション」で公開中の信西巻です。結果的に追われて果てる信西の最期が描かれています。


「平治物語絵巻 信西巻」(部分)鎌倉時代 *「東洋絵画の精華:珠玉の日本絵画」(静嘉堂文庫美術館)

自ら刃をとって自害する信西、そして首を高らかに掲げて進軍する兵列、さらには何食わぬ顔で首の検分を行う藤原惟方の描写などが印象に残るのではないでしょうか。

また静嘉堂は冒頭にこの作品のためにケースを据え、場面毎の解説もつけるなど、言わば別扱いでの展示でした。

そして最後は実は今日、東京国立博物館の総合文化展で見て来たばかりの「六波羅行幸巻」です。本館2階の国宝室で展示されています。


「平治物語絵巻 六波羅行幸巻」(部分)鎌倉時代 *「総合文化展」(東京国立博物館 本館2室)

物語のラストは脱出です。幽閉された二条天皇が清盛の六波羅邸へと逃れる光景が繰り広げられました。


「平治物語絵巻 六波羅行幸巻」(部分)鎌倉時代 *「総合文化展」(東京国立博物館 本館2室)

図像的な武士団の配置、また牛車の配列など、繊細な描写の中に光る構図の妙味に感心された方も多いかもしれません。また状態も良好、色味をじっくり楽しむことが出来ました。

さて改めて「平治物語絵巻」三巻同時公開を整理しておきましょう。

「三条殿夜討巻」
会場:東京国立博物館平成館「ボストン美術館 日本美術の至宝」
会期:3/20(火・祝)~6/10(日)

重文「信西巻」
会場:静嘉堂文庫美術館 「東洋絵画の精華 珠玉の日本絵画コレクション」
巻替:第1期(4/14~4/26)「信西追捕の詮議と信西自害の場面」、第2期(4/27~5/8)「信西自害から首実検までの場面」、第3期(5/9~5/20)「都大路の武者行列と西獄門の場面」
会期:4/14(土)~5/20(日)

国宝「六波羅行幸巻」
会場:東京国立博物館総合文化展(本館2室・国宝室)
会期:4/17(火)~5/27(日)

最も早く公開を終えるのは静嘉堂文庫美術館で5月20日です。続いて東博の国宝室が同月27日、同じく東博「ボストン美術館展」が6月10日に展示を終了します。

なお上記の通り静嘉堂文庫の「信西巻」のみ巻替えがあります。現在は最終期、第3期の「都大路の武者行列と西獄門の場面」の展示です。ご注意下さい。


「平治物語絵巻 六波羅行幸巻」(展示風景)鎌倉時代 *「総合文化展」(東京国立博物館 本館2室)

私はボストン展→静嘉堂文庫→東博平常展の順に見終えましたが、次はいつやって来るかも分からないこの機会、たとえ静嘉堂が巻替えであろうとも、追いかけて良かったと思いました。

ちなみに東博と静嘉堂文庫では「平治物語絵巻相互割引」と題し、各半券を見せると東博では100円引き、静嘉堂文庫では200円引きとなります。また言うまでもなく東博の総合文化展はボストン美術館展のチケットでも観覧出来ます。

それに静嘉堂では展示作品、絵巻の場面解説などを記載したリーフレットもいただけました。

「すぐわかる絵巻の見かた/榊原悟/東京美術」

上野と二子玉川を通じての世紀の「平治物語絵巻」同時公開、是非ともお見逃しなきようにおすすめします。

注)「平治物語絵巻 三条殿夜討巻」の写真は、「ボストン美術館 日本美術の至宝展」の報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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酒井抱一「青楓朱楓図屏風」(根津美術館KORIN展)

100年ぶりの「八橋図屏風」と「燕子花図屏風」の邂逅でも話題の根津美術館のKORIN展。


右:「燕子花図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 根津美術館
左:「八橋図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 メトロポリタン美術館


主役はもちろん両作の作者である尾形光琳に他なりませんが、展覧会の後半は光琳顕彰につとめた酒井抱一にスポットが当たっています。

その一つは光琳百回忌の際、光琳画の調査を行い、1815年に出版した「光琳百図」ですが、あとの一つは展示のラストに登場する「青楓朱楓図屏風」です。


「光琳百図 前編・後編」酒井抱一 江戸時代 1815年/1826年 東京藝術大学大学図書館

六曲一双の大画面には眩いばかりの金箔がはられ、そこへ色味の強い水流と青と朱の二本の楓、またすみれやリンドウなどの下草が描かれています。


「青楓朱楓図屏風」酒井抱一 江戸時代 1818年 個人蔵

この画も当然ながら「光琳百図」に引用されているということで、光琳画を参照していることは間違いありませんが、残念ながらそちらは現在、失われてしまいました。



それにしてもこの楓の幹のうねりある表現、また半ばゴツゴツとした葉の描写など、どこかデザイン的とも言える様子は、例えば「夏秋草図屏風」に代表される繊細でかつ優美な抱一の画風とはかなり離れているのではないでしょうか。


