「現金の方がいい場合もあるで」
「はいどうぞ!」
「おい。お前さっきからきいてんのか?」
「はい?」
「答え方おかしいねん」
「はい?」
「はいちゃうねん! おかしいんちゃうか」
「と言いますと」
「と言いますとあるか、現金の方がええ時あるゆうねん」
「はいどうぞ!」
「それや! それがおかしいねん」
「はい?」
「何や噛み合ってないな。お前ちゃんときけ」
「はい」
「どういう態度やねん。なめてんのか」
「いえいえ」
「ちゃんときけ。客の言うこときけよ」
「はい」
「ええか」
「はい」
「現金の方がええ場合がある言うねん」
「はいどうぞ!」
「はいどうぞーあるかい。それをさっきから言うてんねんで」
「そうなんですね」
「何やそっちの都合か? そっちの都合でやってんのか」
「そうですね」
「そやろうが」
「まあ、そうですね」
「こっちは知らんやん」
「はい」
「こっちは現金の方がええねん」
「はいどうぞ!」
「なんやー、お前!」
的確なポジションに人はいてもすべての守備はざるのようだった。打ち返された打球は次々と内外野を抜けていった。歯止めのない大量失点。打者はベンチで休んでいる暇もない。生還するなりバッターボックスの前に列を作って待たねばならない。打たせて取るスタイルのピッチングでは、この循環を断ち切ることは不可能だ。打ち分ける必要もない。ただ前に飛ばすだけでいい。この狭い空間においては圧倒的に打者が優位に立っている。ダイヤモンドの角っこにある椅子にかけて帽子を深く被ったまま女は悠然としている。それがこのチームのオーナーである。
「私はチームを愛している」