都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「若冲誕生〜葛藤の向こうがわ」 福田美術館
福田美術館
「若冲誕生〜葛藤の向こうがわ」
2020/3/28~7/26 *会期終了
福田美術館で開催されていた「若冲誕生〜葛藤の向こうがわ」を見てきました。
江戸時代の京都の絵師、伊藤若冲の初期作品「蕪に双鶏図」が、福田美術館にて初めて公開されました。
それが「若冲誕生〜葛藤の向こうがわ」で、同作を含めた若冲の初期から晩年までの絵画と、蕭白や応挙といった同時代の作品が約90点ほど展示されていました。(前後期で多数入れ替え。)*一部作品の撮影が可能でした。
伊藤若冲「蕪に双鶏図」 福田美術館
蕪畑に番の鶏を描いた「蕪に双鶏図」は、若冲が「景和」と名乗っていた30代の頃の作品で、現在確認し得る最も早い「雪中雄鶏図」(細見美術館)より先に制作された可能性があると考えられています。
雄鶏は首を回転しながら長い尾をこれ見よがしに振りかざしていて、一方の雌は蕪の葉に隠れるかのようにうずくまっていました。ここで目を引くのは、鶏よりも蕪の葉の描写で、たくさんの穴が開いているとともに、枯れはじめているのか、茶色に変色しているものも見られました。いかにも若冲ならではの表現ではないでしょうか。
伊藤若冲「梅花双鶏図」 個人蔵
これまでにも多く開かれてきた若冲に関する展覧会ですが、今回は個人と京都の寺の所蔵する作品が大半を占めているのが特徴と言えるかもしれません。よって見慣れない作品も少なくありませんでした。
伊藤若冲「蟹・牡丹図」 個人蔵
そのうち私が惹かれたのが、衝立の表と裏に蟹と牡丹を描いた「蟹・牡丹図」で、右から左に吹く強い風にたなびく牡丹が素早い筆触で表されていました。花や葉を象る曲線は勢いが強く、もはや花は風によって引きちぎられるかのようでした。
伊藤白歳「南瓜雄鶏図」 宝蔵寺
若冲の弟である白歳の「南瓜雄鶏図」も興味深い作品で、どすんと落ちたかのように地面にある南瓜の後ろには、一羽の雄鶏がうずくまるように片足を掛けていました。鶏の表情が妙に人懐っこく、可愛らしくも見えました。
伊藤若冲「六月四日付藤幸之助宛て書簡」 個人蔵
現存する唯一の若冲の手紙である、「六月四日付藤幸之助宛て書簡」も重要な資料かもしれません。時節の挨拶に始まり、押絵の値段について伺いを立てる内容が記されていて、即興的な絵も描かれていました。
左:伊藤若冲「花卉双鶏図」 個人蔵
この他に若冲では南蘋派の影響の色濃い「花卉双鶏図」や、S字状の鳳凰を筋目描で表現した「鳳凰図」などにも魅せられました。ともかく粒揃いゆえに、お気に入りの作品を見つけるにはさほど時間はかかりませんでした。
白隠「神農図」 福田美術館
さてこの「若冲誕生」展で見過ごせないのは、若冲以外の京都の絵師にも優品が多いことでした。まず目を引いたのが白隠の「神農図」で、古代中国の伝承に登場する神農をかなり細かな筆致で表していました。上目遣いに見やる顔相や髭の描写などは、白隠としては驚くほどリアルで、どことなく凄みすら感じられました。
左:長沢芦雪「月竹図」 個人蔵
芦雪の「月竹図」は、しなやかなカーブを描いて伸びる竹を描いていて、上部には満月がかかり、おぼろげな光を放っていました。細く縦に長い画面を効果的に活かしているのではないでしょうか。
「若冲誕生」展に続くパノラマギャラリーでは、ファッションデザインをテーマとした靴の作品で知られる串野真也が、若冲にインスピレーションを受けて制作した作品を展示していました。若冲画における鶏の尾を巧みに靴の装飾へ取り込んでいて、互いに見比べるのも面白いかもしれません。
ところで2019年10月に京都・嵐山に開館した福田美術館ですが、私は今回の展示で初めて行ってきました。
