映画「凪の島」を観た。
日常生活で凪(なぎ)という言葉を使う機会はあまりない。対義語の時化(しけ)はときどき天気予報で聞くことがある。それぞれ動詞にもなり、凪る、時化るという具合に使う。凪るは、心が落ち着くというときにも使い、時化るは景気が悪いというときにも使う。カツアゲしたチンピラが、取り上げた財布の中身が少ないのを見て「チッ、時化てやがんの」と捨てぜりふを吐いたりする。
野口雨情が作詞した「波浮の港」には、♫明日の日和は(ヤレホンニサ)凪るやら♫という一節がある。凪るという言葉はいいことに使われている。
本作品は瀬戸内海の島が舞台である。漁師町だから、凪という言葉はいい意味であり、その名を持つ子供は自然にみんなに歓迎される。凪はその名前の通り、穏やかな心の持ち主だ。
タイトルの「凪の島」は、凪という女の子が住んでいる島という意味の他に、島全体が穏やかに落ち着いているという意味もあると思う。
凪の海を凪が泳ぐシーンがとても効果的に使われている。海水浴は入浴と同じように健康にいい。凪はいつも海に癒やされているのだ。
何事も永遠に続く訳ではない。凪の島も人がやってきたり出ていったり、少しずつ変化している。いつ大地震が起きて島全体が沈んでしまわないとも限らない。
それでもここで生きる。人を信じて生きていくのだ。人を疑うよりも人を信じる人生のほうがずっと楽である。無償の行為が人々の日常だからこそ、島はいつも凪なのだ。