「青楓朱楓図屏風」(右隻)酒井抱一 江戸時代 1818年 個人蔵

この作品の来歴はあまり知られておらず、実のところ注文主すら分かっていません。また抱一研究の第一人者である玉蟲先生によれば、本作は其一の「夏渓流図屏風」と「金地の扱い・色彩感覚・隈笹の様態」(*1)などと似ている点から、其一が「初工程の下書き制作に留まらず、各モティーフの着彩までも担当」(*2)のではないかと指摘されています。

実際のところ光琳と抱一の絵画表現上における共通点はあまりなく、光琳のデザイン感覚はむしろ其一が継承したのではないかと思うこともしばしばですが、本作も其一の存在を鑑みると、あながち見当違いというわけではないのかもしれません。

根津美術館の「KORIN展」もいよいよ会期末、20日までと迫りました。連日大盛況とのことですが、燕子花と八橋の華々しき中に埋もれんとばかりに主張する「青楓朱楓図屏風」もお見逃しなきようご注意下さい。

「もっと知りたい酒井抱一/玉蟲敏子/東京美術」

「青楓朱楓図屏風」はKORIN展会期中、根津美術館で5月20日まで展示されています。

*関連エントリ
「KORIN展」 根津美術館(プレス内覧の様子をまとめてあります。)
根津美術館で「KORIN展」を開催中!(シンポジウムにおいて根津美術館学芸主任の野口氏による燕子花と八橋図の相違点について簡単にまとめてあります。)

*1「都市のなかの絵」玉蟲敏子著(ブリュッケ) P.250より引用
*2「都市のなかの絵」玉蟲敏子著(ブリュッケ) P.273より引用



「特別展 KORIN展 国宝『燕子花図』とメトロポリタン美術館所蔵『八橋図』」 根津美術館@nezumuseum
会期:4月21日(土)~5月20日(日)
休館:月曜日。但し4月30日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00。但し4/28~5/20は時間延長。18時まで。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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東博で見る狩野一信の「五百羅漢図」

江戸東京博物館で展示中の狩野一信の五百羅漢図ですが、それと幅本とも言われる作品が東京国立博物館の常設展示にも登場しています。



一連の作品は増上寺の羅漢図とほぼ同じ図柄ではありますが、大きさはかなり小さく、1幅に2つの図をあわせた形で表装されています。つまりその数は全部で50幅です。かつて同館で一度まとめて展示されたこともあったそうですが、江戸博の五百羅漢展にあわせたのか、久々にお目見えしました。



展示作品は以下の通りです。「書画の展開:安土桃山・江戸」出品リスト

第13幅/第23幅/第27幅/第42幅/第28幅

風難や水難を描いた「七難」の他、いわゆる羅漢が超能力を発揮する「神通」などが登場していました。


江戸東京博物館「五百羅漢展」展示風景。(写真の撮影と掲載は許可を得ています。)

*参考エントリ*
「五百羅漢展 狩野一信」Vol.1 江戸東京博物館

なお江戸博の五百羅漢展にもこのミニサイズの羅漢図が出ています。そちらは10幅です。つまり現在、東博と江戸博をあわせると全部で15幅が展示されていることになります。



細部の細やかな描写などについては到底、増上寺の「五百羅漢図」には及びません。あくまでも副次的な作品として捉えて相違ないようです。

なおこの作品の由来については諸説あります。現在のところ、増上寺に先行する作品、もしくは同時並行して描かれたもの、さらには一信の没後に羅漢堂を建てる時などに弟子たちが描いたという解釈などがあるそうです。

本館8室にて5月29日まで公開されています。
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「新収蔵 盛田良子コレクション」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館千代田区北の丸公園3-1
「所蔵作品展 近代日本の美術 - 新収蔵:盛田良子コレクション」
10/23-12/19

本年度に収蔵された20世紀美術作品4点を紹介します。東京国立近代美術館の常設展で開催中の「新収蔵 盛田良子コレクション」へ行ってきました。



ソニー創業者の盛田昭夫氏の妻でもあり、ニューヨーク近代美術館役員の他、財団法人盛田国際教育振興財団選考委員などを歴任された盛田良子氏ですが、このほど氏が所有していたという下記4点が美術館に収蔵されました。

