うどんとお米のどちらに付くかを試されていました。「ごめんなさい」その時、自分の心を裏切らなければ自ら腹切りをすることを迫られていたでしょう。涙を呑んで彼はうどんを踏み続け、そうして大変腰の強いうどんが誕生したという逸話が伝わっています。バスはうどんの町を通過した。#twnovel
きみは死にたかった
いいえきみはただ
遠いところに行きたかった
たった一つのことで
傷つくことのできる才能を持って
眠れないということは
どこまでも歩いて行けるということ
どこまでもどこまでも
きみは歩いて行ける
「何をしている?」
散歩でもなく徘徊でもなく
きみは旅だと答える
「安心できる場所をみつけても、決して安心はできません。それを失ってしまうことに対する不安が生まれてしまうからです。安心する時間はなく、もしもそれがほんの少しでもあるのなら、それがある間に歩き始めなければなりません。行き着くところに行き着くことが恐ろしいから、とどまることのない旅を続けなければならないのです」
電波も届かない場所で
きみは方向さえも見失う
つながらないということは
つながらなくてもいいということ
籠を抱えた男が角を曲がって近づいてくると
きみは迷いを共感するためだけに顔を上げるけれど
男は道よりも重いオレンジの話を始めた
「今はちょっと……」
少しずつ少しずつ
きみは自分から離れながら
自分の命を広げていく
果てしがないというイメージが
ほんの少しだけ
きみに安らぎを与えてくれる
きみは死にたかった
いいえきみはただ
遠いところに行きたかった
まだかなしみが届かない
遠く遠く
知らない街へ
いいえきみはただ
遠いところに行きたかった
たった一つのことで
傷つくことのできる才能を持って
眠れないということは
どこまでも歩いて行けるということ
どこまでもどこまでも
きみは歩いて行ける
「何をしている?」
散歩でもなく徘徊でもなく
きみは旅だと答える
「安心できる場所をみつけても、決して安心はできません。それを失ってしまうことに対する不安が生まれてしまうからです。安心する時間はなく、もしもそれがほんの少しでもあるのなら、それがある間に歩き始めなければなりません。行き着くところに行き着くことが恐ろしいから、とどまることのない旅を続けなければならないのです」
電波も届かない場所で
きみは方向さえも見失う
つながらないということは
つながらなくてもいいということ
籠を抱えた男が角を曲がって近づいてくると
きみは迷いを共感するためだけに顔を上げるけれど
男は道よりも重いオレンジの話を始めた
「今はちょっと……」
少しずつ少しずつ
きみは自分から離れながら
自分の命を広げていく
果てしがないというイメージが
ほんの少しだけ
きみに安らぎを与えてくれる
きみは死にたかった
いいえきみはただ
遠いところに行きたかった
まだかなしみが届かない
遠く遠く
知らない街へ
母譲りの直感を頼りに未知の仕事を進めた。お金はまだもらってない。未払いカード三枚を姉に渡して仕事を引き継ぐと急に寒気がしてきて、自分の部屋に逃げ込んだ。大音量でビートルズをかける。寒いなんて、情けない。生きていく気力が不足していたのだ。隣の部屋で父が休んでいるけれど、ビートルズだから構わなかった。このまま自分一人の家に帰っても、寝込んでしまうのかもしれない。机の上のメロンソーダはジュラ紀の地層のように固まっていて、もう飲めそうもない。気力を振り絞って鍋にお湯を沸かした。真ん中に卵を割り入れる。ああ、どうしてこんなことをしてしまったのだろう。固まり次第、僕はそれを取り出さなければならない。冷蔵庫の片隅から椎茸とブロッコリーを取り出して、鍋に落とすと、ブロッコリーは冒険を求めて色づきながら沈んでいったけれど、椎茸は温泉に浸かる浮き草のように表面上で揺れていた。次に入れべきものは冷蔵庫の中にはもう何もなく、窓を開けると光が射し込んで机の上のメロンソーダを溶かした。瓶を持ち上げるとあれほど頑なだったものが、香りを放ちながら輝き始めた。その中で踊り出したのは、一匹の蟻の死骸だった。
