三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「わが青春つきるとも 伊藤千代子の生涯」

2022年05月10日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「わが青春つきるとも 伊藤千代子の生涯」を観た。
わが青春つきるとも 伊藤千代子の生涯 : 作品情報 - 映画.com

わが青春つきるとも 伊藤千代子の生涯 : 作品情報 - 映画.com

わが青春つきるとも 伊藤千代子の生涯の作品情報。上映スケジュール、映画レビュー、予告動画。24歳の若さで命を落とした昭和初期の社会活動家・伊藤千代子の生涯を映画化...

映画.com

 川平慈英ではないが、絶対に負けられない戦いがある。負けてもどうということのない川平慈英の戦いと違って、国家主義権力との戦いは、負けたら平和を失い、自由を失い、最後は命を失う。
 古今東西、女性は常に虐げられてきた。選挙制度のある国で婦人参政権が認められたのは、ほとんどが20世紀に入ってからである。日本では戦争に負けて、マッカーサーの統治下での勅令によって、婦人参政権が認められている。政治運動家はたくさんいたが、権力者を倒したのはアメリカで、日本国民全員が民主主義に目覚めた訳ではないのだ。
 だから未だに「英霊」などという言葉を使って国家に無駄に殺された兵隊を崇めている連中がいる。アホである。民主主義が技術を向上させて生活を豊かにしたのに、それが理解できずに国家主義を信奉している。アベシンゾウがその代表である。頭の悪い人間が国家主義者となるのである。

 それにしても本作品の主人公である伊藤千代子は立派だ。立派すぎて涙が出る。治安維持法を振りかざして特高警察がやりたい放題の取締りと拷問をしている時代に、天皇制反対と戦争反対を堂々と主張する勇気に感服した。若さゆえの思い込みの激しさも手伝って、天皇による独裁政治にとことん反対する。本当の芯の強さを持つのは女性の方だ。

 伊藤千代子の死(1929年)から100年近くが経って、世界は女性の活躍が目立つようになった。アンゲラ・メルケルのような優れた政治家も出現した。しかし安心はできない。国家主義は世界中に蔓延しつつある。融和と継続を求める民主主義に対して、国家主義は断絶と闘争に走る。国家主義では内心の自由さえ認められない。政治家や役人の言いなりになっていると、気がついたときには権利を奪われ、フィジカルもメンタルも国家に従属することになりかねない。
 だから反戦はどんな時代でも主張し続けなければならない。第二次世界大戦が終わってからも、いまだに戦争映画が作り続けられるのは、国家主義に対する危機感からだ。本作品もその系列にあると思う。伊藤千代子の理想と危機感は、共有しなければならない。
 日本が国家主義に陥る危険はとても大きい。それは太平洋戦争の時代に逆戻りとなることだ。時代がどんなに平和に見えても、国家主義者たちは国民の権利を蹂躙する機会を伺っている。国家主義には絶対に負けられない。

 井上百合子の演技は悪くなかった。女工たちに悲壮感がなかったのは、敢えてそういう演出にしたのだと思う。後半の苦しい描写にそなえて、前半は努めて明るい雰囲気で、伊藤千代子の幸せだった時間を伝えたかったのだろう。心に残る作品である。

映画「ホリック xxxHOLiC」

2022年05月10日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「ホリック xxxHOLiC」を観た。
映画『ホリック xxxHOLiC』公式サイト

映画『ホリック xxxHOLiC』公式サイト

累計1400万部超!CLAMPの伝説的大ヒットコミック、初実写映画化!究極に妖しく美しい、新体感ビジュアルファンタジー!! 監督:蜷川実花 主演:神木隆之介×柴咲コウ 2022年4...

映画『ホリック xxxHOLiC』公式サイト

 印象は壮大なゲゲゲの鬼太郎である。しかしゲゲゲの鬼太郎のような分かりやすさがない。アヤカシも女郎蜘蛛もどこから来て何をしようとしているのか、何もわからない。そもそも説明しようとする意図が感じられない。
 頼りは役者の演技力だが、神木隆之介と柴咲コウが存在感を出していたのに比べて、女郎蜘蛛の吉岡里帆は頼りない。演技は十分だったから、演出の問題だと思う。強敵の役なのだから、もっとおどろおどろしい恐ろしさがなければならないのに、見た目は渋谷の女子高生だ。これでは吉岡里帆がどんなに演技上手でも、ゲゲゲの鬼太郎に出てくる強敵のような怖さはない。

 豪華な衣装を身に着けているはずの柴咲コウも、ミニスカで頑張る吉岡里帆も、何故かちっとも美しく見えなかった。ファッションショーのランウェイを歩くモデルがちっとも綺麗に見えないのと同じだ。人間よりも衣装を美しく見せようとするならファッションショーで十分で、映画にする必要はない。

 能書きみたいな台詞が多い作品だが、どの台詞も空疎に響く。ただ、神木隆之介がビルから飛び降りようとするときの台詞「死にたい理由は特にない。生きていたい理由はもっとない」だけが心に残った。
 この台詞が掘り下げられていくのかと期待していたが、そんなことはなかった。ただ強引な決めつけの台詞が並べられるだけだ。そこにはリアリティも何もない。これほど空疎な映画はあまりないかもしれない。ゲゲゲの鬼太郎のほうがずっとましだ。