眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

サイレント・アンサー

2022-08-15 06:41:00 | ナノノベル
「名前は?」
「……」

「生まれはどこだ?
田舎はどこだ?」
「……」

「お前がやったんだろー!」
「……」

「先輩、それはいけません。早まっては」

「おお、そうだ。しかしなかなかしぶとい奴だ」

「無口な奴ですね」

「おい、お前のことを言ってんだぞ!」
「……」

「おふくろさんは元気か?
元気にしてるのか。
お前のことを気にかけてるんじゃないか。
田舎におふくろさんはいるのかってんだよ」

「暑くなってきたな。いよいよ夏も本番だな。
エアコンつけっぱなしだと光熱費も高くつくぞ。
なあ、お前も色々大変だったんだな。
野球は好きか?
好きじゃないか。
サッカーか?
どうだ。映画とか見るのか。
読書はどうだ?
漫画とかそっちの方か?
山とか登ったりしてるのか?
釣りの方か?
アウトドアは嫌いか?
えー、どうだ。どっちでもないか。
休みの日は何してるんだ?
おい、いったい何をしてるんだよ。
この野郎、おとなしくきいてりゃいい気になりやがってー
お前がやったんだろー!
とっとと吐きやがれ!」

「先輩いけません!」

「おお……、そうだった。しかしこれは全く暖簾に腕押しときたもんだ」

「はい、いらっしゃい!」

 暖簾を潜るとそこはレストランだった。

「肉に魚に野菜に蕎麦に海老に茸にこいつは豪勢なもんだ。
ほら、景気付けにお前も食え!
はは、腹減ってんじゃねえか、遠慮なく食えよ」

「こいつ、食べる時も何も言いませんね」

「ごちそうさん。おかあさんお愛想」

「ありがとうございます! 誠に感謝感謝。お気をつけて」

「大変です警部、あいつがいません!」

「何? 逃げただと? 食い逃げだー! 応援を呼べ!」

「応援要請、至急応援願います。取り調べ中の容疑者が食い逃げ。繰り返す。取り調べ中の容疑者が食い逃げ。容疑者は全身黒タイツ、手には割り箸を持って逃走中。大変物静かな様子」

コメント
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