映画「X」を観た。
痛快作である。ホラー映画の被害者は、大抵が平凡な一般人に設定されている。普通の人が極限状況に追い込まれるところに感情移入するからだ。しかし本作品はそうではない。その理由はエンドロールの後でわかる。
ストリップ小屋の支配人とストリッパーが映画好きの学生監督でポルノ映画を撮りに出かけるストーリーだが、職業とは裏腹に、みんな意外に普通の人々である。それがわかって観客が少しホッとしたところで、惨劇がスタートする。このあたりの緩急のつけ方が上手い。
老夫婦も撮影隊と変わらず、割と普通の人である。暴力に対するブレーキの度合いが違うだけだ。しかしその僅かな違いが、否応なしに加害者と被害者に分けてしまう。そこが並のホラー作品と一線を画するユニークなところだ。音楽もいい。コーラスとして歌われる不協和音がこれほど不気味に聞こえるとは思わなかった。
映画「ブラックフォン」や「哭悲 THE SADNESS」もそうだが、ホラー作品にも新しい発想が取り入れられているようである。超常現象よりも人間の悪意に焦点を当てるのだ。
いつ誰が加害者になり被害者になるのか。それはたいていの場合、予想外である。コロナ禍、プーチン戦争、安倍晋三射殺を誰が想定し得ただろうか。本当に怖ろしいのは人間だというお馴染みの結論は、やはり正しいのだ。