三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「コヴェナント」

2024年02月25日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「コヴェナント」を観た。
映画『コヴェナント/約束の救出』公式サイト - 2024年2月23日公開

映画『コヴェナント/約束の救出』公式サイト - 2024年2月23日公開

監督:ガイ・リッチー。出演:ジェイク・ギレンホール、ダール・サリム。米軍兵士と現地通訳。国境を超えた二人の固い絆を描いた、衝撃の感動作

映画『コヴェナント/約束の救出』公式サイト - 2024年2月23日公開

 面白かった。戦争は容赦がないと改めて実感した。銃撃戦は、いつどこから弾丸が飛んでくるかわからず、いつ死んでもおかしくない。戦闘シーンはとてもリアルで迫力があって、ガイ・リッチー監督の面目躍如と言っていい。ジェイソン・ステイサムを主役に迎えた前2作の「キャッシュトラック」と「オペレーション・フォーチュン」がいまひとつだったので、今回は満足できる作品でよかった。

 戦争は平和の顔をしてやってくるという。本作品の兵士たちも、米軍がアフガニスタンに平和をもたらすために戦っていると思っていたのかもしれないが、民衆が必ずしも米軍を歓迎していないことも自覚していたようだ。しかし悲壮感を口にすることはない。
 ジェイク・ギレンホールはそのあたりの表情がとても上手くて、何のための任務なのかを自問自答しつつも、軍人としての役目を果たそうとしている複雑な主人公の気持ちが感じられた。国際紛争について考えさせられる、奥行きのある作品だ。

 返報性の原理という言葉がある。他人の恩義に報いなければならないという義務感のような心理のことだ。営業マンが顧客を接待したり、会社が役人や政治家に賄賂を渡したりするのは、返報性の原理を利用している訳だ。恩義が大きいほど、返報の心理は大きくなる。
 では恩義が大きいとはどういうことか。多額の金銭や物品の供与を受けることも大きいが、それよりも大きいのは、時間と労力を提供されることだ。大変な苦労をして、自分のために尽くしてくれた人には、途方もない恩義を感じる。義務感を通り越して、強迫観念のようになることもある。
 本作品は、恩義の中でも最も大きい、命の恩人の話である。返報性の原理の本質がわかる物語だ。恩義に報いるには、感謝の言葉だけでは不十分で、命懸けの行動が必要になる。そうでないと自分自身が納得できないのだ。

 本作品では、背景となった世界情勢もさりげなく解説されている。2001年の911事件の復讐のために、ウサマ・ビンラディンが率いるアルカイダが潜伏するアフガニスタンに米軍が侵攻して以来、地元の武装勢力との緊張関係が続いていて、タリバンと米軍は実質的な戦争状態にあったことがわかる。
 イスラム原理主義でアフガニスタンの人々を蹂躙しつづけるタリバンは、いまも恐怖政治を続けている。にもかかわらずアフガニスタンの人々がイスラム教を捨てないのは、人と違うことをするのが怖いからだと思う。イスラム教を捨てれば、社会から干されるが、敬虔なイスラム教徒を装えば、共同体に受け入れられる。仕事ももらえるかもしれない。イスラム教徒でいることは、生き延びる道でもあるのだ。
 イスラム教は子供を生むことを奨励しているから、アフガニスタンは圧政下でも人口が増え続けている。子供を生むことは、ある意味で新たな不幸を生み出すことだが、アフガニスタンの人々は、世の中はいまがどん底で、子供にはいい未来が待っていると思っているのかもしれない。未来を信じるのも信仰みたいなものだ。
 しかしいい未来は、少なくともタリバン政権下ではないだろう。人々もそれはわかっていると思う。しかし反抗するのは困難だ。暴力で制圧するタリバンに反抗することは、命を落とすことと同義だ。
 そのタリバンが暴力を継続できるのは、武器を提供する軍需産業があるからだ。提供することで軍需産業は儲かるが、従事者には、多くの生命を奪っている反省はない。全米ライフル協会みたいな不寛容な団体が軍需産業を後押ししていることもあって、これからも着実に武器を作り続けるだろう。

 人類が武器や兵器を生産することをやめれば、紛争の規模は縮小し、虐殺も激減するだろうが、どこまでも愚かな人類は、敵を憎み殲滅するために武器生産に勤しんでいる。他人を傷つけたり殺したりすることが平気な精神性は、宗教を大義名分に使っている。イエスもマホメットも、こんな世の中は望まなかったに違いない。