シェフのいる場所が好きだった。「何を食べても美味しい」と君は思った。注文した料理も注文していない料理もすべて、いかなる時も美味しかった。シェフは一人だった。聞くのも考えるも作るのも運んでくるのもみんな一人でこなしていた。シェフが料理を運んでくる時、しあわせが運ばれてくるように君は思った。
周りに誰もいなくなった時、シェフは君の隣に腰掛けて休んだ。少しだけ水を飲んで日頃の感謝の気持ちを語った。それから、しばらく遠くへ行くことを告げた。
「火星シェフに決まったのです」
間もなくシェフはロケットに乗って火星に飛び立った。味覚センサーで蓄えた過去のデータからシェフの料理が完全に再現されることに疑いはなかった。
シェフのいないいつもの場所。シェフの代わりがレシピを忠実に再現した。シェフの代わりが君のもとへ料理を運んできた。
「全く同じ味だ」
すべて計算通りの結果だった。それ以来、君はいつもの場所に通うことをやめた。急に新しい味を探求したい気持ちになった。シェフの味が恋しくなるまで。君は街を離れることに決めた。
永遠の
踊りがあった
真夜中に
一石投じ
アジ開くシェフ
折句 短歌「エオマイア」