【短歌】勇者の一手
勝ち負けに勝る宇宙の探究に捧げた桂の跳躍ロマン
手の尽きたはずの相手がラッシュする 穴熊ならば勝てていたのに
恋をした君の向かいに振り出せば私はいつも逆転の将
リプレイが明白にする敗着を見つめる君は明日の勇者
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【夢】遅刻、反則、退場
「お前が後手じゃ」
声がしてからずっと通信が遅れて対局に入ることができなかった。数秒後にようやく入れた時には、既に何者かによって駒が動かされていた。初形からではなく、全く未知の局面から始めるというのは気が進まないが、始まっているからには指さねばならない。そこに見えるのは定跡からは遙かにかけ離れた大乱戦だった。非常識に端に駒が渋滞して柱になっているその中には既に幾つかの成駒が交じっていた。
僕は効率化を図りながら端の駒をさばき中央に寄せていく。その途中で、明らかに二歩になっている部分を見つけてしまった。しかし、それは僕自身が指した手ではないのだ。
少しの後ろめたさを引きずりながら僕は歩を成り捨てた。
大渋滞が解消されるとまもなく勝ち筋になった。
相手には全く有効な手段がないのではと思えた。
(通信不調?)
その時、相手は不調に陥った。それきり戻ることはなかった。