ジョルジュ・ブラック「女のトルソ」(1910-11年)
パウル・クレー「山への衝動」(1939年)
ニコラ・ド・スタール「コンポジション(湿った土)」(1949年)
ジャン・デュビュッフェ「土星の風景」(1952年)



パウル・クレー「山への衝動」(1939年)

これらの作品の「質の高い」(同美術館サイトより)という言葉は全く間違っていません。クレーの大作の他、お馴染みのブラックやデッビュッフェなどの力作が展示されていました。


ニコラ・ド・スタール「コンポジション(湿った土)」(1949年)

私として今回一番惹かれたのはド・スタールの「湿った土」です。その色遣い、また何と言っても画肌の感触に魅力を感じました。

なおデュビュッフェについては寄贈です。ちなみにこれら4点は盛田氏のご自宅に飾られていたとのことでした。何とも豪華なお話です。


常設のクレーの諸作品。

クレーなどでは既に定評のある同館のコレクションに更なる厚みが増しました。既に会期末ではありますが、麻生三郎展の際には是非ともお見逃しなきようご注意下さい。


手前、ヴォルフガング・ライプ「米の食事」(1998年)、奥、ソル・ルウィット「形態の複合 No.6」(1987年)

ちなみに常設の第5章「現代美術」では、ヴォルフガング・ライプの「米の食事」が久々に出ていました。同館で以前行われた回顧展の思い出が蘇ります。見事な展覧会でした。

12月19日まで展示されています。
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「山姥 河鍋暁斎筆」 東京国立博物館

東京国立博物館・平常展示18室「近代美術」(台東区上野公園13-9
「山姥 河鍋暁斎筆」
8/3~9/12

いつも見逃せない東博の本館平常展ですが、近代美術のコーナーの一角で異彩を放つ暁斎の一幅が展示されています。平常展示18室で公開中の河鍋暁斎の「山姥」を見てきました。



この作品は浄瑠璃の山姥の設定を取り入れて描かれたものだそうですが、その踊るように大胆な線と、反面の極めて繊細な衣服の表現には、硬軟に冴えた暁斎ならではの筆の魅力を感じ取れるのではないでしょうか。



人物造形はどこか浮世絵風でもありますが、そのふと見やる表情やただれた髪は生々しく、それこそ今にも山姥の本性、つまりはグロテスクな姿を化けて現すような予感がしてなりません。



また無邪気に引き合う金太郎やシロクマも実に生き生きと描かれていました。しかしこの細やかな彩色は必見です。随所には金も散りばめられ、どこか華やかでかつ派手な出立ちは、それこそつい先日のBASARAを連想させました。

「反骨の画家 河鍋暁斎/狩野博幸・河鍋楠美/新潮社」

9月12日まで公開されています。
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「夏秋草図屏風 酒井抱一筆 公開」 東京国立博物館

東京国立博物館・平常展示8室「書画の展開」(台東区上野公園13-9
「夏秋草図屏風 酒井抱一筆 公開」
6/29-8/8

東京国立博物館・平常展第8室で公開中の酒井抱一「夏秋草図屏風」を見てきました。



大琳派展以来ということで、東博では約2年弱ぶりの展示ではないかと思いますが、このような平常展示室での公開はしばらく記憶がありません。比較的、人出も落ち着いた室内で見る「夏秋草図」の味わいもまた良いのではないでしょうか。ちょうど作品の前にソファも用意されていました。既にじっくり堪能された方も多いかもしれません。



専門的な解説については東博WEBサイトなどを参照していただくとして、今回私がふと感じたのは、夏草と秋草のともに見せる、風にそよぎまた水にうたれたその儚気な生命感でした。流麗でかつ澱みのない線にて草花を描くことにかけては琳派随一でもある抱一の筆ではありますが、ここでは薄や昼顔、そして百合などが、あたかもそれ自体が動くかのような生気を持って妖艶にかつ、言ってしまえばどこか官能的に絡み合うかのようにして描かれています。



そもそもこの作品は言うまでもなく光琳の大作「風神雷神図屏風」の裏面に描かれたこともあり、そもそもモチーフとしての藤袴や百合などに光琳への追慕の念がこめられているのはよく指摘されますが、その強い想いはこの屏風におけるそれぞれの草花の相互の関係にも反映されているように思われてなりません。



