「今日は誰も来ないねえ」
「この天気ではな」
「人が歩いていないし」
「駅前に新しいのできたらしいな」
「そうなの。今月?」
「少し前かな」
「広いの?」
「知らないね」
「何階建てくらいの?」
「さあ。よくは知らないよ」
「駅のすぐ側?」
「ドッグランの方だよ」
「そう言えばあのおじいさん最近みないねえ」
「おじいさん?」
「前は毎日来てた。犬をつれて」
「大きい犬?」
「白い犬だよ」
「ゆっくり歩いてたな」
「声大きかったね」
「ゆっくりだけど姿勢はよかったな」
「しばらくみない」
「何か入院したらしいよ」
「わるいの?」
「さあ。よくは知らないよ」
「そうなの。大丈夫かな。犬は」
「犬は逃げたらしいよ」
「逃げた? つないでなかったの?」
「どうだろう。そこまでは知らないよ」
「町の病院?」
「知らないって。名前も知らないし」
「あっ! 来た!」
「えっ?」
白い雪道の中から白い犬の集団が現れた。先頭にあの犬の姿があった。みんな口に骨をくわえている。リーダーの合図を受けて集団は店の前で足を止めた。犬たちに引っ張られて最後尾におじいさんの元気な顔がみえた。あのおじいさんだ。
「あ。お久しぶりです」
「いまドライブスルーに寄ってきたんだ」
コーヒーカップを片手におじいさんは笑った。
みないねえ
そないいうたら
さびしいねえ
さもありなんねえ
いないいないばあ
折句「ミソサザイ」短歌