昔は噛みついて自身の分身を増やすことができた。私はドラキュラ時代を振り返って鳴いた。今では吹けば飛ばされるようなちっぽけな存在に成り下がってしまった。もはや骨も筋肉も唇さえも失った。愛を叫ぶこともできないけれど、人恋しさが消えない。私は忘れた頃に現れることを習性とした。
風に乗って道を渡り、微かな人の温もりを関知して侵入を試みた。部屋の壁にしがみついて、甘美な一瞬を夢に見た。それは遙かなる過去の風景か、あるいは次の瞬間のことかもしれない。明かりのない家の中に、人の息づかいは感じられなかった。
「あいつらをお探しか」
ベッドの下から猫が顔を見せた。家のものだろうか。
「もう戻らないよ。人間は星を渡ったの」
羽もないくせに、いったいどうやって。
出任せにしては猫の背はぴんと伸び切っていた。
「よほど嫌いだったんだよ。君たちのこと」
そんなわけあるか。(きっと好かれていた)
暑い夜にも、自分たちのために線香を灯してくれたのだ。
私は隣の部屋に行って鳴いた。
悟られるとしても、自然と鳴いてしまう。