眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

魔女の配送手配

2022-08-25 22:23:00 | ナノノベル
 昔々、あるところにお腹を空かせて動けない少女がいました。いざという時のために備えた缶詰もレトルト食品もなく、冷蔵庫の中はすっかり空っぽでした。あまりにお腹が空きすぎていたために、自分で外に出かけて食料を手にすることもできません。顔を洗うほどの元気もなければ、靴下を履く力さえ出ないのでした。
(私の人生はここでおしまいか……)
 少女が絶望しかけた時、天井から魔女が降ってきました。魔女は少女のスマートフォーンを手にすると、不思議なアプリをインストールして、まもなくごちそうが届くことを約束しました。

「元祖の冠をつけたゴーストのレストランで旨げなまぜそばを頼んであげたよ」

「ありがとう! 私まぜそばは大好きなの」

「それはよかったわ」

「本当にやってくる?」

「95%以上の確率でやってくるからね」

「親切にありがとう」

「あと1つ大事なことよ。誰がベルを鳴らしても、絶対に返事はしないこと」

「どうして?」

「声を盗まれるからよ」

「わかったわ。言うとおりにする」
 少女は魔女との約束を守りその日が終わるまで一言も誰ともしゃべらないことに決めました。


 15分後、白い自転車に乗ったおじいさんが注文されたまぜそばを積んで少女の住むマンションまでやってきました。おじいさんがアプリ記載の部屋番号と呼ボタンを押すと、10秒後に静かにエントランスのドアが開きました。おじいさんはエレベーターに乗って13階まで上ると時計回りに進んで目的の部屋の前までたどり着きました。ドアノブの横の少し上にある丸いボタンを押すと部屋の中で微かにベルが鳴っている音が聞こえました。10秒後に静かに部屋のドアが30度ばかり開くと、中からすっと伸びてきた細い腕が、おじいさんの手にあったまぜそばの入った袋を引き取って消えました。おじいさんは閉まったドアに頭を下げてエレベーターに戻りました。1階に着きエレベーターが開くと見知らぬ親子が立っていました。

「こんにちは」
 見知らぬ親子が言いました。
「こんにちは」
 おじいさんも言いました。おじいさんは、今日はじめて人と話したと思いながら、エントランスを抜けました。
 めでたし、めでたし。

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流刑100万キロ

2022-08-25 06:23:00 | 夢追い
 何もない直線道路で警官に止められた。
「出てたね。ここは8キロだよ」
「8キロ?」
「そう。かなり出てたよ。20キロね」
「えっ? どこに書いてます?」
 どこにもそんなことは書いてないのだ。僕は自転車を押しながらそのまま逃げて行こうとした。
「何?」
 警官の一人がハンドルを両手で掴んで固定した。1ミリも動かすことができない。
「公務執行妨害未遂で逮捕する!」
「緊急逮捕! 23時25分45秒」
 公開取調室では厳しい尋問が待っていた。コンビニの制服を着せられた僕はチーカマを食べながら、自分の犯した罪を認めた。

「世界は歩行者のために! さあ大きな声で」
「世界は歩行者のために!」
 繰り返し歩行者を称える声が壁を震わせた。

「流刑100万キロを言い渡す」
 判決は満場一致で確定して、観衆は拍手でこれを歓迎した。周りに自転車サイドの人間はおらず、皆が歩行者の味方だった。

 簡易刑務所の中では囚人たちによる自転車レースが行われており、新人の僕は歓迎の意味をかねてエントリーさせられていた。僕の乗る自転車はサイズも小さくボディには錆も目立った。他の選手の自転車は明らかに競技用で整備も行き届いているようだ。レースが始まってまもなく僕だけが止まっているかのように引き離され、気づくと周回遅れになっていた。何周も何周も遅れ、僕がゴールしたのを認める者はいなかった。

「お前はこんなものだ」
 教官が言い放った。
 別に望んだレースじゃない。
「お前のスピードなんてこんなもんだ!」
 教官はなおも攻撃を緩めず、罵った次には得意げに笑った。
 何がそんなにおかしいのだ。

 流刑地へと続く村では村人が頭を叩いてきた。
「何するんだ?」
 手に持っているのは棍棒だ。
「馬鹿もんが! そんなこともわからんのか?」
「やめてください。父でもないのに」
「1ポイントの大切さを思い出せ。積み重ねることの価値を思い出すのじゃ」
「そんなことをして何になりますか。僕はすべてを失ったんです」
 見ず知らずの村人に説教されるなんてまっぴらだ。
「1ポイントを馬鹿にするのか!」
 そう言って村人は僕の頭を強打した。
「何するんだ?」
「大事なものを忘れてしまうくらいなら、何も学ばない方が遙かにましじゃ。お前が覚えた100の魔法。ふん、それが何だ。言葉なんて誤解の種にしかならんわ」
「僕はただの自転車乗りです」
 今ではそれも昔の話だった。
「ほれ、お前のはじまりの武器じゃ。持って行くがいい。これでスライムを打つがいいぞ」
 僕の頭を打った棍棒を村人は差し出した。手を出すまでは動かない面倒くさい奴だ。魔法が使えたら、ここの村人から退治してやろう。

「さあ、自分で取りに行け!」
 給食教官が命令した。最後の食事はバイキング形式だ。まともな人間の食事は、これが本当に最後になるだろう。肉や魚といった贅沢なものはなく、目に付くのは野菜ばかりだった。サラダバーとは、このような形なのかもしれない。自由に選べる多彩なドレッシングに、妙な優しさを感じた。
「ご自由にどうぞ」
 ドレッシングだけではなかった。サイドテーブルには、様々なトッピングが用意されている。この選択だけが許された最後の自由になるのかもしれない。プレートにサラダを盛りつけている途中、鉄板の前に佇むタコの存在に気づいてハッとした。タコは手にソースを持って自らの体に振りかけていたのだ。(美味しくなれ、美味しくなれ)まるでそう言っているようだった。自分の未来を知っていて、最後の時間を人のために使うなんて。普通はまず自分のために使うのだ。なんて奇特な……。思わずプレートをひっくり返すと父がこぼれ落ちた。父は怒っているようだ。

「見たの?」
 僕のノートを勝手に見たようだ。封まで開けて見るなんてとても許し難い。

「なんて恐ろしい計画なんだ!」
「フィクションだよ! 創作だよ!」
 当然それは誰にでも理解できることのはずだった。
 それでも父の目の色は少しも変化しない。

「信じないの?」
 想像力の欠落か。手に余る不信か。

「あってはならんことだ! 馬鹿もん!」
 あっ、やばい、殴られる。

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折句しりとりありがとうございます

2022-08-25 05:59:00 | 折句ののしりとり
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