「うちの修行は厳しいぞ」
「はい」
「お前の好きを試すぞ」
「覚悟はできています」
一人前の寿司職人になるために、僕はここに来た。
「まずはこれを全部読め!」
最初からネタやシャリに触れられないことは予想していた。しかし、これは……。大将が出してきたのはみんな野球マンガだった。
「寿司マンガなんか100年早いぞ!」
そうか。遠いところから始まるんだな。
チャカチャンチャンチャン♪
3年後。
「握ってもらうぞ」
突然、マンガの終わりが告げられた。
「はい」
「素振り1000回だ!」
大将が持ってきたのはバットだった。
まだ野球かよ。本当に遠い道だな……。
僕はバットを握りしめ、それから素振りを繰り返す日々が続いた。
(一人前になるまで帰らない)
そう誓って家を出たのは遠い昔の話のように思える。
「修行は厳しいか?」
「ああ、まあね」
「そうか。順調に進んでるか?」
「……。少しずつね」
「そうか……」
父の声が遠くなっていく。
まだ、僕は駆け出してもいない。