映画「オスカー・ピーターソン」を観た。
ジャズ・ピアノと言えば、ビル・エヴァンスとオスカー・ピーターソンを学生の頃によく聞いていた。オスカーのは古いアルバムで、「枯葉」「いそしぎ」「ビギン・ザ・ビギン」などのスタンダードナンバーが中心だった。その中にオスカーみずから渋い声で歌う「ペイパー・ムーン」があって、それが特に印象に残っている。サッチモことルイ・アームストロングに匹敵する、味のある歌声だった。
本作品では、冒頭からエンディングロールまで、ずっとジャズが流れ続ける。インタビューはスイングに乗って語られる。若いオスカーと、年老いたオスカー。栴檀は双葉より芳し。天才ピアニストは、10代の前半から、隠しきれない才能が溢れ出ていたようだ。抜きん出た才能は、往々にして周囲を巻き込んでしまう。天才の結婚はうまくいかないことが多いのは、事実だと思う。
オスカーは自分でも言っているとおり、才能に恵まれ、チャンスに恵まれた。才能がある人の共通点は、持続する力があることだ。オスカーも例に漏れず、四六時中、音楽に打ち込む。ツアーを続け、たくさんの拍手を浴びるが、ホテルに戻っても喜びを分かち合う人がいないと嘆きつつも、コンサートをやめることはない。黒人差別に遭ったり、孤独で辛いときもあったりしただろうが、我々から見れば、とても充実した、素晴らしい人生だ。インタビューを受ける有名人たちは、例外なくオスカーを称賛する。ただ、ビル・エヴァンスが登場しなかったのは意外だ。そこだけが少し気になった。
オスカーが作曲した「自由への賛歌」をはじめ、彼らしい優しくてリズミカルでアグレッシブなピアノの音が、BGMなどというレベルをはるかに超えて、上映中ずっと、強烈に響いてくる。本作品はほとんど1枚のアルバムである。グルーヴ感が凄くて、観ながら体が揺れるのを抑えきれないほどだ。とても楽しい81分だった。