カーテンが開く音に続いて扉が開く音がして、続いて人の声がした。半裸の僕は動くことができなかった。(飛び起きるなんてできない)「まあ、よく眠っているね」大家夫婦が、ベッドの上の僕を見ているけれど、僕は目を開けることができない。(全裸だったらどうするのだ)昼まで寝ている僕を責めるように扉は開放されて、晒し者となる。「ほんとよく寝ているね」道を行く人が足を止めて、大家夫人の話に相槌を打つ。人が人を呼び寝返りも打てない僕の元へだんだんと人が集まってくる。(ここは動物園か)いつでも静かにして観察の対象であり続けることは困難だ。(主人が戻ってきて、狸寝入りだと言われるのだけは絶対に嫌だった)今目覚めたというように、自分の体を急に動かすと早速男が仕事を依頼してきた。僕は伝票に今日の日付、今日の曜日、今日の天気などを書き込んで電話をかけた。電話がつながらない間に男は、「それ書く必要ある?」などと言うので僕は仕事に不備がないことを説明しなければならない。再び受話器を取った時、コール音は止まっていて、しばらくして「どうぞ」とマリの声が聞こえた。電話の向こうからやってきた白衣の女に男を引き渡す。男の忘れていった襟のくたびれた上着を持って、僕は女の顔を見上げた。「これどうします?」女は黙って空っぽの籠の中を指した。
「忘れ物はなかったかな?」
友達の家には友達の自転車を二つ重ねた二段乗りでやってきた。帰りは一人で歩いて帰ってもいい。「うん。何も持ってなかったよ」友達は、頭の奥を少しだけ逆回転させると首の動きと言葉とでその事実に間違いがないことを示した。おじさんは何か土産物がないかを少し期待したようだったけど、確かに僕は何も持っては来なかった。ペルー&日本対ブラジルはまだ始まったばかり。自陣でボールを奪ってバックパスするとなぜか彼はスルーしてたちまたちゴール前は大ピンチとなる。混戦の中でボールはブラジル選手の足元に渡り、シュートを打たれるが、勇敢に飛び出したキーパーがキャッチしてすぐに反撃が始まる。サイドのペルー選手に渡り、僕は中央に走り出して手を上げるがボールは僕の前を通過して日本選手の足元へ通る。ディフェンスを一人かわして、キーパーと一対一になる。僕は再び中で手を上げるが、彼はキーパーもかわしておしゃれシュートを決めてしまった。今のところペルー&日本が二点をリードしているが、僕はもうそろそろ家に帰らなければならない。特に何もしていなかったけれど、友達はもう疲れている様子で、帰りは僕一人で帰ってもいい。自転車を一つ借りてもいいけれど、返しに来るのが面倒だった。「本棚の硝子が壊れているって」友達が、おじさんに僕が困っていることを伝えてくれた。「何かないかな?」親切なおじさんが、何か代わりになるものを探してくれると言う。あれでもない、これでもない。ない、ない、そんなに簡単には見つからないように。そう願いながら、僕はテレビを見続けている。
新しいバイトを始めた。性別不明の四人連れをデラックスルームに案内することになったが、一人目の名前を間違えてしまう。「はあ?」それで恐ろしくなって次は名前を呼ばないことにした。「次の方」、「次の方」……。「はあ?」それでもやはり切れられてしまう。「名前を呼ばないのか?」別に名前なんてどうでもいいでしょうに。気がつくと僕の手は客の首を掴んでいたのだ。「いいえ。これは別に。何でもありません」
家の外からカーテンと扉を確認した。大丈夫、閉まっている。リビングに向かう途中に今まで見落としていた通路があることに気がついた。その奥には小さな冷蔵庫があり、開くと「Yesterday」が軽やかに流れ、中にはデザートやたくさんのお菓子が用意されていた。(勝手に扉を開けるような真似をするけれど)もしかしたら、大家さんはいい人なのかもしれない、という思いが少し過ぎった。けれども、視線が自然と下の方に落ちていった時、ケーキが半分食べてあることが認められるとハッとした。父の入院中、ここには母が住んでいたのだ。これは、その時の名残。ここは、近所の人々の溜り場であったのかもしれない。
