都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「特集 五百羅漢の絵師 狩野一信」 芸術新潮2011年5月号
いよいよ展覧会も今週金曜(4/29)に迫りました。本日発売の芸術新潮5月号、「五百羅漢の絵師 狩野一信」を買ってきました。
震災により開催が約1ヶ月半ほど延期された「五百羅漢 狩野一信展」ですが、本誌面上にてそれに準拠する特集が組まれています。
見開きに登場する怒涛の全100幅の図版だけでもお腹いっぱいになりそうですが、豊富なテキストも一信の五百羅漢の特異性を知るのに相応しい内容ではないでしょうか。
特集の目次は以下の通りです。
第一部 江戸絵画の最終ランナー 狩野一信再発見 解説:山下裕二
折り込み全図集 150年の眠りから覚めた これが狩野一信「五百羅漢図」の全てだ
狩野一信「五百羅漢図」で読み解く 羅漢様の生活と意見
羅漢様のデイリーライフ(1~10幅)
良い子からチョイ不良オヤジまで 羅漢学院ただいま入学受付中(11~20幅)
羅漢レスキュー隊、六道をゆく(21~40幅)
洋風に描いてみました 羅漢さまの修行あれこれ(41~50幅)
とーぜん超能力者です(51~60幅)
ペットは霊獣(61~70幅)
波乗り羅漢の龍宮ツアー(71~74幅)
羅漢さまにおまかせ、出産も建築も(75~80幅)
羅漢レスキュー隊ふたたび(81~90幅)
一信死すとも羅漢は死せず(91~100幅)
狩野一信 幕末の激動を生きた48年
第二部 一信に導かれて全国の五百羅漢を旅する 文:山下裕二
五百羅漢寺(東京)、少林寺(埼玉)、建長寺(神奈川)他
全国五百羅漢図めぐりマップ
インタビューはもちろん、文章の殆どを展覧会の監修をつとめた山下裕二氏が担当しています。読みごたえは十分でした。
特集第一部は「狩野一信再発見」と題し、全100幅の五百羅漢図を順に沿って解き明かしています。
例えば「羅漢レスキュー隊、六道をゆく」などのキャッチーなタイトルからしてぐいぐい引き込まれますが、解説自体は当然ながら本格的です。
そもそも一信の五百羅漢図にはほぼ先行例がないことや、登場する全500人の羅漢の衣装には殆ど同じ柄がないこと、一方で西洋の銅版画の技法を参照していたことなどが示されています。
また一見、同じような作風にもとれる100幅にも実は波があり、表現の激しさでは二十二幅の「六道」が、また技法面では五十幅の「十二頭陀」がピークに当たることにも触れられています。
掲載の図版を見ても、晩年の作品はどこか弛んでいる様子が分かりますが、その要因として一信の健康や弟子の関与の問題などが挙げられていました。
またどうしても異様なビジュアル面ばかりに目が向いてしまいますが、当然ながら作品は仏画であり、登場する羅漢には役割も与えられています。あの気持ち悪い顔をはぐ菩薩なども、中国の六朝時代の伝承に基づいていることが指摘されていました。
また興味深いのは一信の女性に対する視線です。 五十五幅における首吊り死の女性や七十五幅の出産直後の女性の描写は恐ろしく、彼のどこか屈折した性癖のようなものが表れていないかとの記述がありました。
第二部は羅漢への旅です。江戸時代に隆盛した羅漢信仰によって、今も全国には羅漢の石仏が点在しますが、それを山下先生が訪ねていきます。
若冲が晩年過ごした京都・石峰寺などは有名なところですが、ここで注目すべきは兵庫県の北条五百羅漢と大分県の耶馬溪羅漢寺です。 特に耶馬溪には一信の作品に通じる驚くべき羅漢が登場します。是非とも誌面でご覧になって下さい。
ちなみにこの耶馬溪への取材は東日本大震災の後に行われたそうです。実は震災当日も山下先生は展示の確認のために両国へと向かいながら、結局たどり着くことが出来かったそうですが、この特集を読んでいると、震災後も更なる取材・研究を続け、ついには展覧会の再開へとこぎ着けた一種の執念を感じてなりません。
一信自身も安政の大地震に被災したそうですが、ともかくも災害を超えて羅漢に思いをよせる山下先生の熱意には心打たれました。
さて改めて展覧会の情報です。
「法然上人八百年御忌奉賛 五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信」
会期:平成23年4月29日(金・祝)~ 7月3日(日)
時間:9:30~17:30 *夜間開館は行いません
休館:毎週月曜日(但し5/2、5/16は開館)
会場:江戸東京博物館 1階展示室 (東京都墨田区横網1丁目4番1号)
主催:東京都江戸東京博物館/大本山増上寺/日本経済新聞社
監修:山下裕二(明治学院大学教授)
協力:浅野研究所
先だって行われた記者発表会も以下のエントリにまとめてあります。
記者発表時に作品を前にして解説する山下先生。
「狩野一信 五百羅漢」展 記者発表会 (前編)
「狩野一信 五百羅漢」展 記者発表会 (後編)
展覧会の開幕はGW初日の4月29日です。閉幕も7月までと延長されました。