画中で薄のように自在に光琳への想いを馳せる抱一は、涙の雨から光琳を象徴する百合を優しく抱き、また野分からも思い草である女郎花をそっと守っていました。

「夏秋草図屏風」は抱一の名をまだ知らなかった2004年、東京国立近代美術館でのRIMPA展で一目惚れして以来、私にとってかけがえのない作品の一つになりました。今回も鈍い銀の光に包まれながら、草花の織りなす刹那的な夢物語にしばし思いを馳せることが出来ました。



かなり前、一度、光琳の風神雷神図と対になった形で展示されたこともあったそうですが、改めてそうした構成の上、無理な注文ではありますがケースなしの露出展示で見る機会があればと思いました。

「もっと知りたい酒井抱一/玉蟲敏子/東京美術」

8月8日まで公開されています。
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「酒井抱一 四季花鳥図巻 巻上」 東京国立博物館

東京国立博物館・平常展示 8室「書画の展開」(台東区上野公園13-9
「酒井抱一 四季花鳥図巻 巻上」
4/6-5/16



大琳派展の記憶も蘇ります。東博平常展に出品中の酒井抱一「四季花鳥図巻 巻上」を見てきました。



かの大琳派展の際は全巻揃っての公開でしたが、さすがに今回は通常の展観とのことで、その一部、つまりは前半部の春と夏の箇所が紹介されています。いつもながらも抱一らしい情緒に溢れた自然描写には目も釘付けでした。



同じく数年前に展示された時にも記事にまとめたことがありますが、これは抱一が58歳の時、貴人の慶事のために描いたとされるもので、そのためかとりわけ上質な絵具を用いられていることでも知られた作品です。鮮やかな色彩はもちろんのこと、葉脈の金など、どこか雅やかな装いを感じるのもそう言った由来があるからなのかもしれません。



ちなみにこの作品については東京美術の「もっと知りたい酒井抱一」にも紹介があります。著者の玉蟲氏のテキストも冴える、同シリーズでも指折りの傑作です。是非ご覧下さい。

「もっと知りたい酒井抱一/玉蟲敏子/東京美術」

なお琳派関連としては8室の隣の7室「屏風と襖絵」にて、光琳の「孔雀立葵図屏風」が展示されていました。こちらは残念ながら撮影が不可でしたが、特に孔雀の立姿の構図はかの紅白梅図を思わせるものがあります。お見逃しなきようご注意下さい。

「四季花鳥図巻」は5月16日まで公開されています。

注)東京国立博物館は平常展の一部作品に限り撮影が可能です。
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「ジョセフ・コーネル ウィーンパンの店」 東京国立近代美術館所蔵作品展

東京国立近代美術館千代田区北の丸公園3-1
「ジョセフ・コーネル ウィーンパンの店」
4/20~8/8

東京国立近代美術館の所蔵作品展でコーネルの小箱、「ウィーンパンの店」を見てきました。


コーネル、ジョゼフ「ウィーンパンの店」(1950年/紙、塗料、木、ガラス)

意外な場所で思わぬ作品に出会えるのも常設展示の醍醐味かもしれません。建築展を見終え、何気なく常設へ廻ると、まさかコーネルに出くわすとは夢にも思いませんでした。なお小箱はコーネルが「星への旅を夢想して」(東近美HPより印象)作られたと考えられているため、最近では同じく常設展内ギャラリー4の「天空の美術」に出たこともあったそうです。



中に例えばボールなどの立体があるわけではなく、いわゆる紙のコラージュの部類に入る作品のようですが、その切り取られた猫の表情が何とも可愛らしく思えました。一体、コーネルはここにどのような星空への旅を想っていたのでしょうか。

なお国内にある国立美術館(4館)ではこの作品を含め、計3点のコーネルの小箱を所蔵しているそうです。そちらも見る機会があればと思いました。

コーネル、ジョゼフ 「カシオペア#1」  国立国際美術館
コーネル、ジョゼフ 「無題(北ホテル)」 国立国際美術館

なおコーネルと言えば忘れてならないのが、現在、川村記念美術館で開催中(~7/19)の「ジョセフ・コーネル×高橋睦郎」です。



展示の様子は拙ブログでもまとめてあります。宜しければご参照下さい。

「ジョゼフ・コーネル×高橋睦郎 箱宇宙を讃えて」 川村記念美術館


(川村記念美術館での展示風景。撮影は許可をいただいています。)

また川村コーネル展が5月16日の日曜美術館(アートシーン)で紹介されます。お見逃しなきようご注意下さい。

東京国立近代美術館所蔵作品展、コーネルの「ウィーンパンの店」は8月8日まで展示されています。
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