碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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倉本聰さん“最後の連ドラ”、始まる

2008年10月11日 | テレビ・ラジオ・メディア
今週から、ドラマ『風のガーデン』(フジテレビ)がスタートした。

個人的には、この秋、一番楽しみにしていたドラマだ。放送開始直前に、メインキャストの一人、緒形拳さんが亡くなり、世間の注目を集めることになった。なんとも悲しい”番宣”だったわけだが、9日(木)第1回の視聴率は20・1%。

ドラマは、ピアノの調律をしている少年・神木隆之介くんから始まった。そして、祖父である医師・緒形拳さん。遠くに白く雪をかぶった山々が見える風景の中を、往診に行く緒形さんの車が走る。いいなあ、富良野だなあ、と思う。

しかし、視聴者の甘い旅情もそこまで。老医師が、在宅の認知症老人を診察する光景は、地方の、リアルでシビアな現実だ。このドラマが、ふだん見慣れた、やわな恋愛物や、原作マンガをなぞっただけの“二次利用”商品ではないことが分かる。

今回、脚本の倉本聰さんが選んだテーマは、ずばり「人間の最期」だ。「人間の最期」つまり「いかに死ぬか」を描くことは、「いかに生きるか」を描くことでもある。

今年73歳になる倉本さんが書き上げた「人間の生と死」。軽いドラマのはずはない。

人の命を救ってきた医師が、自らの命の、あまりに少ない“残量”を知るという逆説。残酷さ。これから、中井貴一さん演じる主人公は、どうその日々を「生きる」ことになるのか。

たぶん、毎回、見るのが辛い物語かもしれないが、やはり、しっかり見届けたいと思う。なぜなら、倉本さんは、制作発表の頃、「連ドラはこれが最後」と明言しているからだ。

そう、毎週見られる倉本ドラマは、これが最後なのだ。

倉本さんは、理由をこう説明した。「テレビ局が視聴率だけを考え、現場が悪くなった」からだ、と。

かつて『北の国から』などに携わってきたベテランスタッフたちの「技術や知恵が伝承されず、役者を含めて現場がものすごく悪くなった」と語っていた。

「質は考えず、視聴率だけで評価する」「脚本家、演出家、役者を悪くしたのはテレビ局の責任」と厳しい言葉も並んだ。まるで、テレビに絶望しているようだった。

前回の連ドラ『拝啓、父上様』が、視聴率が振るわなかったという理由で、低い評価を受けたのは事実。しかし、倉本さんが、それだけで絶望するはずもない。

もっと深いところ、おそらく、倉本さんにとって「何かを創り出すこと」のぎりぎりの部分に、ついにテレビの現状が抵触してしまったのだろう。残念だ。

とはいえ、ドラマは出来上がったものがすべて。あれこれの予断を捨てて、真っ直ぐ、このドラマに、倉本さんに、向き合っていこうと思う。

風のガーデン―SCENARIO2008
倉本 聰
理論社

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