カーテンが開き、扉が開く。「ちょっと」と言って上がり込んできたのは、どこかのおばあさんだ。勝手にテレビをつけるなり「ちょうどクライマックス」と言ってはしゃいだ。クライマックスなのでたまらず家から出てきたなどと言うので、見たくもないテレビにしばらく付き合わなければならなかった。ここに自分だけの居場所はない。
カーテンが開く音に続いて扉が開く音がして、続いて人の声がした。半裸の僕は動くことができなかった。(飛び起きるなんてできない)「まあ、よく眠っているね」大家夫婦が、ベッドの上の僕を見ているけれど、僕は目を開けることができない。(全裸だったらどうするのだ)昼まで寝ている僕を責めるように扉は開放されて、晒し者となる。「ほんとよく寝ているね」道を行く人が足を止めて、大家夫人の話に相槌を打つ。人が人を呼び寝返りも打てない僕の元へだんだんと人が集まってくる。(ここは動物園か)いつでも静かにして観察の対象であり続けることは困難だ。(主人が戻ってきて、狸寝入りだと言われるのだけは絶対に嫌だった)今目覚めたというように、自分の体を急に動かすと早速男が仕事を依頼してきた。僕は伝票に今日の日付、今日の曜日、今日の天気などを書き込んで電話をかけた。電話がつながらない間に男は、「それ書く必要ある?」などと言うので僕は仕事に不備がないことを説明しなければならない。再び受話器を取った時、コール音は止まっていて、しばらくして「どうぞ」とマリの声が聞こえた。電話の向こうからやってきた白衣の女に男を引き渡す。男の忘れていった襟のくたびれた上着を持って、僕は女の顔を見上げた。「これどうします?」女は黙って空っぽの籠の中を指した。
「忘れ物はなかったかな?」
友達の家には友達の自転車を二つ重ねた二段乗りでやってきた。帰りは一人で歩いて帰ってもいい。「うん。何も持ってなかったよ」友達は、頭の奥を少しだけ逆回転させると首の動きと言葉とでその事実に間違いがないことを示した。おじさんは何か土産物がないかを少し期待したようだったけど、確かに僕は何も持っては来なかった。ペルー&日本対ブラジルはまだ始まったばかり。自陣でボールを奪ってバックパスするとなぜか彼はスルーしてたちまたちゴール前は大ピンチとなる。混戦の中でボールはブラジル選手の足元に渡り、シュートを打たれるが、勇敢に飛び出したキーパーがキャッチしてすぐに反撃が始まる。サイドのペルー選手に渡り、僕は中央に走り出して手を上げるがボールは僕の前を通過して日本選手の足元へ通る。ディフェンスを一人かわして、キーパーと一対一になる。僕は再び中で手を上げるが、彼はキーパーもかわしておしゃれシュートを決めてしまった。今のところペルー&日本が二点をリードしているが、僕はもうそろそろ家に帰らなければならない。特に何もしていなかったけれど、友達はもう疲れている様子で、帰りは僕一人で帰ってもいい。自転車を一つ借りてもいいけれど、返しに来るのが面倒だった。「本棚の硝子が壊れているって」友達が、おじさんに僕が困っていることを伝えてくれた。「何かないかな?」親切なおじさんが、何か代わりになるものを探してくれると言う。あれでもない、これでもない。ない、ない、そんなに簡単には見つからないように。そう願いながら、僕はテレビを見続けている。
新しいバイトを始めた。性別不明の四人連れをデラックスルームに案内することになったが、一人目の名前を間違えてしまう。「はあ?」それで恐ろしくなって次は名前を呼ばないことにした。「次の方」、「次の方」……。「はあ?」それでもやはり切れられてしまう。「名前を呼ばないのか?」別に名前なんてどうでもいいでしょうに。気がつくと僕の手は客の首を掴んでいたのだ。「いいえ。これは別に。何でもありません」
家の外からカーテンと扉を確認した。大丈夫、閉まっている。リビングに向かう途中に今まで見落としていた通路があることに気がついた。その奥には小さな冷蔵庫があり、開くと「Yesterday」が軽やかに流れ、中にはデザートやたくさんのお菓子が用意されていた。(勝手に扉を開けるような真似をするけれど)もしかしたら、大家さんはいい人なのかもしれない、という思いが少し過ぎった。けれども、視線が自然と下の方に落ちていった時、ケーキが半分食べてあることが認められるとハッとした。父の入院中、ここには母が住んでいたのだ。これは、その時の名残。ここは、近所の人々の溜り場であったのかもしれない。
