三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「あんのこと」

2024年06月12日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「あんのこと」を観た。
映画『あんのこと』公式サイト|2024年6月7日(金)全国公開

映画『あんのこと』公式サイト|2024年6月7日(金)全国公開

「少女の壮絶な人生を綴った新聞記事」を基に描く、衝撃の人間ドラマ 映画『あんのこと』 河合優実 佐藤二朗 稲垣吾郎 監督・脚本:入江悠 6月7日(金)全国公開

 

 2022年の邦画「遠いところ」と同じく、救いのない若い娘が主人公だ。同じように、社会背景が描かれる。
 2023年の邦画「ロストケア」にも似ている。松山ケンイチが演じた主人公の介護士は、世の中はバケツみたいで、たくさんの穴が空いている。貧乏人や病人は、その穴から必ず落とされるという、切実な世界観を展開する。
 
 本作品も同じだが、ふたつの印象的なシーンがある。ひとつは、生活保護の担当者に対して、佐藤二朗が演じた刑事が「困っている人を助けるのが、俺たち公務員の仕事だろうが」と怒鳴るシーンだ。予告編でも流れていた。
 もうひとつは、主人公のあんがベランダに出ようとしたときに、上空で自衛隊のブルーインパルスが編隊飛行をするのが映し出されたシーンである。飛行機雲を見て勇気づけられたという人もいたが、迷惑だという人もいた。少なくとも、あんの心には何も響かなかったようだ。かなりの爆音で飛んでいたのに、空を見上げもしなかった。
 
 生活保護は出し渋るが、ブルーインパルスの政治利用には惜しみなく金を使う。困っている人を助けないのが、この国の政治だということが象徴されたシーンだと思う。ブルーインパルスは何も救えない。
 
 何も救えない政治が、幅広い支持を得ている。国政も地方自治も同じだ。東京都では、学歴を詐称し、外苑前の並木を切り倒す老女が、ずっとダントツの得票率で知事を続けてきた。今年(2024年)の選挙も同じ結果なら、これからも困っている人は助けられないだろう。あんのような娘がこれからも生み出されていく。
 外面(そとづら)はいいが、困っている人を助ける気はないというこの国の人間の本質が、今後も描かれ続けることになる。それはあんの母親の精神性と同じである。いまだけよければ、自分さえよければ、それでいいのだ。
 似たような映画が作り続けられることは、この国の危機を示していると思う。有権者に多少なりとも危機感が残っていれば、緑の老婆が再び当選することはありえない。