三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「ベイビー・ブローカー」

2022年07月08日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「ベイビー・ブローカー」を観た。
映画『ベイビー・ブローカー』公式サイト

映画『ベイビー・ブローカー』公式サイト

赤ちゃんを高く売る。それだけのはずだった。カンヌ国際映画祭 パルムドール受賞『万引き家族』是枝裕和×カンヌ国際映画祭パルムドール受賞 アカデミー賞(R)作品賞受賞『...

映画『ベイビー・ブローカー』公式サイト

「万引き家族」を鑑賞したときも思ったが、是枝監督の作品は、憎悪や無関心と対極にある、愛情深いものばかりである。俳優ともいい関係性にあるのだろう。ペ・ドゥナとは13年前の映画「空気人形」でも一緒に作品を作っている。

 本作品を観て、中島みゆきの「友情」という歌の一節を思い出した。

 この世見据えて笑うほど
 冷たい悟りはまだ持てず
 この世望んで走るほど
 心の荷物は軽くない

 自分は友情を持つに値する人間ではないと卑下する心と、この世を上から眺めて人類を否定する心のせめぎ合いがそのまま歌詞になっている。そしてこの歌詞の世界観が、是枝監督の世界観にとても近い気がする。

 人間はどうしようもない存在で、どうしようもなく生きていく。しかしそれは愛すべき存在である。悲劇ではあるが、同時に喜劇でもある。おそらく本作品を観た多くの人が、温かい気持ちになるはずだ。こんなふうに世の中を見ることが出来たら、多分幸せだろう。

 敢えて難を言えば、ソヨンを底の浅い元ヤンキーみたいなキャラクターにしたことだ。生れ出づる悩みというか、儚さと女のやさしさ、それに母の強さみたいなものを併せ持った魅力的な女性だったらよかったのにと思った。前半の彼女は、人間的な深みに欠けていた。

 もうひとつ、ソン・ガンホの台詞に「血は水よりも濃い」というのがあったが、儒教的な家父長主義のパラダイムが未だに支配的な韓国で、こんな考え方があるのかなと、疑問に感じた。


映画「ブラック・フォン」

2022年07月08日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「ブラック・フォン」を観た。

 なんだか新しい。いじめや予知夢やグロい暴力などの、ありがちなシーンが使われているホラーではあるが、全体として斬新な印象を受ける。

 まだ幼くて精神的に不安定なフィニーは、気が弱いくせに暴力的な父親や徒党を組んで弱そうなやつをいじめる男子たちに対して逃げ腰だ。しかし、かつて自分をいじめたデブが散々な目に遭っているのを見ていられないなど、時折はやさしさを見せることがある。やさしさは即ち強さでもある。フィニーにはまだそれがわからない。

 本作品はホラー作品であると同時に、フィニーの成長物語でもある。成長といっても、急に強くなったり視野が広くなったりするのではない。情報を取捨選択して、何が本当のことなのかを自分で判断したり、いろいろな可能性をひとつひとつやり遂げたりする。社会性と精神力の獲得である。そこが新しい。
 一般的なホラー作品の場合は、犯人がなかなかわからないように出来ているが、本作品はとても分かりやすい。その犯人との対峙を繰り返すうちに、フィニーの性格に微妙な変化が見られるようになる。この辺も新しい印象を受ける要素のひとつだ。

 フィニー役のメイソン・テムズは上手い。エキセントリックなグラバー役を演じたイーサン・ホークは流石である。フィニーとの関係性の変化を仮面の下の表情と声色だけで演じ切った。

映画「リフレクション」

2022年07月08日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「リフレクション」を観た。
映画『アトランティス』『リフレクション』公式サイト

映画『アトランティス』『リフレクション』公式サイト

戦禍に見舞われたウクライナの真実を描く、今こそ見るべき物語。 6/25(土)シアター・イメージフォーラム他にて緊急公開!

映画『アトランティス』『リフレクション』公式サイト

 同じ監督による映画「アトランティス」もやはり、戦争で心身ともに傷を負った人々を描いている。本作品は、捕虜になったときの敵兵の様子や戦時中の日常を描くことで、より立体的な映画になっている。登場人物の言葉数の少なさは「アトランティス」と同じで、絵画の余白のように、無言の長回しがテーマを際立たせる。

 プーチンは2014年のクリミア侵攻から、ずっとウクライナ紛争に介入し続けてきた訳だ。あくまでもウクライナ政府と親ロシア派武装勢力の争い、つまり国内紛争だと言い張っている。しかし武器を供与しているだけの筈がなく、ロシア兵士もたくさん注入し続けていた。
 日本政府にも当然、それくらいの情報は入っていただろうが、それでもアベシンゾーはプーチンにヘーコラして、3000億円をタダで取られた上に北方領土も永遠に戻らなくしてしまった。挙句の果ては「ウラジミール、君と僕は同じ夢を見ている」というおぞましい台詞を臆面もなく口にしている。ウクライナの人々にアベシンゾーがどのように映ったのか、恥ずかしい限りだ。

 2022年の2月に、プーチンはとうとう本格的にロシア軍を投入した。訓練だと言われて行ったら実践だったという若いロシア兵の証言は、これまでの紛争の経緯と矛盾している。おそらくアメリカの捏造だろう。戦争研究所あたりのネオコン発に違いない。

 プーチンはスパイだから、人を操る術(すべ)に長けている。宥めたり賺したり、時には脅しても、言うことを聞かせるのだ。ときには拷問も厭わない。お調子者のアベシンゾーなど、プーチンにとっては赤子の腕をひねるようなものだっただろう。
 国のトップが拷問体質であれば、軍隊はすべからく拷問体質となる。第二次大戦後は戦争の捕虜に対してであっても拷問は禁止されているが、ロシア軍にはそんなことはお構いなしだ。人を殺したり拷問したりすることに、子供の頃からの禁忌のせいで最初は抵抗があるが、慣れてしまえば板前が魚を捌くのと同じになる。

 本作品ではその様子が淡々と描かれる。アンドレイは意地を貫き通したが、セルヒー医師は拷問されても死ぬわけにはいかない。娘が待っているのだ。心の傷は深かったが、誰にも話さない。ウクライナも30年前はソビエト連邦だった。どこにスパイが潜んでいるかわからない。

 自由はどこにあるのか。鳥は窓に映る空を本当の空と勘違いして激突する。ウクライナ人もロシア兵も、どこかに本当の自由があると信じていたのだろうか。ラスト近くのシーンで窓に激突した跡は、大きな天使のように見えた。しかし激しく叩きつける雨にやがて流されてしまう。跡形もない。