映画「ベイビー・ブローカー」を観た。
「万引き家族」を鑑賞したときも思ったが、是枝監督の作品は、憎悪や無関心と対極にある、愛情深いものばかりである。俳優ともいい関係性にあるのだろう。ペ・ドゥナとは13年前の映画「空気人形」でも一緒に作品を作っている。
本作品を観て、中島みゆきの「友情」という歌の一節を思い出した。
この世見据えて笑うほど
冷たい悟りはまだ持てず
この世望んで走るほど
心の荷物は軽くない
自分は友情を持つに値する人間ではないと卑下する心と、この世を上から眺めて人類を否定する心のせめぎ合いがそのまま歌詞になっている。そしてこの歌詞の世界観が、是枝監督の世界観にとても近い気がする。
人間はどうしようもない存在で、どうしようもなく生きていく。しかしそれは愛すべき存在である。悲劇ではあるが、同時に喜劇でもある。おそらく本作品を観た多くの人が、温かい気持ちになるはずだ。こんなふうに世の中を見ることが出来たら、多分幸せだろう。
敢えて難を言えば、ソヨンを底の浅い元ヤンキーみたいなキャラクターにしたことだ。生れ出づる悩みというか、儚さと女のやさしさ、それに母の強さみたいなものを併せ持った魅力的な女性だったらよかったのにと思った。前半の彼女は、人間的な深みに欠けていた。
もうひとつ、ソン・ガンホの台詞に「血は水よりも濃い」というのがあったが、儒教的な家父長主義のパラダイムが未だに支配的な韓国で、こんな考え方があるのかなと、疑問に感じた。