なんばウォークを横に曲がってぐんぐん歩いて行くと、まもなくそこはなんばCITYだ。
みえてきた 秘密の地下空間で見つける味の抜け道
ちょうどお昼時のいい時間。
目を引く看板に足を止める。美味しそうだしリーズナブルだし。あなたは第一印象に素直に従って店の中に入って行こうとする。
だが、少し待ってほしい。あなたが目にした看板はたまたまそこで目にしたのだ。あなたはなんばCITYに訪れたのではなかったか。本当にそこでいい? そこがベストの選択か?
「早まるな! 一つ選べば他は選べない」
初球をとらえて見事にホームランを打つことはある。だが、最初は見送ってみるのもいい。勝つだけが目的ではない。バッテリーとの駆け引きを楽しむ時間も胃袋を刺激するものだ。
「最初のチャンスは見送れ」
正しくシャープな選択は、確かに合理的だが、どこか味気なくも思える。迷ったり見送ったりすれば無駄に時間はかかるだろう。だが、その分だけ思い出となる映像は広がりを持つのではないだろうか。
一度入店すれば最後、あなたのランチタイムはそこで終わるだろう。人並みの胃袋の持ち主ならば、ランチを何件も梯子できるものではない。だとすれば、それだけ慎重になるべきだ。あなたは寸前で思いとどまる。
「ランチタイムは一発勝負」
順番を待っている人がいる。行列を作って待つ人の姿が見える。そこはとびきり美味しい店かもしれない。あなたはそこで立ち止まる。だが、少し待ってほしい。行列は一つの情報にすぎない。それも信頼できる情報ではないのだ。あなたはそこで手持ち無沙汰な時を過ごす覚悟があるか。
「行列に並ぶのはちょっと待て」
やっぱりやめておこう。正しい決断をしてあなたは次へ進む。店はまだまだある。簡単に終わらないのがモールの魅力である。あなたは次に行く場所でこれまでにない魅力を感じる。看板のメニューのボリュームと価格に惹かれて店の扉に近づく。何やら薄暗い。カウンターに食材を載せてエプロン姿の女性が黙々と作業をしている。どうやらまだ営業していないようだ。
「待て! そこはまだ準備中」
待つには30分。あなたはやむを得ず通り過ぎる。あれもいいこれもいい。だが、まだ決めなくてもいい。満点の店を探しあなたはどんどん歩いて行く。お腹が鳴る。空腹とランチタイムの理想的な合流地点。もう少し、もう少し。
「どこまでも行け! 歩く時間も舌は笑っている」
理想を追って歩く内に、空が見える。雲一つ見えない。晴れ渡った青空。あなたは歩道を歩いて行く。心地よい風が吹く。どこまで行くのか。曲がり角まで行ったところで、あなたは行きすぎたことを悟る。
「しまった! そこはもうシティじゃない」
あなたは来た道を引き返す。もう一度、なんばCITYへ戻るために。今度はあそこにしようか。戻りながらイメージは固まりつつ。それでも同じ店の前を再び通ることに、あなたは少しの後ろめたさを感じている。本当の自分は何も決められない人間なのではないか。
「恥じるな。迷える時こそランチタイム」
一度来た店の前をあなたは次々と通り過ぎる。固まりかけたイメージがぼやけて見え始めた。もっと他にあったようななかったような……。あなたは不意に息苦しさを覚える。来た道を逸れて光の射す方へ逃れた。前とは違う青空があなたを包み込んだ。再びお腹が鳴った。だが、まだ耐えられるとあなたは思う。もっと行こう。あっちにも何かある。
「なんばCITYを抜けて。なんばはまだ広がっている」