君は折句の扉の向こうでパスコースを探しながら執拗なマークを受けていた。自由な発想を妨げるのは、肩を砕くような接触ではなく、やわらかな言葉のようだ。
「大変だったね。夢の中では」
男はそのようなことを言いながら君に近づいている。聞こえない振りをしても、その手は通じない。
「色々とあったじゃん」
「まあ、よく覚えてない」
「まだ小さかったからね」
そうでもないだろう。男は勝手に君を縮小してコントロールしようとしている。大変な出来事を既成化し自分を生き証人に仕立てようとしている。何一つ信用が置けないと君は思う。マークを一刻も早く振り切ろうと身を低くする。
「実害がないよ」
「不安こそがそうでは」
はあ。不安だって?
「これも夢だし」
「そんな言い方するか。夢は大切にしなくちゃ」
「うるさい! ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
「ふふん。関係者なんて存在しないんだよ!」
「ほら見ろ。夢だからだろ」
どけ! 君はつきまとう男を突き放して公道に出た。しばらく行くと路上を這う明かりが目に留まる。何か落ちた物を探っている様子だ。もう少し行くとまたもう一人の男が同じように地面に向いている。聞くとスクワットの隊員らしく、貴重な指輪をなくしたので、外交官が戻るまでに見つけ出さねばならないと言う。大がかりな組織にしては手法が細いと君は不審に思う。しばらく進むと浅瀬に小舟が止まっていて、中には誰もいない。その中がとても怪しいと君は思うが、足を踏み入れようとした瞬間、舟が動き出す。これは罠だ! いや鰐だ! 恐怖と同時に折句の扉が開く。渡し舟。悪のりの探検隊に志願した、歪曲の旅路に浮いた死の気配、忘れない田中がくれたシミュレーション……。次々に水面に浮き上がる歌の予感は獰猛な歯によって破壊されてしまう。核心にたどり着く前に、舟は行ってしまう。待ってくれ。行かないでくれ!
「おい! しっかりしろ!」
扉の向こうで老いた監督が呼びかけている。君は再び明るいピッチの上に戻ってきた。敵チームの選手が外に蹴り出してくれて、君は長い間ピッチの上に倒れていたらしい。鼻をくすぐる匂い。ピッチの袖から煙が上がっているのは、敵のチームのバーベキューだ。古今東西をしながらはしゃぐ若い選手の声が聞こえる。みんな根がゲーム好きなのだ。
「マラソンならリタイアだったぞ」
厳しい言葉をかけながら、監督が手を差し出した。君がいたのは世界で最も激しく、やさしいゲームの中だった。味方の選手も絵札を置いて、徐々にピッチの上に戻り始める。
「おーい! 再開だぞ!」
なんだもうおしまいか。もう起きたのか……。
鬼カルタの終わりを惜しむ声が、まだその辺でくすぶっていた。
あふれでる
邪念の中で
文を追う
乱暴者の
いろはカルタ
折句「アジフライ」短歌