助っ人のメンバーが次々と集まってきた。長袖を着ている彼はキーパーだ。手にグローブをつけている彼もまたキーパーだった。今日は守護神は来ないのかと少し残念な気分でいるとあの人が駆けてきた。守護神のレギュラーキーパーだ。そうして集まってソファーでくつろいでいるメンバーにはやけにキーパーが多かったけれど、おかげでポジションの被らない僕の縦横無尽の活躍が期待される。試合前の腹ごしらえに、一旦地下球技場を後にすることにした。
腹が減ったところで食べるものはろくになく、家族はみんな浮かない顔をしていた。「ギャンブルに行こう」と姉が提案し、どうして行くのと母が訊くので、「ヘリコプターで行こう」と僕は言った。「百万かかるな」と父が困った顔をした。難民たちを乗せた列車が次々とホームを流れてきては綱引きをしてその行き先を争っていた。最終戦争が始まるのだ。すし詰めの車両に乗って動き出すと、向こう側からも列車がやってきて睨み合って停止して、幕が開いた。「僕らと同じだ」と僕は叫ぶ。現れた向こう側の乗客たちは皆ぎっしりと縦に積み重なって固まっていた。それは僕たちの列車の陣容と何も変わらなかったのだ。だから、争うなんて何の意味も必要もないことだった。駅長が間に入って和解を提案している。その時、1人の青年が背中から銃を下ろして引き金に手を掛ける。暴発と同時に手のつけられない暴動が始まる。
独り言と相談と連絡とが入り交じり積み重なって、僕たちのテーブルにはカレーがたくさん届いた。「2人ではとても食べきれない」そう言いながら先生は必死にスプーンを動かしている。食べきれないとは言ってもまだあきらめたわけではないのだ。先生の半分くらいの努力を見せながら、更に追加のカレーが来たところで僕はお皿の陰に隠れながら静かに席を離れた。犬連れの人々に交じって朝の散歩道を歩いて、果てしない階段を上がった。一円玉を投げつけて、手を合わせた。「ちゃんと食べられますように」更に神様に近づくために、脆く頼りなげな扉を恐る恐る開けると犬が静かに目を開けた。4匹の犬が薄明かりの中で寝そべっていた。
豪快に水が流れる音がしてそこにもお手洗いがあったことを知らされる。第二ボタンと第三ボタンの間で犬がじゃれ合って邪魔をするのを必死で解く。「そろそろ行かなければ」しかし時間はまだ早いと教えられる。犬を解いて腕時計に目をやると秒針が頼りなく揺れているのがわかりはっとした。壊れていて、直さなければいけないと思いながら、直すのを忘れていたのだった。受付に行き、顔を見せると随分昔にやめたはずの従業員がいて、「どうしたのです?」僕らは互いに同じ言葉をぶつけ合った。同時に複数の客が流れ込んできたので、少しだけ手伝った。少し、少し手伝う内に、カウンターには行列ができてしまう。僕の前にはおじいさんが立っていてプランについての質問をし、僕は3度目になる同じ説明を返す。つれでもない隣の男がチラシを千切ってはおじいさんに分け与えるが、それはクーポンでも何でもない。「これはゴミです」はっきりと突き放すが、男はなおもチラシを千切ってはまた別の部分を老人に分け与える。値段が書いてあるからといってもただの紙。「安くなると書いてますか?」僕は男の方を見た。けれども、男は老人の方を向いている。いつもと時間がずれているので念のために、昔の従業員にプランについて些細な質問をしたが、答えはすべて予想通りのものだった。こんな時間もよい経験の1つか。抜け出せない流れの中に入り込んでしまったのは、最初の浅い一歩からだった。
浅い……。僕の前の水だけが際立って浅く感じられる。合図と共に飛び込むと右の2人の内の誰かがフライングをしたといって連れ戻される。僕は早く地下室に戻って試合に出なければならないのに。僕は1番右の端からもう一度飛び込む。飛び込んでみると浅いと思えてもそう危険がないことがわかる。飛び込むのは2度目だった。一気に奥へ奥へと進みターン。蹴ったのはボールではなく壁、無我夢中で手足を動かして再び壁を蹴る。ここにはボールは存在しない。ターン。もうすぐゴールだ。ずっと目を開けていたのに、その時初めて人の姿を見た。みんなもうゴール前に固まっている。1人の選手が僕を追い抜いて行く。腕と腕がぶつかる。絡まる。青い泡が膨らんで、僕を包む。
歓声を追って近づいていくと選手たちの横顔が見えたが、最初にあった入口は閉鎖されていた。試合の推移が気にかかったが、どこを向いても知った顔はなく、それは僕らのチームの試合ではなかった。硝子の継ぎ目を探し当てて、慎重に取り外しにかかる。「気をつけて!」言いながら女が硝子の端を支えている。「任せて!」2人ですると余計に危ないので僕は女を遠ざけた。「気をつけて!」離れたところで女がもう一度叫ぶ。硝子の中の選手が一瞬振り返る。持ち上がった硝子は予想したより重く、手が震えるので僕は硝子に唇を合わせた。