碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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数学的論理性と完全犯罪

2008年10月04日 | 本・新聞・雑誌・活字
本屋さんの文庫本の”平台”に、映画公開に合わせて文庫化された、東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』(文春文庫)がずらりと並んでいる。たしか初日が今日だったはずだ。

読んだのはもう大分前なので、文庫を買って、復習である。

「探偵ガリレオ」で鮮烈にデビューした天才物理学者探偵が湯川学だ。「予知夢」の次がこの作品だが、先の2冊が短編集だったのに対し、これは長編。

事件の背景にある切ない純愛も、冴え渡る湯川の推理も存分に味わえる。

例によって、帝都大学理工学部物理学科助教授である湯川を頼ってきたのは、警視庁捜査一課の草薙である。

一人の男が殺された。容疑者として浮かんできたのは元の妻・靖子。強引な復縁を迫られての犯行を疑うが、靖子にはアリバイがあった。

だが、このアリバイ、決して完璧ではない。ところが、崩せそうで崩せないのだ。

やがて湯川は、靖子の隣人が大学院の同期生・石神であることを知る。現在は高校教師としてひっそり暮らす石神だが、天才数学者といわれた男だ。

湯川は、自らが対決すべき相手は石神の頭脳だと直感する・・。

数学的論理性と完全犯罪。奇想天外、しかも実現可能なトリック。それに正面から立ち向かう精密な推理。

さらに、冷徹で孤独な数学者が出会った生涯一度の恋を描いた本書は、一級の本格ミステリーであることはもちろん、究極の純愛小説としても記憶に残るはずだ。

さあ、キャスティング的にも原作とは異なることも多い映画、果たして、どんなふうになっているのか。こちらは近々見に行くつもり。

容疑者Xの献身 (文春文庫 ひ 13-7)
東野 圭吾
文藝春秋

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