『大正・昭和の建築物を訪ねて』その4。今回はさらにお隣の兜町を歩いてみた。コロナウィルスの関係で近間ばかり歩いているが、証券会社の町である兜町にもまだ古い建物は残されている。
証券取引所そのものは1988年に建て替えられたものでそれ以前の旧取引所ビル(市場館1927年、本館1931年)は現存しない。
ただ、取引所ビルと日本橋川に挟まれた日証館は1928年築のオフィスビルで半円アーチの重厚な建物である。ここにはもともと渋沢栄一の住居があったが、関東大震災で焼失、その後に建てられた。
中小証券や業界紙などがかつてのテナントであったが、現在は証券会社は皆無で日本橋公証人役場、平和不動産のほか弁護士・会計士事務所、健康保険組合などが多い。
証券取引所に沿って歩いていき、右に曲がると石造の建物が2軒、手前が山ニ証券。会社自体は明治創業だが、この建物は昭和11年。スパニッシュ風のオフィス建築で1階は石張り、2階以上はタイル張り、円窓や飾りのあるアーチ窓などがある。
こじんまりしているが、綺麗な建物である。因みに日証館同様、建築は清水組(清水建設の前身)である。
その奥がフィリップ証券。元は成瀬証券の本店だったが、2011年にフィリップフィナンシャルと合併している。昭和10年築の白い石造りの建物は装飾は簡素で金融機関らしいがっしりとした質実剛健と言ってもいい建物。建築家は京都中央信金丸太町支店(元第一銀行)と同じ西村好時である。
実は現在では兜町に残る証券会社の本店は紹介した山ニ、フィリップのほかは三田証券、山和証券、共和証券の5社しかない。
最後にかつて証券マンが愛用し、特に相場の上昇を願って通った創業70年の鰻屋『松よし』だが、2018年末にひっそりとのれんを下ろした。その建物も半分だけ残されているが、かつて栄えた飲食店も減ってしまっていた。