カーテンが開き、扉が開く。「ちょっと」と言って上がり込んできたのは、どこかのおばあさんだ。勝手にテレビをつけるなり「ちょうどクライマックス」と言ってはしゃいだ。クライマックスなのでたまらず家から出てきたなどと言うので、見たくもないテレビにしばらく付き合わなければならなかった。ここに自分だけの居場所はない。
立ち止まるだけで
扉が開かれる
呑み込まれた僕は
人の居ない隅へと
歩き続ける
「ご自由にどうぞ」
誰とも話したくない時に
紙に書かれた言葉はとても優しい
広く明るい個室の中で
厄介な用を済ませて
手を伸ばすだけで
親切な水が流れてくる
開くあてのない表紙たちに
ありもしない関心を寄せながら
歩きすぎる
(ありがとう)
扉が開かれる
呑み込まれた僕は
人の居ない隅へと
歩き続ける
「ご自由にどうぞ」
誰とも話したくない時に
紙に書かれた言葉はとても優しい
広く明るい個室の中で
厄介な用を済ませて
手を伸ばすだけで
親切な水が流れてくる
開くあてのない表紙たちに
ありもしない関心を寄せながら
歩きすぎる
(ありがとう)
助っ人のメンバーが次々と集まってきた。長袖を着ている彼はキーパーだ。手にグローブをつけている彼もまたキーパーだった。今日は守護神は来ないのかと少し残念な気分でいるとあの人が駆けてきた。守護神のレギュラーキーパーだ。そうして集まってソファーでくつろいでいるメンバーにはやけにキーパーが多かったけれど、おかげでポジションの被らない僕の縦横無尽の活躍が期待される。試合前の腹ごしらえに、一旦地下球技場を後にすることにした。
腹が減ったところで食べるものはろくになく、家族はみんな浮かない顔をしていた。「ギャンブルに行こう」と姉が提案し、どうして行くのと母が訊くので、「ヘリコプターで行こう」と僕は言った。「百万かかるな」と父が困った顔をした。難民たちを乗せた列車が次々とホームを流れてきては綱引きをしてその行き先を争っていた。最終戦争が始まるのだ。すし詰めの車両に乗って動き出すと、向こう側からも列車がやってきて睨み合って停止して、幕が開いた。「僕らと同じだ」と僕は叫ぶ。現れた向こう側の乗客たちは皆ぎっしりと縦に積み重なって固まっていた。それは僕たちの列車の陣容と何も変わらなかったのだ。だから、争うなんて何の意味も必要もないことだった。駅長が間に入って和解を提案している。その時、1人の青年が背中から銃を下ろして引き金に手を掛ける。暴発と同時に手のつけられない暴動が始まる。
独り言と相談と連絡とが入り交じり積み重なって、僕たちのテーブルにはカレーがたくさん届いた。「2人ではとても食べきれない」そう言いながら先生は必死にスプーンを動かしている。食べきれないとは言ってもまだあきらめたわけではないのだ。先生の半分くらいの努力を見せながら、更に追加のカレーが来たところで僕はお皿の陰に隠れながら静かに席を離れた。犬連れの人々に交じって朝の散歩道を歩いて、果てしない階段を上がった。一円玉を投げつけて、手を合わせた。「ちゃんと食べられますように」更に神様に近づくために、脆く頼りなげな扉を恐る恐る開けると犬が静かに目を開けた。4匹の犬が薄明かりの中で寝そべっていた。
豪快に水が流れる音がしてそこにもお手洗いがあったことを知らされる。第二ボタンと第三ボタンの間で犬がじゃれ合って邪魔をするのを必死で解く。「そろそろ行かなければ」しかし時間はまだ早いと教えられる。犬を解いて腕時計に目をやると秒針が頼りなく揺れているのがわかりはっとした。壊れていて、直さなければいけないと思いながら、直すのを忘れていたのだった。受付に行き、顔を見せると随分昔にやめたはずの従業員がいて、「どうしたのです?」僕らは互いに同じ言葉をぶつけ合った。同時に複数の客が流れ込んできたので、少しだけ手伝った。少し、少し手伝う内に、カウンターには行列ができてしまう。僕の前にはおじいさんが立っていてプランについての質問をし、僕は3度目になる同じ説明を返す。つれでもない隣の男がチラシを千切ってはおじいさんに分け与えるが、それはクーポンでも何でもない。「これはゴミです」はっきりと突き放すが、男はなおもチラシを千切ってはまた別の部分を老人に分け与える。値段が書いてあるからといってもただの紙。「安くなると書いてますか?」僕は男の方を見た。けれども、男は老人の方を向いている。いつもと時間がずれているので念のために、昔の従業員にプランについて些細な質問をしたが、答えはすべて予想通りのものだった。こんな時間もよい経験の1つか。抜け出せない流れの中に入り込んでしまったのは、最初の浅い一歩からだった。
