季節が変わるよりも多く店長は変わったものだ。店長の顔が変わるとそれに合わせて店の色が変わる。「いらっしゃいませ」のトーン、ポップの置き方、発注の仕方。様々なところに店長の癖が表れる。
長持ちする店長もいれば、短い時間に強く印象を残した店長もいた。無駄な廃棄を人一倍嫌った店長は、少しずつ商品の発注量を減らしていった。雨がゆっくり上がるように、おにぎりは米粒を減らした。混雑することのないきれいな棚。やがて、棚はすっかり空っぽになった。
光だけがさす棚を見て客は寂しげに帰って行く。それからすぐ店長自身も姿を消した。
「お願いします。お願いします」
店の真ん中で、空気に向かって土下座をしているのは、今日の店長だ。見たところ人はよさそうだ。本当にいい人かどうかはなかなかわからない。見え始める頃には新しい店長に入れ替わるのが常だった。ピピピピピ……。いらっしゃいませ! レジを片づけるとパンコーナーに向かった。新商品のパンが何かの間違いのように大量に届いていた。一つずつ丁寧に棚に詰めてケースを空っぽにするが、また次も全く同じパンがぎっしりと詰まっている。見ているだけで嫌気がさしてくる。並の詰め方ではとても収まり切らない。一つ一つ心を込めていた、心が商品棚から離れ始めた。折句の扉が開き、その中に心が吸い込まれていくのを止められない。春休み、ひなまつり、かきつばた……。
「お願いします。お願いします」
遠くで誰かが歌を詠み上げる声がする。そうだ。先の見えない作業の中で自分を保つためには、誰だって歌うしかないのだ。かきつばた。先頭に五文字を置いて、折句の扉の向こうに手を伸ばした。もちもちとした弾力のある言葉たちが手にくっついている。何をとっても正解だ。何をとっても正解じゃない。それが空想を永遠的なものにしていた。ピピピピピ……。いらっしゃいませ! ありがとうございます!
「またお越しくださいませ!」
途切れても大丈夫。かきつばたの五文字の元で、すぐに歌の続きが再生される。折句の扉の向こうでは、チョコやチーズの匂いをつけた言葉たちが交流を持ちながら泳いでいた。パンは丸でも三角でもなく、歌のように自由な形を取っていた。
(今月のおすすめ品)
店長手作りのポップが、歌の風に誘われるように揺れていた。
からくりの
税抜き表示
立ち上げて
ちいさく銭を
盗む店長
折句「風立ちぬ」短歌
長持ちする店長もいれば、短い時間に強く印象を残した店長もいた。無駄な廃棄を人一倍嫌った店長は、少しずつ商品の発注量を減らしていった。雨がゆっくり上がるように、おにぎりは米粒を減らした。混雑することのないきれいな棚。やがて、棚はすっかり空っぽになった。
光だけがさす棚を見て客は寂しげに帰って行く。それからすぐ店長自身も姿を消した。
「お願いします。お願いします」
店の真ん中で、空気に向かって土下座をしているのは、今日の店長だ。見たところ人はよさそうだ。本当にいい人かどうかはなかなかわからない。見え始める頃には新しい店長に入れ替わるのが常だった。ピピピピピ……。いらっしゃいませ! レジを片づけるとパンコーナーに向かった。新商品のパンが何かの間違いのように大量に届いていた。一つずつ丁寧に棚に詰めてケースを空っぽにするが、また次も全く同じパンがぎっしりと詰まっている。見ているだけで嫌気がさしてくる。並の詰め方ではとても収まり切らない。一つ一つ心を込めていた、心が商品棚から離れ始めた。折句の扉が開き、その中に心が吸い込まれていくのを止められない。春休み、ひなまつり、かきつばた……。
「お願いします。お願いします」
遠くで誰かが歌を詠み上げる声がする。そうだ。先の見えない作業の中で自分を保つためには、誰だって歌うしかないのだ。かきつばた。先頭に五文字を置いて、折句の扉の向こうに手を伸ばした。もちもちとした弾力のある言葉たちが手にくっついている。何をとっても正解だ。何をとっても正解じゃない。それが空想を永遠的なものにしていた。ピピピピピ……。いらっしゃいませ! ありがとうございます!
「またお越しくださいませ!」
途切れても大丈夫。かきつばたの五文字の元で、すぐに歌の続きが再生される。折句の扉の向こうでは、チョコやチーズの匂いをつけた言葉たちが交流を持ちながら泳いでいた。パンは丸でも三角でもなく、歌のように自由な形を取っていた。
(今月のおすすめ品)
店長手作りのポップが、歌の風に誘われるように揺れていた。
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