ある晴れた日に第203回&照る日曇る日第655回
耳をつんざく雷鳴。そして車軸を押し流すような豪雨が、
にわかに私たちだけの秘かな場所を用意する。
イラクサの鋭い穂先で、何度も何度も刺された私の太腿は、
あれからずいぶん歳月が流れたいまでも、折りに触れてちくちくと疼く。
長くのびた桟橋の先端で、突然唇に触れた荒れた唇
そのささくれだった奇妙な感触は、いまでも私の胸をひき裂く。
けれども、はじめは苦く痛々しかったそれは、
時の流れとともに、なにか別のものに姿を変える。
それは私の長過ぎた生涯の、たったひとつのいのちの輝き、
全身を震撼させた、君には一瞬、私には一生に一度のそのおののき。
いまにしてひとたび眼を閉じれば、たちまち蘇る楡の木陰の下で芽生える突然の欲望。
イラクサの葉の上でパチパチと爆ぜる肉の歓喜
セントエルモスの業火は赤々と燃えあがり、
青ざめた馬に跨った女たちは、第七の封印を解きはなつ。
ああ、私の果肉の真ん中に静かに定位している硬い粒よ!
私の阿古屋貝の内部でひそかに受肉しつづけてきた小さな真珠よ!
心とからだに消し難く刻まれたその疼きをつねに感受しながら、
私は、死ぬまで生きてゆくのだ。
なにゆえにことしはこんなに雪が降る溶けて流れて水になるため 蝶人