「帰ってきた!どうぶつ大行進」 千葉市美術館

千葉市美術館
「千葉市美術館拡張リニューアルオープン・開館25周年記念 帰ってきた!どうぶつ大行進」 
2020/7/11〜9/6



2019年末より拡張工事のため休館していた千葉市美術館が、7月11日にリニューアルオープンしました。

それを期して行われているのが「帰ってきた!どうぶつ大行進」で、江戸時代の絵画や版画を中心に、室町から昭和へと至る動物を描いた作品を紹介していました。そして単に動物のモチーフを並べるのではなく、「江戸のくらしとどうぶつたち」や「十二支のどうぶつ」、それに「学ぶ、遊ぶ、なりきる」など、全10章ものテーマを設定しているのも大きな特徴でした。

まず冒頭では「疫病破邪の生きもの表現」と題し、中国の疫病を防ぐ神である鍾馗をモチーフとした作品を展示していて、太刀で鬼を真っ二つに裂く鍾馗を奔放な筆遣いで描いた、仙崖の「鍾馗図」などを見ることができました。コロナ禍の今だからこその展示なのかもしれません。

私が特に印象に残ったのは、白い花をつけた植物を背に、一頭の獅子が闊歩する姿を表した酒井抱一の「唐獅子図屏風」でした。鋭い爪や睨みつけるような視線こそ堂々としたものの、例えば永徳の唐獅子のような凄みは薄く、むしろ飄々としているようにも思えて、可愛らしくも映りました。

円山応挙の「群鳥図」も魅惑的な一枚で、淡い色彩によって描かれた無数の鳥たちが、可憐に舞う光景を示していました。もはや鳥のパラダイスと呼んで良いかもしれません。

チラシ表紙を大きく飾った石井林響の「王者の瑞」も目立っていました。二曲一双の大きな屏風へ聖帝と大きく背を曲げた麒麟を表していましたが、実際の動物をモデルとしつつも霊獣として表現したため、神秘的な雰囲気も感じられました。

この他にも、極めて精緻に植物や虫を表した喜多川歌麿の「画本虫撰」や、多品種の蝶を巧みに描き分けた三熊花顛の「群蝶図巻」など、心を惹かれた作品は少なくありませんでした。それにエビとエダなどの類似する音の表現の違いを表した、明治時代の「第一単語図」といった、普段見慣れないような教育的とも言える資料が出ていたのも興味深く感じました。

ラストの「もっと!どうぶつ大行進」でも、俵屋宗達や伊藤若冲、神坂雪佳、小原古邨、田中一村など人気の絵師の優品が揃っていて、見どころは実に多岐にわたっていました。出展数もゆうに250点近く(一部に展示替えあり)にも及んでいて、全く不足することはありません。

2012年に千葉市美術館では一度、「どうぶつ大行進」展を開催していて、今回は新たに加わった作品を交えてのバージョンアップ版とのことでしたが、さすがに定評のある江戸絵画コレクションだけに、有名か無名を問わず、多彩な絵師の作品を網羅しているのも大きな魅力でした。



さてはじめにも触れましたが、千葉市美術館はこの7月に拡張リニューアルオープンしました。以前は建物の上階のみが美術館のスペースで、下の階には中央区役所が入居していましたが、区役所の移転に伴って、建物の全てが美術館になりました。



1階にはカフェとショップが新設され、エレベーターホール前には受付も設置されました。ただ受付でのチケットの販売はなく、8階の企画展示室、あるいは新設された5階の常設展示室のカウンターで購入する必要がありました。



同じく1階に位置し、旧川崎銀行千葉支店を保存した「さや堂ホール」では、NHK Eテレの「びじゅチューン!」とのコラボ企画「なりきり美術館」が開催されていました。葛飾北斎の「冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏」を模したインタラクティブのアニメーションなどが展示されていて、かつて東京国立博物館などで行われたコンテンツとほぼ同一のようでした。



リニューアルにて新たに美術館のフロアに加わったのは、4階と5階のスペースでした。まず4階には「子どもアトリエ」と「図書室」、「市民アトリエ」がオープンし、5階には「常設展示室」と「ワークショップルーム」が開設されました。



そのうちアーティストが滞在制作を行う4階の「子どもアトリエ」では、保育・教育施設などで空間デザインを手がける遠藤幹子が、「おはなしこうえん」と題する参加型のインスタレーションを展開していました。千葉に伝わる民話を出発点とした物語世界を、来場者とともにワークショップを交えて築いていく作品だそうです。



同じく4階の図書館には約4500冊の本が揃っていて、美術雑誌や同館の過去の展覧会のカタログなどを閲覧することができました。子どもを対象とした絵本や児童書が多いのも特徴かもしれません。



さらに4階にはコンセント付きの休憩コーナーも誕生しました。かつての千葉市美術館はゆっくり休める場所がなかっただけに、嬉しいスポットと言えそうです。



5階の常設展示室では「千葉市美術館コレクション名品選 2020」と題し、約60点ほどの収蔵作品が公開されていました。現在の展示は「描かれた千葉市と房総の海辺/美人画百花 描かれたひとびと/特集 草間彌生」の3つのテーマのもとに行われていて、一部の作品は自由に撮影することが可能でした。



「コレクション名品選」は概ね1ヶ月おきに展示替え(現代美術は3ヶ月おき)が予定されていて、8月4日からは「描かれた千葉市と房総の海辺/美人画百花 肉筆浮世絵/ 夏休み特集 妖怪も大行進」が開催されます。(草間彌生の特集展示は9月まで入れ替えなし)



菱川師宣や喜多川歌麿の浮世絵の名品をはじめ、竹久夢二の装丁から橋口五葉、伊東深水の版画、さらにはビゴーの稲毛の海岸を描いた絵画など、実に多岐にわたったラインナップで、改めて千葉市美術館の幅広いコレクションを堪能することができました。また撮影こそ叶わなかったものの、草間彌生の特集展示も大型の立体や絵画なども展示されていて、思いの外に見応えがありました。



最後に新型コロナウイルス感染症対策に関する情報です。マスクの着用、及び館内に消毒液が設置されていましたが、特に検温はなく、入場に関しても予約制はとられていません。JR千葉駅より東口エリアを巡回し、美術館前にもバス停のあるC-busが運休となっていました。再開日は現在のところ未定です。



この日は1階のカフェのみを利用しましたが、今後は11階のレストラン、及び地下1階にはバルの開業も予定されています。


これまでにも好企画を続け、質量ともに充実した展覧会を行ってきた千葉市美術館ですが、ワークショップルームや常設展示室などもオープンしたことで、かなり魅力的な施設になったのではないでしょうか。今後の展開にも大いに期待したいと思います。

「帰ってきた!どうぶつ大行進」は9月6日まで開催されています。おすすめします。

「千葉市美術館拡張リニューアルオープン・開館25周年記念 帰ってきた!どうぶつ大行進」 千葉市美術館@ccma_jp
会期:2020年7月11日(土)〜9月6日(日)
休館:7月20日(月)、8月3日(月)、17日(月)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
 *入場受付は閉館の30分前まで
料金:一般800(640)円、大学生500(400)円、高校生以下無料。
 *ナイトミュージアム割引:金・土曜日の18時以降は観覧料が半額。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口よりC-bus(バスのりば16)にて「中央区役所・千葉市美術館前」下車。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (damabiah0211)
2020-07-26 03:29:00
はろるど様 とてもすばらしいものを見せていただき、ありがとうございました。
良質な文化に触れることは殆どないので、ワクワクしながら拝見いたしました。
 
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