「名前は?」
「……」
「生まれはどこだ?
田舎はどこだ?」
「……」
「お前がやったんだろー!」
「……」
「先輩、それはいけません。早まっては」
「おお、そうだ。しかしなかなかしぶとい奴だ」
「無口な奴ですね」
「おい、お前のことを言ってんだぞ!」
「……」
「おふくろさんは元気か?
元気にしてるのか。
お前のことを気にかけてるんじゃないか。
田舎におふくろさんはいるのかってんだよ」
「暑くなってきたな。いよいよ夏も本番だな。
エアコンつけっぱなしだと光熱費も高くつくぞ。
なあ、お前も色々大変だったんだな。
野球は好きか?
好きじゃないか。
サッカーか?
どうだ。映画とか見るのか。
読書はどうだ?
漫画とかそっちの方か?
山とか登ったりしてるのか?
釣りの方か?
アウトドアは嫌いか?
えー、どうだ。どっちでもないか。
休みの日は何してるんだ?
おい、いったい何をしてるんだよ。
この野郎、おとなしくきいてりゃいい気になりやがってー
お前がやったんだろー!
とっとと吐きやがれ!」
「先輩いけません!」
「おお……、そうだった。しかしこれは全く暖簾に腕押しときたもんだ」
「はい、いらっしゃい!」
暖簾を潜るとそこはレストランだった。
「肉に魚に野菜に蕎麦に海老に茸にこいつは豪勢なもんだ。
ほら、景気付けにお前も食え!
はは、腹減ってんじゃねえか、遠慮なく食えよ」
「こいつ、食べる時も何も言いませんね」
「ごちそうさん。おかあさんお愛想」
「ありがとうございます! 誠に感謝感謝。お気をつけて」
「大変です警部、あいつがいません!」
「何? 逃げただと? 食い逃げだー! 応援を呼べ!」
「応援要請、至急応援願います。取り調べ中の容疑者が食い逃げ。繰り返す。取り調べ中の容疑者が食い逃げ。容疑者は全身黒タイツ、手には割り箸を持って逃走中。大変物静かな様子」