眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

寿司回り道

2022-07-13 22:36:00 | ナノノベル
「うちの修行は厳しいぞ」
「はい」
「お前の好きを試すぞ」
「覚悟はできています」
 一人前の寿司職人になるために、僕はここに来た。
「まずはこれを全部読め!」
 最初からネタやシャリに触れられないことは予想していた。しかし、これは……。大将が出してきたのはみんな野球マンガだった。
「寿司マンガなんか100年早いぞ!」
 そうか。遠いところから始まるんだな。

チャカチャンチャンチャン♪

 3年後。

「握ってもらうぞ」
 突然、マンガの終わりが告げられた。
「はい」
「素振り1000回だ!」
 大将が持ってきたのはバットだった。
 まだ野球かよ。本当に遠い道だな……。
 僕はバットを握りしめ、それから素振りを繰り返す日々が続いた。

(一人前になるまで帰らない)
 そう誓って家を出たのは遠い昔の話のように思える。
「修行は厳しいか?」
「ああ、まあね」
「そうか。順調に進んでるか?」
「……。少しずつね」
「そうか……」
 父の声が遠くなっていく。
 まだ、僕は駆け出してもいない。

コメント
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