眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

知らない街へ

2012-02-03 02:26:03 | 忘れものがかり
きみは死にたかった
いいえきみはただ
遠いところに行きたかった

たった一つのことで
傷つくことのできる才能を持って
眠れないということは
どこまでも歩いて行けるということ

どこまでもどこまでも
きみは歩いて行ける

「何をしている?」

散歩でもなく徘徊でもなく
きみは旅だと答える

「安心できる場所をみつけても、決して安心はできません。それを失ってしまうことに対する不安が生まれてしまうからです。安心する時間はなく、もしもそれがほんの少しでもあるのなら、それがある間に歩き始めなければなりません。行き着くところに行き着くことが恐ろしいから、とどまることのない旅を続けなければならないのです」

電波も届かない場所で
きみは方向さえも見失う
つながらないということは
つながらなくてもいいということ

籠を抱えた男が角を曲がって近づいてくると
きみは迷いを共感するためだけに顔を上げるけれど
男は道よりも重いオレンジの話を始めた

「今はちょっと……」

少しずつ少しずつ
きみは自分から離れながら
自分の命を広げていく

果てしがないというイメージが
ほんの少しだけ
きみに安らぎを与えてくれる

きみは死にたかった
いいえきみはただ
遠いところに行きたかった

まだかなしみが届かない
遠く遠く

知らない街へ


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Yesterday

2012-02-03 01:29:20 | 夢追い
 母譲りの直感を頼りに未知の仕事を進めた。お金はまだもらってない。未払いカード三枚を姉に渡して仕事を引き継ぐと急に寒気がしてきて、自分の部屋に逃げ込んだ。大音量でビートルズをかける。寒いなんて、情けない。生きていく気力が不足していたのだ。隣の部屋で父が休んでいるけれど、ビートルズだから構わなかった。このまま自分一人の家に帰っても、寝込んでしまうのかもしれない。机の上のメロンソーダはジュラ紀の地層のように固まっていて、もう飲めそうもない。気力を振り絞って鍋にお湯を沸かした。真ん中に卵を割り入れる。ああ、どうしてこんなことをしてしまったのだろう。固まり次第、僕はそれを取り出さなければならない。冷蔵庫の片隅から椎茸とブロッコリーを取り出して、鍋に落とすと、ブロッコリーは冒険を求めて色づきながら沈んでいったけれど、椎茸は温泉に浸かる浮き草のように表面上で揺れていた。次に入れべきものは冷蔵庫の中にはもう何もなく、窓を開けると光が射し込んで机の上のメロンソーダを溶かした。瓶を持ち上げるとあれほど頑なだったものが、香りを放ちながら輝き始めた。その中で踊り出したのは、一匹の蟻の死骸だった。


 カーテンが開く音に続いて扉が開く音がして、続いて人の声がした。半裸の僕は動くことができなかった。(飛び起きるなんてできない)「まあ、よく眠っているね」大家夫婦が、ベッドの上の僕を見ているけれど、僕は目を開けることができない。(全裸だったらどうするのだ)昼まで寝ている僕を責めるように扉は開放されて、晒し者となる。「ほんとよく寝ているね」道を行く人が足を止めて、大家夫人の話に相槌を打つ。人が人を呼び寝返りも打てない僕の元へだんだんと人が集まってくる。(ここは動物園か)いつでも静かにして観察の対象であり続けることは困難だ。(主人が戻ってきて、狸寝入りだと言われるのだけは絶対に嫌だった)今目覚めたというように、自分の体を急に動かすと早速男が仕事を依頼してきた。僕は伝票に今日の日付、今日の曜日、今日の天気などを書き込んで電話をかけた。電話がつながらない間に男は、「それ書く必要ある?」などと言うので僕は仕事に不備がないことを説明しなければならない。再び受話器を取った時、コール音は止まっていて、しばらくして「どうぞ」とマリの声が聞こえた。電話の向こうからやってきた白衣の女に男を引き渡す。男の忘れていった襟のくたびれた上着を持って、僕は女の顔を見上げた。「これどうします?」女は黙って空っぽの籠の中を指した。


「忘れ物はなかったかな?」
 友達の家には友達の自転車を二つ重ねた二段乗りでやってきた。帰りは一人で歩いて帰ってもいい。「うん。何も持ってなかったよ」友達は、頭の奥を少しだけ逆回転させると首の動きと言葉とでその事実に間違いがないことを示した。おじさんは何か土産物がないかを少し期待したようだったけど、確かに僕は何も持っては来なかった。ペルー&日本対ブラジルはまだ始まったばかり。自陣でボールを奪ってバックパスするとなぜか彼はスルーしてたちまたちゴール前は大ピンチとなる。混戦の中でボールはブラジル選手の足元に渡り、シュートを打たれるが、勇敢に飛び出したキーパーがキャッチしてすぐに反撃が始まる。サイドのペルー選手に渡り、僕は中央に走り出して手を上げるがボールは僕の前を通過して日本選手の足元へ通る。ディフェンスを一人かわして、キーパーと一対一になる。僕は再び中で手を上げるが、彼はキーパーもかわしておしゃれシュートを決めてしまった。今のところペルー&日本が二点をリードしているが、僕はもうそろそろ家に帰らなければならない。特に何もしていなかったけれど、友達はもう疲れている様子で、帰りは僕一人で帰ってもいい。自転車を一つ借りてもいいけれど、返しに来るのが面倒だった。「本棚の硝子が壊れているって」友達が、おじさんに僕が困っていることを伝えてくれた。「何かないかな?」親切なおじさんが、何か代わりになるものを探してくれると言う。あれでもない、これでもない。ない、ない、そんなに簡単には見つからないように。そう願いながら、僕はテレビを見続けている。


 新しいバイトを始めた。性別不明の四人連れをデラックスルームに案内することになったが、一人目の名前を間違えてしまう。「はあ?」それで恐ろしくなって次は名前を呼ばないことにした。「次の方」、「次の方」……。「はあ?」それでもやはり切れられてしまう。「名前を呼ばないのか?」別に名前なんてどうでもいいでしょうに。気がつくと僕の手は客の首を掴んでいたのだ。「いいえ。これは別に。何でもありません」


 家の外からカーテンと扉を確認した。大丈夫、閉まっている。リビングに向かう途中に今まで見落としていた通路があることに気がついた。その奥には小さな冷蔵庫があり、開くと「Yesterday」が軽やかに流れ、中にはデザートやたくさんのお菓子が用意されていた。(勝手に扉を開けるような真似をするけれど)もしかしたら、大家さんはいい人なのかもしれない、という思いが少し過ぎった。けれども、視線が自然と下の方に落ちていった時、ケーキが半分食べてあることが認められるとハッとした。父の入院中、ここには母が住んでいたのだ。これは、その時の名残。ここは、近所の人々の溜り場であったのかもしれない。
 カーテンが開き、扉が開く。「ちょっと」と言って上がり込んできたのは、どこかのおばあさんだ。勝手にテレビをつけるなり「ちょうどクライマックス」と言ってはしゃいだ。クライマックスなのでたまらず家から出てきたなどと言うので、見たくもないテレビにしばらく付き合わなければならなかった。ここに自分だけの居場所はない。


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