眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

道草知らず

2022-07-06 03:46:00 | 短い話、短い歌
 自由な犬が道草を食いながら歩いていた。1日分の道草を思う存分楽しむように、熱心に食って回る。本当はもっとゆっくりと食いたいのだったが、先を行くご主人様が歩みを止めないので、そうゆっくりもしていられないのだ。少しは立ち止まり深呼吸でもすればいいのに、後ろを気にせずどんどん先に行ってしまうため、自由な犬はゆっくりと留まって道草を食うことができなかった。
 名残惜しい道草を食い食いしては、先を行くご主人様の背中に続く。
(まさか本当に自分を置いて行ってしまうのではあるまいな)
 自由な犬は不安から道草に集中できない。興味深い道草を食いかけた時も、ご主人様はその魅力にあまりにも無関心のようだ。道草が足りない。けれども、自由な犬は少し太り気味なのだった。




前進にとらわれている人の背に今日のところはくっついていく

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ねえ先生

2022-07-05 03:04:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
ねえ先生ワンフレーズも浮かばない帰ってアイス食べようかもう

よお大将きつねうどんをおくれやし葱もたっぷり入れてくれやし

さあ先生残り10分秒読みはどういたしましょうもう投げますか?

ねえ先生1つ聞きたいけれどもうここまでみたい私の時間

ねえマスターあちらの方にマティーニを彼は総理大臣になるの

なあルパン俺の帽子を知んねえか 定まるもんも定まんねえよ

ねえ先生天国はどう歌ってる? また飲んでるの? ちゃんと眠れよ

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裏街道の逃亡者

2022-07-04 03:26:00 | 夢追い
 色々あって指名手配されることになった。おたずねものとなった不安からか、気がつくと僕は見知らぬ民家をたずねていた。ベルを鳴らすと若い男が出てきた。最近事件があってですね……。

「怪しい男をみかけませんでしたか?」

 僕はヘルメットを脱いで自ら顔を晒した。そうすることで自分は全く無関係であることを装えると思ったからだ。男は怪訝な様子だった。まじまじと僕の顔をみているようだ。

「そうですか。なら結構です。では」

 話を切り上げて玄関をあとにした。曲がり角で自転車を止めて振り返ると、男はまだこちらの方をみていた。片手にスマホを持ち誰かと話しているようだ。まずい。僕がどちらに曲がるか見届けるつもりだ。
 一度東に進み、公園を越えてすぐに逆戻りした。街中の警官が各々の交番から飛び出してきて僕を捜し始めたのではないか。

(男の特徴は? 自転車に乗って、青い服、人相は……)

 公民館の角にこっそりと自転車を置いた。こちらをみている者がいないか用心しながら歩く。和菓子屋、古書店、文房具屋を通過して、何もない店の窓をみつめた。何もない店の前に長居しては不審者に映るのではないか。窓に映るのは微かな夜の気配だけだった。セルフのガソリンスタンドに立ち寄って、アキレス腱を伸ばした。僕は少し心配しすぎではないか。Gジャンなんて、あまりにありふれた服装にすぎなかった。

 人気ない公園を過ぎて線路を越えるとまだ通ったことのない道を発見した。心地よく真っ直ぐに伸び車は少なかった。旅行者が頭より高いリュックを背負い歩いている。長いリードを引いた2匹の犬がクロスしながら歩いている。手をつないでゆっくりと歩く老夫婦。大きなラケットを持って風にスマッシュを決める中学生。

 僕はヘルメットと椅子を持ったまま新しく現れた道を走り始めた。僕はジョギング・ランナーだ。すれ違う風景はすべてが新鮮なものだった。裏街道の発見だ! 新しい道をみつけたぞ! まるで知らない街を訪れたかのようだった。裏街道の興奮は、ひと時の間、自身の境遇を忘れさせてくれるものだった。

 スーパー玉田の電飾に目が覚める。やっぱりいつもの道か。すると再び不安が戻ってきた。人目を気にしながら、家々の間、裏庭、地下道を通って自宅にまで帰った。書庫の裏にこっそりと椅子を隠した。服装を変えて自転車を取りに行こう。
 家の鍵が開いていて明かりもついていた。中に入ると母がいた。

「あんた何か食べるかね?」
(何か食べてきてもよかったのに……)

「ああ」

 今日の出来事に何も触れられないのがもどかしかった。
 やっぱり考えすぎじゃないか。
 あの事件、僕は巻き込まれた側ではなかったか。警察の方だって気の毒に思って動いていないのではないか。他にももっと重大な事件が山ほどあるだろう。
 あの事件、もしかしたら、本当は何もなかったのかも。

「おうどんできたよ」

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証明写真

2022-07-02 04:57:00 | 夢追い
「早く行けよ」

「何もたもたしてんだよ」

「向いてないんじゃないの?」

「やる気あんのか」

 ネットの民の声が耳に入って焦りが増す。
 そこはエントランスがバスルームになっているという物件だ。躊躇っているのは危ない。そんなところを何度も出入りしていれば、不審者のように映ってしまう。

「こんにちは~」

 バスルームを突き抜けて中に入る。広間はちょうどパーティーの最中だった。

「オーナーさんは?」

「あちらです」

「いいえ違いますよ」

「歳の上からはあなたがそうでしょう」

「古株というならばあなたの方が上でしょう」

「資格を持っている人が務めるのが筋でしょう」

「何が筋だ」

「阿倍野筋か?」

「文句があるなら食ってこい」

「まあまあ皆さん落ち着いて」

「45角!」

「ふん、筋違い角か?」

 オーナーを巡って多くの譲り合いがあり、事が進まない。

「ん? どちらさん?」

 さっぱりした顔で風呂から上がってきたのが真のオーナーのようだった。

「お届け物に……」

「えーと、どちらさん?」

「今度隣の方に越してきたものですが」

「わざわざいいのに」

「どうぞ!」

「いいって!」

 遠慮ではなく本気の拒否だった。きっと物が有り余っているのだろう。だが、ここまで来て引き返すというのは冴えない。極上の胸唐揚げのセットなのだから。

「どうせつまらないものですから」

「なおさら結構」

「せっかくですので」

「せっかくですが」

 ささやかな縁さえも拒むとは、器の小さいオーナーのようだ。僕はもう交渉をあきらめた。

「かしこまりました」

 従順な振りをして引き下がるとじめじめしたバスルームの前に紙袋を置いて写真を撮った。
 僕が今日を生きたことの証明だ。

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