嵐電嵐山駅より歩いて5分弱ほどの渡月橋に近いロケーションで、館内からも大堰川越しの嵐山のダイナミックな景観を一望することができました。
周囲に溶け込んだようなこの字型の建物は、京町家をイメージしつつもモダンな印象を与えていて、大堰川に面した庭には水盤が広がっていました。
展示室は1階と2階、カフェとミュージアムショップは2階にあり、カフェは渡月橋を斜め正面から望めるように造られていました。
「100年続く美術館」をコンセプトに開館した福田美術館には、江戸時代から近代にかけての絵画、約1500点がコレクションされています。既に開館から半年以上経ちましたが、近隣には嵯峨嵐山文華館もあり、今後も嵐山を代表するアートスポットとして人気を博すかもしれません。
「若冲誕生」は7月26日で会期を終えました。次回展は8月1日より「大観と春草ー東京画壇上洛」が10月11日まで開催されます。
「若冲誕生〜葛藤の向こうがわ」 福田美術館(@ArtFukuda)
会期:2020年3月28日(土)~7月26日(日) *会期終了
休館:火曜日。但し祝日の場合は翌日。
時間:10:00~17:00。最終入館は16時半まで。
料金:一般・大学生1300(1200)円、高校生700(600)円、小中学生400(300)円。
*公式オンラインチケットあり。(各100円引)
住所:京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3-16
交通:嵐電(京福電鉄)嵐山駅下車、徒歩4分。阪急嵐山線嵐山駅下車、徒歩11分。JR山陰本線(嵯峨野線)嵯峨嵐山駅下車、徒歩12分。
「若冲誕生〜葛藤の向こうがわ」
2020/3/28~7/26 *会期終了
福田美術館で開催されていた「若冲誕生〜葛藤の向こうがわ」を見てきました。
江戸時代の京都の絵師、伊藤若冲の初期作品「蕪に双鶏図」が、福田美術館にて初めて公開されました。
それが「若冲誕生〜葛藤の向こうがわ」で、同作を含めた若冲の初期から晩年までの絵画と、蕭白や応挙といった同時代の作品が約90点ほど展示されていました。(前後期で多数入れ替え。)*一部作品の撮影が可能でした。
伊藤若冲「蕪に双鶏図」 福田美術館
蕪畑に番の鶏を描いた「蕪に双鶏図」は、若冲が「景和」と名乗っていた30代の頃の作品で、現在確認し得る最も早い「雪中雄鶏図」(細見美術館)より先に制作された可能性があると考えられています。
雄鶏は首を回転しながら長い尾をこれ見よがしに振りかざしていて、一方の雌は蕪の葉に隠れるかのようにうずくまっていました。ここで目を引くのは、鶏よりも蕪の葉の描写で、たくさんの穴が開いているとともに、枯れはじめているのか、茶色に変色しているものも見られました。いかにも若冲ならではの表現ではないでしょうか。
伊藤若冲「梅花双鶏図」 個人蔵
これまでにも多く開かれてきた若冲に関する展覧会ですが、今回は個人と京都の寺の所蔵する作品が大半を占めているのが特徴と言えるかもしれません。よって見慣れない作品も少なくありませんでした。
伊藤若冲「蟹・牡丹図」 個人蔵
そのうち私が惹かれたのが、衝立の表と裏に蟹と牡丹を描いた「蟹・牡丹図」で、右から左に吹く強い風にたなびく牡丹が素早い筆触で表されていました。花や葉を象る曲線は勢いが強く、もはや花は風によって引きちぎられるかのようでした。
伊藤白歳「南瓜雄鶏図」 宝蔵寺
若冲の弟である白歳の「南瓜雄鶏図」も興味深い作品で、どすんと落ちたかのように地面にある南瓜の後ろには、一羽の雄鶏がうずくまるように片足を掛けていました。鶏の表情が妙に人懐っこく、可愛らしくも見えました。
伊藤若冲「六月四日付藤幸之助宛て書簡」 個人蔵
現存する唯一の若冲の手紙である、「六月四日付藤幸之助宛て書簡」も重要な資料かもしれません。時節の挨拶に始まり、押絵の値段について伺いを立てる内容が記されていて、即興的な絵も描かれていました。