「芸術新潮2011年5月号/五百羅漢の絵師 狩野一信/新潮社」
まずはこの特集号を存分に楽しみたいと思います。
震災により開催が約1ヶ月半ほど延期された「五百羅漢 狩野一信展」ですが、本誌面上にてそれに準拠する特集が組まれています。
見開きに登場する怒涛の全100幅の図版だけでもお腹いっぱいになりそうですが、豊富なテキストも一信の五百羅漢の特異性を知るのに相応しい内容ではないでしょうか。
特集の目次は以下の通りです。
第一部 江戸絵画の最終ランナー 狩野一信再発見 解説:山下裕二
折り込み全図集 150年の眠りから覚めた これが狩野一信「五百羅漢図」の全てだ
狩野一信「五百羅漢図」で読み解く 羅漢様の生活と意見
羅漢様のデイリーライフ(1~10幅)
良い子からチョイ不良オヤジまで 羅漢学院ただいま入学受付中(11~20幅)
羅漢レスキュー隊、六道をゆく(21~40幅)
洋風に描いてみました 羅漢さまの修行あれこれ(41~50幅)
とーぜん超能力者です(51~60幅)
ペットは霊獣(61~70幅)
波乗り羅漢の龍宮ツアー(71~74幅)
羅漢さまにおまかせ、出産も建築も(75~80幅)
羅漢レスキュー隊ふたたび(81~90幅)
一信死すとも羅漢は死せず(91~100幅)
狩野一信 幕末の激動を生きた48年
第二部 一信に導かれて全国の五百羅漢を旅する 文:山下裕二
五百羅漢寺(東京)、少林寺(埼玉)、建長寺(神奈川)他
全国五百羅漢図めぐりマップ
インタビューはもちろん、文章の殆どを展覧会の監修をつとめた山下裕二氏が担当しています。読みごたえは十分でした。
特集第一部は「狩野一信再発見」と題し、全100幅の五百羅漢図を順に沿って解き明かしています。
例えば「羅漢レスキュー隊、六道をゆく」などのキャッチーなタイトルからしてぐいぐい引き込まれますが、解説自体は当然ながら本格的です。
そもそも一信の五百羅漢図にはほぼ先行例がないことや、登場する全500人の羅漢の衣装には殆ど同じ柄がないこと、一方で西洋の銅版画の技法を参照していたことなどが示されています。
また一見、同じような作風にもとれる100幅にも実は波があり、表現の激しさでは二十二幅の「六道」が、また技法面では五十幅の「十二頭陀」がピークに当たることにも触れられています。
掲載の図版を見ても、晩年の作品はどこか弛んでいる様子が分かりますが、その要因として一信の健康や弟子の関与の問題などが挙げられていました。
またどうしても異様なビジュアル面ばかりに目が向いてしまいますが、当然ながら作品は仏画であり、登場する羅漢には役割も与えられています。あの気持ち悪い顔をはぐ菩薩なども、中国の六朝時代の伝承に基づいていることが指摘されていました。
また興味深いのは一信の女性に対する視線です。 五十五幅における首吊り死の女性や七十五幅の出産直後の女性の描写は恐ろしく、彼のどこか屈折した性癖のようなものが表れていないかとの記述がありました。
第二部は羅漢への旅です。江戸時代に隆盛した羅漢信仰によって、今も全国には羅漢の石仏が点在しますが、それを山下先生が訪ねていきます。
若冲が晩年過ごした京都・石峰寺などは有名なところですが、ここで注目すべきは兵庫県の北条五百羅漢と大分県の耶馬溪羅漢寺です。 特に耶馬溪には一信の作品に通じる驚くべき羅漢が登場します。是非とも誌面でご覧になって下さい。
ちなみにこの耶馬溪への取材は東日本大震災の後に行われたそうです。実は震災当日も山下先生は展示の確認のために両国へと向かいながら、結局たどり着くことが出来かったそうですが、この特集を読んでいると、震災後も更なる取材・研究を続け、ついには展覧会の再開へとこぎ着けた一種の執念を感じてなりません。
一信自身も安政の大地震に被災したそうですが、ともかくも災害を超えて羅漢に思いをよせる山下先生の熱意には心打たれました。
さて改めて展覧会の情報です。
「法然上人八百年御忌奉賛 五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信」
会期:平成23年4月29日(金・祝)~ 7月3日(日)
時間:9:30~17:30 *夜間開館は行いません
休館:毎週月曜日(但し5/2、5/16は開館)
会場:江戸東京博物館 1階展示室 (東京都墨田区横網1丁目4番1号)
主催:東京都江戸東京博物館/大本山増上寺/日本経済新聞社
監修:山下裕二(明治学院大学教授)
協力:浅野研究所
先だって行われた記者発表会も以下のエントリにまとめてあります。
記者発表時に作品を前にして解説する山下先生。
「狩野一信 五百羅漢」展 記者発表会 (前編)
「狩野一信 五百羅漢」展 記者発表会 (後編)
展覧会の開幕はGW初日の4月29日です。閉幕も7月までと延長されました。
「芸術新潮2011年5月号/五百羅漢の絵師 狩野一信/新潮社」
まずはこの特集号を存分に楽しみたいと思います。
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