浅い……。僕の前の水だけが際立って浅く感じられる。合図と共に飛び込むと右の2人の内の誰かがフライングをしたといって連れ戻される。僕は早く地下室に戻って試合に出なければならないのに。僕は1番右の端からもう一度飛び込む。飛び込んでみると浅いと思えてもそう危険がないことがわかる。飛び込むのは2度目だった。一気に奥へ奥へと進みターン。蹴ったのはボールではなく壁、無我夢中で手足を動かして再び壁を蹴る。ここにはボールは存在しない。ターン。もうすぐゴールだ。ずっと目を開けていたのに、その時初めて人の姿を見た。みんなもうゴール前に固まっている。1人の選手が僕を追い抜いて行く。腕と腕がぶつかる。絡まる。青い泡が膨らんで、僕を包む。
歓声を追って近づいていくと選手たちの横顔が見えたが、最初にあった入口は閉鎖されていた。試合の推移が気にかかったが、どこを向いても知った顔はなく、それは僕らのチームの試合ではなかった。硝子の継ぎ目を探し当てて、慎重に取り外しにかかる。「気をつけて!」言いながら女が硝子の端を支えている。「任せて!」2人ですると余計に危ないので僕は女を遠ざけた。「気をつけて!」離れたところで女がもう一度叫ぶ。硝子の中の選手が一瞬振り返る。持ち上がった硝子は予想したより重く、手が震えるので僕は硝子に唇を合わせた。
腹が減ったところで食べるものはろくになく、家族はみんな浮かない顔をしていた。「ギャンブルに行こう」と姉が提案し、どうして行くのと母が訊くので、「ヘリコプターで行こう」と僕は言った。「百万かかるな」と父が困った顔をした。難民たちを乗せた列車が次々とホームを流れてきては綱引きをしてその行き先を争っていた。最終戦争が始まるのだ。すし詰めの車両に乗って動き出すと、向こう側からも列車がやってきて睨み合って停止して、幕が開いた。「僕らと同じだ」と僕は叫ぶ。現れた向こう側の乗客たちは皆ぎっしりと縦に積み重なって固まっていた。それは僕たちの列車の陣容と何も変わらなかったのだ。だから、争うなんて何の意味も必要もないことだった。駅長が間に入って和解を提案している。その時、1人の青年が背中から銃を下ろして引き金に手を掛ける。暴発と同時に手のつけられない暴動が始まる。
独り言と相談と連絡とが入り交じり積み重なって、僕たちのテーブルにはカレーがたくさん届いた。「2人ではとても食べきれない」そう言いながら先生は必死にスプーンを動かしている。食べきれないとは言ってもまだあきらめたわけではないのだ。先生の半分くらいの努力を見せながら、更に追加のカレーが来たところで僕はお皿の陰に隠れながら静かに席を離れた。犬連れの人々に交じって朝の散歩道を歩いて、果てしない階段を上がった。一円玉を投げつけて、手を合わせた。「ちゃんと食べられますように」更に神様に近づくために、脆く頼りなげな扉を恐る恐る開けると犬が静かに目を開けた。4匹の犬が薄明かりの中で寝そべっていた。
豪快に水が流れる音がしてそこにもお手洗いがあったことを知らされる。第二ボタンと第三ボタンの間で犬がじゃれ合って邪魔をするのを必死で解く。「そろそろ行かなければ」しかし時間はまだ早いと教えられる。犬を解いて腕時計に目をやると秒針が頼りなく揺れているのがわかりはっとした。壊れていて、直さなければいけないと思いながら、直すのを忘れていたのだった。受付に行き、顔を見せると随分昔にやめたはずの従業員がいて、「どうしたのです?」僕らは互いに同じ言葉をぶつけ合った。同時に複数の客が流れ込んできたので、少しだけ手伝った。