左:伊藤若冲「花卉双鶏図」 個人蔵
この他に若冲では南蘋派の影響の色濃い「花卉双鶏図」や、S字状の鳳凰を筋目描で表現した「鳳凰図」などにも魅せられました。ともかく粒揃いゆえに、お気に入りの作品を見つけるにはさほど時間はかかりませんでした。
白隠「神農図」 福田美術館
さてこの「若冲誕生」展で見過ごせないのは、若冲以外の京都の絵師にも優品が多いことでした。まず目を引いたのが白隠の「神農図」で、古代中国の伝承に登場する神農をかなり細かな筆致で表していました。上目遣いに見やる顔相や髭の描写などは、白隠としては驚くほどリアルで、どことなく凄みすら感じられました。
左:長沢芦雪「月竹図」 個人蔵
芦雪の「月竹図」は、しなやかなカーブを描いて伸びる竹を描いていて、上部には満月がかかり、おぼろげな光を放っていました。細く縦に長い画面を効果的に活かしているのではないでしょうか。
「若冲誕生」展に続くパノラマギャラリーでは、ファッションデザインをテーマとした靴の作品で知られる串野真也が、若冲にインスピレーションを受けて制作した作品を展示していました。若冲画における鶏の尾を巧みに靴の装飾へ取り込んでいて、互いに見比べるのも面白いかもしれません。
ところで2019年10月に京都・嵐山に開館した福田美術館ですが、私は今回の展示で初めて行ってきました。
嵐電嵐山駅より歩いて5分弱ほどの渡月橋に近いロケーションで、館内からも大堰川越しの嵐山のダイナミックな景観を一望することができました。
周囲に溶け込んだようなこの字型の建物は、京町家をイメージしつつもモダンな印象を与えていて、大堰川に面した庭には水盤が広がっていました。
展示室は1階と2階、カフェとミュージアムショップは2階にあり、カフェは渡月橋を斜め正面から望めるように造られていました。
「100年続く美術館」をコンセプトに開館した福田美術館には、江戸時代から近代にかけての絵画、約1500点がコレクションされています。既に開館から半年以上経ちましたが、近隣には嵯峨嵐山文華館もあり、今後も嵐山を代表するアートスポットとして人気を博すかもしれません。
【次回展覧会のお知らせ】「大観と春草 ―東京画壇上洛―」(2020.8.1-10.11)本展では若き日の横山大観と菱田春草にフォーカスし、院展を再興した東京画壇たちと近代日本画の世界をご紹介いたします。https://t.co/q832lRKXSx#福田美術館 #大観と春草 #横山大観 #菱田春草 #東京画壇 #日本画 pic.twitter.com/KpkgDtTvfv
— 福田美術館 Fukuda Art Museum (@ArtFukuda) July 5, 2020
「若冲誕生」は7月26日で会期を終えました。次回展は8月1日より「大観と春草ー東京画壇上洛」が10月11日まで開催されます。
「若冲誕生〜葛藤の向こうがわ」 福田美術館(@ArtFukuda)
会期:2020年3月28日(土)~7月26日(日) *会期終了
休館:火曜日。但し祝日の場合は翌日。
時間:10:00~17:00。最終入館は16時半まで。
料金:一般・大学生1300(1200)円、高校生700(600)円、小中学生400(300)円。
*公式オンラインチケットあり。(各100円引)
住所:京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3-16
交通:嵐電(京福電鉄)嵐山駅下車、徒歩4分。阪急嵐山線嵐山駅下車、徒歩11分。JR山陰本線(嵯峨野線)嵯峨嵐山駅下車、徒歩12分。
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