あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

人間の澱

2024-09-24 09:54:12 | Weblog

これでも詩かよ 第323回

 

毎晩風呂に入るので、毎朝風呂を洗っている。

 

たいていの汚れは落ちるが、擦っても擦っても落ちないのが、いつの間にか風呂の内側の壁面についた茶色い滲みだ。

 

それは、長年にわたって俺と妻と息子が、代わる代わるこの狭いプラスティックの箱の中に入って、擦りつけた薄茶色の澱だ。

 

それは、人間の澱。動物の澱。動物の体内からにじみ出る分泌物。

どういう成分だか分からないが、ともかく有機物の澱だ。

 

この薄茶色の澱をじっと見つめていると、なぜだか昔のいろいろを思う。

 

なぜ青山で一人暮らしをしていたトップモデルは、ぐらぐら煮えたぎる熱湯の中でまっ白な骨になってしまったのか?

 

なぜリーマン仲間のサカイくんは、深夜の浴槽で不慮の死を遂げたのか?

 

なぜユダヤ人たちは、アウシュビッツで殺され、なぜ私は、ぬくぬくと生き延びて、あたたかなこの湯の中で、ひと時のしあわせを享受しているのか?

 

いつか私も、父母のように突然心臓まひや脳卒中に襲われ、それがこの薄茶色の澱のついた浴槽で、声なき助けを呼びながら、ひとり真夜中に息絶えるのかもしれない。

 

「お父さん大好きですお!」と℡呉れるたった一人よ自閉の長男 蝶人

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