眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

立ち会いの駒音

2022-08-09 05:22:00 | ナノノベル
「すべての準備が整いました」
 駒台、脇息、座布団、ゴミ箱と抜かりなく置かれていた。
 盤上には既に40枚の駒が整然と並んでいる。
「もう並べてしまったの?」
 立会人はあきれながら盤上を眺めた。
「はい。駒を磨いてついでに並べておきました」
 記録係は悪びれる様子もなく言った。
「1枚1枚自分で並べたいものなんだよ」
 (それが物理将棋ってものなんだよ)
「えーっ。すみません」
 記録係は反省しながら数分前に自らが並べた駒を駒袋に納め、駒箱に片づけた。

「おはようございます」
 20分前に1人、15分前にもう1人の棋士が入ってくると、盤の周りをそれぞれの好みに整え始めた。
 上座に着いた棋士が一礼して駒箱に手をかけた。紐をといて片手を添えながら、盤上に駒をあけた。
(名人が微笑んでいる)
 記録係はその一瞬を見つけた。
 一日かけて指される勝負の厳しさの中に、楽しむ心を見た。

 ビシッ!
 山の中から見出された王将が、一番に音を立てた。

コメント
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