少し、少し手伝う内に、カウンターには行列ができてしまう。僕の前にはおじいさんが立っていてプランについての質問をし、僕は3度目になる同じ説明を返す。つれでもない隣の男がチラシを千切ってはおじいさんに分け与えるが、それはクーポンでも何でもない。「これはゴミです」はっきりと突き放すが、男はなおもチラシを千切ってはまた別の部分を老人に分け与える。値段が書いてあるからといってもただの紙。「安くなると書いてますか?」僕は男の方を見た。けれども、男は老人の方を向いている。いつもと時間がずれているので念のために、昔の従業員にプランについて些細な質問をしたが、答えはすべて予想通りのものだった。こんな時間もよい経験の1つか。抜け出せない流れの中に入り込んでしまったのは、最初の浅い一歩からだった。
浅い……。僕の前の水だけが際立って浅く感じられる。合図と共に飛び込むと右の2人の内の誰かがフライングをしたといって連れ戻される。僕は早く地下室に戻って試合に出なければならないのに。僕は1番右の端からもう一度飛び込む。飛び込んでみると浅いと思えてもそう危険がないことがわかる。飛び込むのは2度目だった。一気に奥へ奥へと進みターン。蹴ったのはボールではなく壁、無我夢中で手足を動かして再び壁を蹴る。ここにはボールは存在しない。ターン。もうすぐゴールだ。ずっと目を開けていたのに、その時初めて人の姿を見た。みんなもうゴール前に固まっている。1人の選手が僕を追い抜いて行く。腕と腕がぶつかる。絡まる。青い泡が膨らんで、僕を包む。
歓声を追って近づいていくと選手たちの横顔が見えたが、最初にあった入口は閉鎖されていた。試合の推移が気にかかったが、どこを向いても知った顔はなく、それは僕らのチームの試合ではなかった。硝子の継ぎ目を探し当てて、慎重に取り外しにかかる。「気をつけて!」言いながら女が硝子の端を支えている。「任せて!」2人ですると余計に危ないので僕は女を遠ざけた。「気をつけて!」離れたところで女がもう一度叫ぶ。硝子の中の選手が一瞬振り返る。持ち上がった硝子は予想したより重く、手が震えるので僕は硝子に唇を合わせた。
「いったい何の真似だ?」彼には全く心当たりがなかった。再度見せられてもまるでわからない。「太陽系に地球という惑星があってそこに生息していた人間だと?」気分が悪い。自信を持って演じているのだから、きっとそれはそういう生物なのだろう。もはや確認の手段は失われている。 #twnovel
目的地まであと数キロのところでついに燃料が尽きてしまった。スタンドからガソリンの匂いが漂っていたがポケットには小銭が残っているだけ。「ガソリン泥棒にはなりたくない」消沈して歩いていると突然エンジンが鳴き出した。「この匂いだけで10キロは走れるぜ!」バイクが叫んだ。#twnovel
誰かが部屋のドアをノックする
音がする
けれども誰も来てはいない
本当は自分で
茶碗を置いた
だけのことだと知っていた
ひとりの部屋はとても静かだ
音がする
けれども誰も来てはいない
本当は自分で
茶碗を置いた
だけのことだと知っていた
ひとりの部屋はとても静かだ
今でなくてもいいけど
いつでもよかったから
無地の紙の束を買った
「世界の終わりは?」
いいですと言うと
女は僕の方に手を伸ばす
特に必要でもない
世界の終わりを
その手に合わせて受け取った
僕の言い方か
きっと彼女の聞き方が
その行方を左右して
世界の終わりを導いた
煙草も空き缶も
紙パックも手袋も
道の上ではすべてが潰れていた
すべてが無残な姿で
捨てることのできない
世界の終わりを手にしたまま
仮に
まだ潰れてないものがあるとすれば
その時は
いつでもよかったから
無地の紙の束を買った
「世界の終わりは?」
いいですと言うと
女は僕の方に手を伸ばす
特に必要でもない
世界の終わりを
その手に合わせて受け取った
僕の言い方か
きっと彼女の聞き方が
その行方を左右して
世界の終わりを導いた
煙草も空き缶も
紙パックも手袋も
道の上ではすべてが潰れていた
すべてが無残な姿で
捨てることのできない
世界の終わりを手にしたまま
仮に
まだ潰れてないものがあるとすれば
その時は