三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「生きててよかった」

2022年05月20日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「生きててよかった」を観た。
絶賛公開中!映画『生きててよかった』公式サイト

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絶賛公開中!映画『生きててよかった』公式サイト。嘲笑え、闘いに魂を食い尽くされた男の姿を。落ちぶれた元ボクサーが最強に!?ドニー・イェンが認めた本場中国からの逆...

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 ロバート・デ・ニーロとクリストファー・ウォーケンが主演した映画「ディア・ハンター」を連想した。あちらは戦争とロシアン・ルーレットで、こちらは格闘技という違いはあるが、いずれも命のやり取りをしていなければ、生きている実感を感じないという話だ。
 地下格闘技には、ルールの沢山ある表の格闘技では得られないカタルシスがある。悪意のこもった鬱憤を晴らすことができるのだ。コロッセオでの格闘に等しい。その後キリスト教が布教するに従って残酷な格闘技は禁止されたが、他人と命がけで戦う恐れ知らずの男たちと、戦いを見るのを楽しむ観客の構図は、世界中で連綿と続いている。

 脇役陣の中には知っている俳優が何人かいたが、主役の創太と幸子の役者は初めて見た。創太役の木幡竜は、体脂肪率が5%ないだろうと思えるほど絞り込んだ身体をしている。たいしたものだが、日焼けサロンで焼いたみたいな肌の黒さは、ちょっと不自然だった。表情に乏しいのは戦うことしか頭にないからで、この演技は悪くない。不器用を絵に描いたような男だが、その分誠実さは人一倍だ。幸子はその誠実さを愛したのだろう。

 幸子役の鎌滝恵利は、すごく綺麗に見えるときとちょっとブスに見えるときがあって、それはいい女優に共通する特徴だ。泣くシーンがよかった。泣くのは複数の感情が胸に迫るからで、悲しさと寂しさに愛しさが加わったときなど、人は無防備な表情で泣く。泣くときに顔が歪むのはわざと泣いているか、邪な感情が加わっているかである。ハラハラと泣けるかどうかで、その時点のその女優の力量がわかる。鎌滝恵利はなかなかいい表情で泣いていた。

 誠実な男がその誠実さ故に野獣のように戦う。自分にできることは戦うことだけだ。ならば戦って、女の愛に応える。しかし愛に飢えた女は愛を与えてくれることを求める。女に必要なのは継続する日常であって、命がけの戦いではない。すれ違う愛に、安全無事な結末はない。ラストはあれでいいと思う。創太は思う存分、生きたのだ。

映画「Vanishing」(邦題「バニシング 未解決事件」)

2022年05月20日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「Vanishing」(邦題「バニシング 未解決事件」)を観た。
映画『バニシング:未解決事件』公式サイト

映画『バニシング:未解決事件』公式サイト

映画『バニシング:未解決事件』公式サイトです。5月13日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国公開

映画『バニシング:未解決事件』公式サイト

 本作品のオルガ・キュリレンコは、映画「Les traducteurs」(邦題「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」)のときのバッチリメイクと打って変わって、薄化粧で登場する。とはいえ、相当の美人であることに変わりはない。ウクライナ出身で、ウクライナ語とロシア語の他に、フランス語と英語とスペイン語とイタリア語が喋れる。
 韓国映画だが、シーンの多くが英語とフランス語で進められる。言語が違うと、ソウルの街が違って見えるのが不思議だ。ハングルの喧騒がエキゾチズムに変化するようである。

 原題は英語のVanishing(失踪)で、大人でも子供でも誘拐して臓器を取り出して売買を行なう秘密組織があるという設定になっている。臓器の提供を受けるのは一部の金持ちや支配層だ。主人公の警察官は、オルガ・キュリレンコ演じる医師から失踪者が殺された目的を告げられ、秘密組織に迫ろうとする。このあたりのシーンはスピード感があって、興味深く鑑賞できた。面白い作品だと思う。

 医学が臓器移植という神をも恐れぬ禁断の所業を発明したのと時を同じくして、臓器売買がはじまったのではないかと、推測している。そして日本でも臓器売買は実際に行なわれているのではないかと当方は疑っている。警察庁発表のデータによると日本の行方不明者は次のようである。
 行方不明者の数 年間80,000人
 9歳以下の数 年間1,200人
 10代の数 年間16,000人
 誘拐事件 年間300件(300人)
 内20歳未満 年間200件(200人)

 大人の行方不明は個人的な事情だとして、9歳以下の子供が個人的な事情で失踪する可能性は少ない。1,200人の内の2/3が事故だとしても、残り400人の行方不明の原因がわからない。20歳未満の誘拐が全部9歳以下だとしても、残り200人は行方不明だが、誘拐事件として立件されていないということになる。
 誘拐犯から脅迫の電話がかかってきても、無視する親はいると思う。テレビドラマでは半狂乱になる親のシーンばかりだが、そうでない親もいるに違いない。「え?誘拐?うちの子を? あ、そう。それで? 何言ってんだお前、金なんかあるかバカ!」と電話を切ってしまうのだ。そして保護者の義務として行方不明届だけは提出する。見えない誘拐事件だ。
 行方不明の子供のほとんどが当日中に保護者のもとに戻ったとしても、確率論的に言えば、戻らないままの子供もいると思う。そこで疑われるのが、臓器売買のためにさらわれた可能性だ。
 臓器移植には相性の問題があるから、同じ日本人の臓器を望む人もいるだろう。コイズミからアベシンゾウに至る自公政権で日本はとことん腐敗したから、貧困ビジネスを営むように臓器売買を営む悪人が出現していてもおかしくない。

 本作は臓器売買という悪行が実際に横行していることを知らせるとともに、臓器移植の是非について改めて問題を提起したという点で、サスペンス以上の価値があると思う。悪くなかった。