映画「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」を観た。
レミーマルタンルイ13世は、バカラのボトルに入っている高級ブランデー(コニャック)で、日本ではかつて100万円のブランデーとして有名だった。今は値が下がっているようだが、それでも50万円は下らない。この高級酒でうがいをする人はまずいない。
舞台は1970年の年の瀬だ。クリスマスから新年の休暇に学校に残ることになった生徒と教師と給食係の人間模様が描かれる。
アレクサンダー・ペイン監督の作品では、2011年製作のジョージ・クルーニー主演「ファミリー・ツリー」を映画館で鑑賞したことがある。やはり少人数の人間模様のドラマで、ややキリスト教寄りの世界観だった記憶がある。
本作品も同じようにキリスト教寄りだが、クリスマスを祝うだけの行事としてのキリスト教の意味合いが強い。説教をする牧師には威厳がなく、どちらかと言うと下衆っぽい印象に描かれている。
一方、古代史の教師であるハナムには、教養と、教師の矜持がある。古代史の人々を崇め奉るのではなく、現代人と同じ悩みを持つ卑近な存在として捉えている。生徒のタリーは、その話を聞いて、そういう教え方をしてほしいと言う。その方がわかりやすいし、覚えやすい。それに日常生活に役に立つ。
ハナムの精神性はフレキシブルだ。いくつになっても悩み、成長する。それを生徒と共有すれば、それだけでいい教師になれるのに、ハナムには妙なプライドとコンプレックスがあって、なかなか心を開けない。
クリスマス休暇でタリーは成長し、ハナムはそれ以上に変化する。人生を見つめ直す物語はペイン監督の得意技だ。高級酒を崇める精神性は、捨て去らねばならない。