あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

中沢新一著「アースダイバー」を読んで 

2019-03-20 11:13:52 | Weblog

照る日曇る日第1231回


これは東京の当たり前の風景の下に隠されている異様な存在を地中深く潜って摘発するという、まことにスリリングな知的冒険の書物です。
どういう本なのかと聞かれたら、わたしは以下のようにお答えしませう。

昔紀州熊野出身の鈴木九郎という男がおったそうです。
なんでも先祖はかの源義経の部下で奥州で討ち死にしたそうですが、その光栄な後裔である九郎は、いま東京タワーが建っている縄文時代の聖地芝に漂着し、葛飾の馬市で売った馬の代金を浅草の観音様に奉納したことからあれよあれよという間に大金持ちになったげな。

そうしていまも中野坂上に実在する成願寺に住んだので巷では「中野長者」と呼ばれる有名人になりました。

有名になってワイドショーに出演している間にもどんどんお金が儲かるので、九郎はその千両箱をアルバイトに頼んで、近所の東京工芸大の付近に毎晩のように埋めておりましたが、その秘密の場所を知られると困るので大判小判の運搬を手伝った「ひよ」さんや「ありったけの風さん」たちをひそかに闇に葬っていたのです。

その悪行のせいだかどうだかはしかとは分かりませぬが、呪われた九郎の娘はヤマカガシならぬ醜い大蛇となり、ある雨の日に十二所ならぬ十二社の池に身を沈めてしまいます。

父親の因果が子に報い、大蛇に変身した美しい娘はまるでワーグナーの楽劇「指輪」の序夜「ラインの黄金」の冒頭に出てきて「ウララ、ウララ」と全裸で歌って踊る乙女のようです。

しかし中野長者の金融商業資本を水底深く守護し、遊治郎どもの性的好奇心を惹きつけ、東都一の遊興の地である歌舞伎町や角筈の伊勢丹、紀伊国屋、中村屋などの商業施設を定着させたのは、なんとこの「中野乙女」だったのです。

ちなみに中野長者が住む成願寺は縄文海進期にも水没しない洪積台地に立っており、中野乙女が棲息する十二社一帯は海没しておりましたが、このハイソな金融資本の頭脳領域と、十二社・歌舞伎町のような湿潤で猥雑で下半身丸ごとセックス地帯の、相反し矛盾する2つの活動領域の弁証法的進化と相互インターフェースこそが、新石器時代以降の新宿の繁栄を用意した。

と中沢新一選手は考えるのです。
でも、その嘘ってほんと?
このように一事が万事鎌倉だって、新宿だって地面を6尺も掘れば、縄文時代の地層と生活層が出現する。
縄文海進期から平成後退期の現在に至る関東ローム層をぜーんぶ引っ剥がして、現代人がいまも生きている生々しい神話をリアルに読み解こう、ってのが、中沢新一師匠のあっと驚く奇跡の話芸なんですね。
はい、ちょうどお時間となりました。またどこかでお目にかかれましょうね。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。

    九重にもヒエラルキーがあるようで横綱三役幕内幕下 蝶人

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