能楽は、舞・謡・囃子の三要素から成り立っている古典芸能である。いま風に言うなら、舞は演技・ダンス、謡はセリフ、囃子は伴奏・効果音ということになろう。いまの時代に合わせ分かりやすく表現すると、能楽関係者から、それは「違う」とお叱りをいただくかもしれない。舞は「舞」、謡は「謡」、囃子は「囃子」という言葉も財産として継承されているものの一つと言われるだろうが・・・。
その中で「謡」は、能の声楽にあたる部分で、演じるストーリーの台本ということになる。謡は登場人物の台詞と地謡(じうたい)とよばれるバックコーラス部分を含めた、能において言語で表現される部分の総称といえる。能の場合にはこれに特殊な台詞回しや節が付けられている。それにより能独特の雰囲気がつくられる。
演能の時だけではなく、囃子なしで単独でうたうのを素謡(すうたい)という。いまはそれだけを稽古されている方たちも多いと聞く。声をお腹から出す、この練習が健康に良いというのが理由のようである。
写真にあるのが観世流に継承されている謡本の種類の一つである。見てのとおり、いまでも特漉(とくすき)半紙判の伝統的和綴製本で表紙が金千鳥である。各曲に作者をはじめ構想、資材、曲趣、解説、装束、そして演出等々が記されている。この謡本にしても、昔からの形体を崩さず受け継がれている。
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