三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「ドント・ブリーズ2」

2021年08月19日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「ドント・ブリーズ2」を観た。
 
 座頭市のような雰囲気がある映画である。もちろん北野武ではなく、勝新太郎のほうだ。背景となる人物を一切出さないので、作品の舞台が寂れて荒涼とした場所に思える。それに格闘場面の接写だ。座頭市と同じように、虚しい闘いをしていることを当事者が自覚しているような感じがする。
 ハリウッドのB級映画らしくどうしても家族がテーマになってしまうが、盲目の老人のタフネスぶりと、悪人は殺せても犬は殺せないという妙な優しさのおかげで、家族第一という世界観は薄れる。ストーリーは意味不明に襲撃してくる集団と老人の闘いだが、終盤になって襲ってきた理由が明らかになる。よくできた脚本だと思う。
 
 娘の役を演じたマドリン・グレースという14歳の女の子の演技が凄い。本作品が映画デビュー作のようだが、怒ったり虚勢を張ったり怯えたり安堵したりの表情が多彩で、特に終盤のおどろおどろしい場面での活躍は見事であった。
 主演のスティーヴン・ラングは69歳。撮影時は68歳だと思うが、身体を見ると歳に似合わない若々しさである。この人の演技も凄かった。目が見えないから視覚による表情の変化を抑制して、他の感覚による表情の変化だけを演じるという難しい演技だったが、まったく違和感を覚えなかった。苦痛に歪む顔にリアリティがある。
 
 前作は鑑賞していないが、本作だけで十分に鑑賞に耐えられる作品に仕上がっている。とても面白かった。

映画「フリー・ガイ」

2021年08月19日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「フリー・ガイ」を観た。
 
 面白かった。あっという間の2時間である。予告編を観て、オンラインゲームのザコキャラが自分がザコキャラで同じ毎日を繰り返しているだけであることに気づいて、そこからの脱却を図るストーリーだというのは頭に入っていた。どうしてそうなったのか、そのあとどうなるのかが見処に違いない。
 AIが多くの分野で活躍しつつある時代である。オンラインゲームのザコキャラをAI設定したら、そのうち自分の意思で勝手に動くようになってもおかしくはない。ただザコキャラが活躍する場はゲームの世界だから、そのゲームのサーバーの中でしか生きられない。そうするとなんとも世界が狭い矮小な話になってしまうのではないかと懸念していた。
 しかし流石に上手に作るものである。マサチューセッツ工科大学出身の天才プログラマーであるキーズを陰の主人公にして、彼が作ったAIプログラムが暴走したという設定にすれば、現実とゲームを繋げられてリアリティがあるし、観客としても納得しやすい。キーズによれば、それは暴走ではなく、予め平和的に作成されたAIのひとつであり、勝手に動き出させることに失敗したと思っていたキャラクターなのだ。
 
 ライアン・レイノルズが演じるザコキャラ銀行員のガイが、ザコキャラ設定から逃れてフリーのキャラクターとなっていく場面は、AI将棋が同じ局面を繰り返すうちに新手を編み出すのに似ている。将棋の世界ではもはや人間はAIの敵ではなく、人間が指した手がAIが推奨している手と同じ場合に高評価されるほどである。
 と考えていくと、映画「ターミネーター」が37年前に指摘した、AIが世界を制する時代もそう遠くないのかもしれない。現にAIを搭載したドローンやグライダーも開発されているし、それらのAIが本作品のフリー・ガイのように、自分で考えて攻撃対象や攻撃方法を決めるようになってもおかしくはない。
 そうなったときにAI開発者たちはどのように対処するのか。本作品は続編の製作が既に決まっているようだが、そのテーマがAI武器の暴走ということになると面白いかもしれない。もはやゲームの世界だけの問題ではなくなる。ペンタゴンやオーバルオフィスも巻き込んでの大騒ぎになるだろう。
 そのときキーズやミリーはどのように対処するのか。緑の楽園を理想郷とする程度の思想では太刀打ちできない。世界観を構築し直す必要がある。どのような世界観がAI兵器の暴走を止められるのか。
 なかなか楽しみではあるが、あくまで当方の勝手な想像である。AI兵器の開発をしているペンタゴンと軍需産業にとって迷惑な映画になるようならすぐに横槍が入るだろう。ディズニーが強権に逆らうはずがないので、続編もゲームの世界と少しばかりの人間関係にとどまるかもしれない。