碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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謎の事件をめぐる3冊の本

2008年10月16日 | 本・新聞・雑誌・活字
本を読みながら、面白いなあ、面白すぎるぞ、と口に出しそうになった。

森 達也さんの『下山事件(シモヤマ・ケース)』(新潮文庫)である。

「昭和24年7月5日、日本橋三越から忽然と姿を消した初代国鉄総裁下山定則が、翌日未明常磐線の線路上で轢断死体となって発見された」という、戦後史に残る有名な事件。自殺か、他殺か、当時から様々な推理がなされ、これまでに松本清張(「日本の黒い霧」)をはじめとして、多くの作品が書かれている。

そこに敢えて“参入”するからには、それなりの“サムシング・ニュー”がなくてはならない。そして、この本には、それがあったのだ。

「事件の関係者の血につながるという人物」に出会ったことから、この追跡行は始まる。森さんは、ドキュメンタリー作家らしい取材を続け、分かっているといわれていることを確かめ、分かっていないことを少しでも明らかにしようとする。戦後史の“暗部”に触れる、スリリングなノンフィクションだ。

しかし、私が「面白すぎるぞ」と言いそうになったのは、それだけの理由ではない。

一つは、森さん自身が作品の中にくっきりと現れてくること。もちろん、「僕」という一人称で書かれているのだから当然のようだが、ここまで自分の思考、感情、迷い、また負の部分まで含めて書き込まれたノンフィクションは、そう多くない。

これは森さんのドキュメンタリー映像でもそうだが、自分自身をも「素材」として、作品という坩堝の中に投じていくのだ。「私小説」ならぬ「私ドキュメンタリー」。文章なら「私ノンフィクション」とでもいおうか。

そして、もう一つ、私が興味深く読んだのは、この作品が書かれるプロセス、出版されるまでのプロセス、その後のプロセスである。

具体的に言えば、一緒に取材をしていた「週刊朝日」記者が本を出し、さらに執筆の発端となった「事件の関係者の血につながるという人物」も、自ら本を書いたことだ。

つまり、内容の核となる“サムシング・ニュー”の部分が共通する3冊の本が出たことになる。これは前代未聞のことだ。

しかし、それだけこの事件の奥が深く、また強い磁力をもっていて、一旦足を踏み入れたら、中毒になってしまうということではないか。

かくして、下山事件をめぐる、新たな3冊の本が生まれたのだ。

下山事件(シモヤマ・ケース) (新潮文庫)
森 達也
新潮社

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葬られた夏―追跡下山事件 (朝日文庫 (も14-1))
諸永 裕司
朝日新聞社

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下山事件―最後の証言
柴田 哲孝
祥伝社

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<お知らせ>

明日、10月17日(金)、北海道のテレビ番組に、ゲスト・コメンテーターとして生出演させていただきます。

■10月17日(金) 9時54分~
 『のりゆきのトークDE北海道』 北海道文化放送(フジテレビ系)
 
■10月17日(金) 15時45分~
 『イチオシ!』 北海道テレビ(テレビ朝日系)