眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

火曜市場

2020-04-28 22:37:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
火曜日の買い物客が密となり
市場は好奇心で華やぐ

(折句「鏡石」短歌)
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あえててをとおそう

2020-04-28 09:09:00 | ポトフのゆ
 劣等感があなたをじっとそこに留めてしまったのね。燃えている越境の願望はそっとお弁当に架けた虹の橋を渡る小人たちに預けて、本当はもっともっとそこから飛び出したかったのに、あなたはアルファベットのゼットまで数えてそこからまたカセットコンロの方を気にしている。

「玉ネギをネットで買う人の気持ちが今わかったよ」
「それは嫉妬ですか?」
 彼女ははっと我に返った。
「いいえ、それはちっとも嫉妬なんかではなくて……」

 最初は魔人のように思えたそれもいつしかそれ以外はないというような形に見えたのだった。それである日、蓋を洗おうとした時に、彼女はそこに窪みがないことに気がついて酷く驚いてしまった。それは世界に照らし合わせて普通の鍋の蓋であったけれど、彼女の中の世界はとっくに魔人サイドにあったのだった。

 普通サイドの鍋の中ではネットから抜け出してきた玉ネギがごっそりと入っていて、鍋の中では架空の時間が流れていた。彼女は1オクターブ上げて玉ネギの歌を歌った。


かくなる上に立って
私は歌おう
魔人サイドを抜け出した
吐くまでの覚悟と
絶え間なく冴え渡る眠りとが
悪魔でも悪のない挑戦を
奏でる
あなたは澄み切った
玉ネギスープのように



 しあわせを持ち合わせた噂のドアを、彼は罠かと思って見合わせているが、すぐに警備員はやってきた。慌てた様子で「気は確かですか?」と訊いた。彼は泡を食った様子で見合わせていると警備員はあきらめたのか、回れ右をして引き返していった。山のようにして静かにしていたが、見合わせることに疲れたのは、他愛もない扉の方だった。しあわせは回り回って壊れて泡になった。

 泡の中から魔界の司会者が現れて警戒を呼びかけている。妖怪の世界遺産登録は、いきなり若いクルーに高いハードルを突きつけていたし、球界を代表する向かい風は不快感を極めながらも和解を図りスカイブルーに染められていく。ざわめきの中から柔らかなレモンサワーが降ってきて、庭の洗濯物に止まっていた虫たちが逃げ出した。

 たちどころに価値観の相違が浮き彫りになると、縁のないグラスを支えていることは誰にもできなくて、土地勘もなくあちこちを彷徨うことは彼にとっても誰にとっても危険なことだったけれど、彼の髪の毛は雨が降るととても内巻きになるので、にっちもさっちもいかないとよく蜂の巣の前で零していたのだった。

 家の人は例外なく映画が好きで、そのくせみんな無知だったので、植木鉢の中にはいつも誰も名前を知らない植物が一か八かの調子で植えつけられて、先入観のないへちまのように伸びては太陽に向かい歌うことをけちらないように訴えかけたり、ねちねちと町にありがちな理屈をこねたりするのだった。

 ある時、父は植物の周りにやってくる虫の遊び相手にと一匹の豚を娘が二十歳になった誕生日のことを想像しながら与えた。豚は色づいた紅葉のような輝きを放っており、世知辛く口惜しく内へ内へと思考を向かわせる親戚の人々にさえも温かく迎え入れられたのだった。

「手持ち豚さ」

 と父はみんなに紹介した。

 カスタネットに合わせて豚は踊り、木にぶつかっては転げたりしたけど、家の者が既知の歌を歌っても道に背いた歌を歌ってもいつか市場でもちもちした占い師が町で一番のお金持ちの求めに応じて占いで宣言したように、決して木に登ることはなかった。

 けれども、手持ち豚は落ちてくる落ち葉を拾うことがとても好きで、それを父に間違えなく届けることにとてつもない価値観を見出しているどこにもいない稀な豚だったことは間違いがなかった。

 豚から落ち葉を受け取る度に、父はうれしそうに笑った。

「幸あれ」
 そう言って手持ち豚の背中を撫でるのが習慣だった。


 朝から読むものかと豚は歌集を閉じてしまって、世襲続きの習性すべてを批判して回ると方々からミサイルが飛んできたが、彼女は大きな傘を広げてそれを防いだ。それでも突き抜けてくるむさくるしい大男が投げる(彼は手持ち豚に足技を伝授した罪を問われた囚人である)ミサイルが傘を突き抜けてきたが、彼女はそれを勇ましくも素早い仕草でペンに変えてしまった。

 油性でも水性でもない、彼女はそのペンで終日禁煙を犬猿に塗り替えてしまったために、町中が犬や猿だらけになってしまった。手探りの鎖を噛み千切り憂さを晴らすのは土佐犬の登場である。

「久々に土佐犬を見た」と長老が言えば、「今朝見ましたよ」と傘地蔵が答えたけれど、長老はとても耳が遠かったためそれには答えず、土佐犬に飛び切りの餌を与えていたのだった。

 シーチキンの横取りを企んだムササビが、長老の背後から音もなく降下してくるのを、その時、猿は見た。「正夢だったか」と言った。長老の肩にひょいと飛び乗ると、眉間に皺を寄せながら右ストレートを繰り出して、シーチキンに飢えたムササビを撃退した。

「ありがとう」と長老は礼を言って頭を下げた。「憂さ晴らしですわ」と言いながら長老の首を引っかいた。「いてててて」と長老は呻き声を上げて逃げた。それは後日かさぶたになったという話が伝わっている。土佐犬の横に並び猿はシーチキンを食った。


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もどかしい仕草

2020-04-28 08:45:00 | 忘れものがかり
目を見開いて驚きを
耳を立てて警戒を
鼻を輝かせて歓迎を
口を開けて当惑を
尾を振ってよろこびを
足を鳴らして怒りを
舌を出して渇きを

私たちは
ここにあるものを使って
何かを伝えることができる

道の向こうで
あの人は手を振っている

「何?」
どうした?

わからない
さっぱりわからないよ

ああ
もどかしい

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