自由律俳句で有名な尾崎放哉の伝記小説。晩年の8ヶ月を描く。尾崎放哉の俳句は、高校の授業で習った事がある。種田山頭火や高浜虚子、萩原井泉水などと共に明治大正の俳句について勉強したが30年経った今でも覚えているのは、山頭火の句と彼の「せきをしてもひとり」という哀愁漂う句くらいだ。俳人の句は覚えていても、彼らの句がどのような背景で詠まれたのかは知らない。彼がどんな人物だったのか興味があって読んでみた。
彼は、東大卒で一流企業の重役を勤めながら、酒癖の悪さで身を崩し、妻には愛想を尽かされ、仏門に入るが酒のせいで上手く行かず、結核を患って死に場所を求めて小豆島に渡る。歌人としての才能は誰もが認めるのだが、酒のせいで堕落した生活は如何ともしがたい。正直、友人にしたくないタイプの人だ。それでも、才能を認める人達にとって、彼の存在は大きかった。プライドは高いけれど経済的に困窮して、多くの人にお金をせびる姿は哀れな感じもするけれど、それをサポートする人達がいるのは、この時代だからこそかもしれない。彼の人生は石川啄木と似ていて、共に才能を認められても、自分に対する甘さから自活する能力を失って厳しい時代を乗り切れなかった点がよく似ている。
この小説は、病に冒されていく様子の描写がいいと思う。著者も若い頃に結核を患ったそうだが、その体験をもとに病状が生々しく描かれている。彼の代表的な句も取り混ぜて、とても面白い小説になっていると思う。