映画「灼熱の魂 デジタル・リマスター版」を観た。
ドゥニ・ヴィルヌーヴの才能がストレートに現れている傑作だ。ストーリーといい、シーンの章立てといい、わかりやすい上に、それぞれの冒頭からいきなり心を鷲づかみにしてくる。問答無用の理不尽さが画面から溢れ出て、観ているほうの喜怒哀楽を超越してしまう。凄い作品である。
亡くなった母ナワル・アルマンとはどんな人物であったのか。子供である双子のジャンヌとシモンが辿っていく先には、ナワルの波乱万丈の人生が険しく聳え立っている。難攻不落のその頂きを目指して一歩一歩近づいていくが、ジャンヌはあまりの息苦しさに胸がつかえそうになる。
宗教と戦争はナワルの人生に、不安と恐怖と苦痛とそれに災厄しかもたらさなかった。それでもナワルの心には愛があり、難民だった恋人との間に生まれた子供を生涯愛し続ける。愛の深い人は憎しみも深い。殺された幼い息子のために、ナワルはもぐらにもなった。しかし憎しみの連鎖は、さらなる不幸を誕生させる結果となる。人間の誕生は、愛のはじまりであり憎しみのはじまりであり、不幸のはじまりなのだ。
映画「メッセージ」でもヴィルヌーヴ監督は数学的なアプローチをしていたが、本作品ではジャンヌの職業が大学の数学助手となっていて、監督の世界観の源流に触れた思いがした。映画全体がパズルのように決まった場所にきちんときちんと当てはまっていく様は大変に幾何学的であり、その完成度の高さに思わず唸ってしまった。