雪道でハンドルを取られて、脱輪してしまった。会津坂下から喜多方までの県道だが、見渡す限り純白の世界であるのに、ついつい心を奪われたのだ。雪国に住んでいれば、あたりまえの光景であるのに、今回ばかりは勝手が違った。江藤淳が「雪が降っていると物音もしなくなる。列車の進行する音は多少聞こえますけれども、なにか耳の中に綿を詰められたような感じになって、現実から一目盛りだけわきにずれた世界に連れて行かれるような幻想にとらわれる」(『こもんせんす』)と書いていたが、私も同じように、異質な世界に紛れ込んだかのような、不思議な体験したからだ。路面が凍結してたこともあり、横に滑ってしまっただけなのに、夕暮れであったせいか、空と目の前の雪が重なって、天から滑り落ちている感じであった。江藤淳は北陸を列車で旅していたときの印象だが、私の場合は、ハンドルを握っていて、見慣れた光景が一変することへの驚きである。そして、すぐ来るはずのJAFの車が、道に迷ってなかなか到着しなかったので、わざわざ停車して声をかけてくれた若い人の声で、また現実に引き戻されたのだった。わずかな時間とはいえ、私もまた「現実から一目盛りだけわきにはずれた世界」を覗き込んだのである。
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