映画「ヘィ!ティーチャーズ!」を観た。
ロシア映画『ヘィ!ティーチャーズ!』2022年6月25日(土)〜ユーロスペースにてロードショー、全国順次公開
ロシア映画『ヘィ!ティーチャーズ!』公式サイト。大都会モスクワから、ロシア地方都市の学校に赴任したふたりの新米教師に密着したドキュメンタリー映画。理想を胸に学校...
ロシア映画『ヘィ!ティーチャーズ!』
2020年の映画である。2年後にプーチンがウクライナ侵攻という蛮行に出ることについて、漠然とした予感があったのかもしれない。映画全体を妙に不穏な空気が包んでいる。
本作品を観た限りでは、ロシアの教師は日本の教師よりも授業のやり方に関して自由なところがあるようだ。カリキュラム絶対ではなく、自分なりの教材を使うことも許される。その代わりに馘になることもあるらしい。馘の基準は、反体制的かどうからしい。
自分を「先生」と呼ばせる輩にろくな奴はいないというのが当方の持論だ。ちなみに中国語の「先生」xiān sheng は、英語のMr.(ミスター)と同じで「〜さん」という意味合いである。学校の教師には老師 lǎoshī を使う。
ロシア語がわからないので、字幕の元の単語がどんな意味なのか不明だが、教師が自分のことを「先生」と呼んでいたのには違和感があった。日本の学校の教師の多くがそのように話す。自分で「先生は〜」などという文脈で話すほど恥ずかしいことはない。思い上がりが透けて見えるからだ。ロシア人教師も日本人教師と同じように思い上がっているのだろうか。
教育現場の主役は誰なのか。
こういう生徒を育てたいと考えていたエカテリーナは、理想の授業と現実とがかけ離れていることに疲弊してしまう。彼女の教育とは、育てたい自分が主役であった。自分の理想を生徒に押し付けようとするから、軋轢が起こり、授業がうまくいかない。
一方、生徒の自主性にある程度任せたワシーリーは、授業中はスマホを集めるなど、最低限のルールは押し付けるものの、比較的楽しい授業ができている。ワシーリーの授業の主役は生徒である。自由にやらせた結果、生徒は自分自身で物を考えることができるようになる。素晴らしい成果だが、得てしてそういう成果は反体制的な考え方を生み出す。
プーチンのロシアは、ソ連時代に逆戻りしている。思えばゴルバチョフが最初で最後のソ連大統領になった頃が、ロシア人は一番自由だった。プーチン体制のもと、再び全体主義への道を一直線に歩み続けている。
ドキュメンタリーだから、登場人物にはその後の人生がある。対極的な教師であったふたりの新米教師のその後。全体主義的なエカテリーナは、おそらくプーチン体制のモスクワで出世しているだろう。自由な授業を行なったワシーリーは、もしかしたら反体制的な考え方の生徒を生み出したかどで、粛清されているかもしれない。