照る日曇る日 第2036回
添田さんが主宰、発行されている「ネメシス」という雑誌を恵贈にあずかったので、窓の外を散りゆく大島桜を時々眺めながら、謹んで拝読いたします。
巻頭の伊藤菜乃香さんの詩「新型コロナウイルス感染症」も興味深かったのですが、巻末の添田さんの小野十三郎賞授賞式の記念講演「現代詞人「中島みゆき」という在りかた」が圧倒的に面白かったのでここではそのお話を。
はなから結論を申せば、これは名実ともに現代詞(詩)人の最高峰をぶっ飛ぶ偉大な歌びとの詞(詩)句の、「革命的な解釈」というても過言ではではないでしょう。
さて、まずは現在我らの公凶放送が狂ったように大宣伝を繰り広げている「新プロジェクトⅩ」の主題歌「地上の星」から始めましょうか。
添田さんは、この名曲に登場する天空の星の名前、「すばる」、「銀河」、「ペガサス」などを悉く地上に引き下ろして、富士重工の「スバル360」、夜行急行列車「銀河」の喩として、(しかも写真付きで)語り直し、見直していくのです。
「崖の上のジュピター」はどうするんだろう、と他人事ながら案じていたら、1952年に伊豆大島の三原山に墜落した「もく星号」と解くのだから、素晴らしい!
あの事故で亡くなった大辻司郎が、大空で手を打って喜んでいる姿が幻視できましたよ。
次に添田さんは、中島みゆきが大切にしている「命」と「言葉」と「心」の三位一体が明快に歌われた傑作として「命の別名」を取り上げ、この歌の
くり返すあやまちを/照らす灯をかざせ/君にも僕にも すべての人にも/命に付
く名前を「心」と呼ぶ/名もなき君にも 名もなき僕にも
というリフレインを、2016年の津久井やまゆり園事件の先駆的な予言として位置づけ、「中島みゆきは、植松聖の犯行のような「あやまち」は繰り返されるとしても、それを「照らす灯」を持っていなくちゃだめなんだ、と言っている」というのです。なるほど。
さらに添田さんは、「寒水魚」の最後の曲「歌姫」は、60年代末期から70年代初めにかけての「政治の季節」への訣別と鎮魂で、殊に突如転調する3番の
男はいつも 嘘がうまいね/女よりも子供よりも 嘘がうまいね/女はいつも 嘘
が好きだね/昨日よりも明日よりも 嘘がすきだね
という歌詞は、1972年にあさま山荘事件を引き起こした連合赤軍の「山岳べース」で殺された4名の女性への鎮魂を籠めた個所ではないかと指摘されていますが、これはさあどうでしょう。私は、そこまで言うかとびっくりしました。
それから「空と君のあいだに」という1994年の佳曲をオウム真理教の元信者の方がふかく感応されているとか直近の2022年にリリースされた「倶に」という新曲が、中島みゆきの「新型コロナウイルスに対する闘争宣言!」であることが、これも写真やデータ付きで具体的に「証明」されていきます。(因みに、ここで巻頭の伊藤さんの詩とメビウスの輪のように巧みにお話がつながるんですね。)
最後に作者は、中島みゆきは「大の付く詩人である」と言い切っていますが、この際私は、添田馨こそ、そんな大詩人に最もふさわしい理解者であり、偉大な註解者であると断言したいと思います。
*参考
「命の別名」→https://www.youtube.com/watch?v=3xiuw1NPO_s
「歌姫」→https://www.youtube.com/watch?v=lCtPD5Ll8uc
「空と君のあいだに」→https://www.youtube.com/watch?v=U2jEWTrExsg
「倶に」→https://www.youtube.com/watch?v=sodcjSs14Hc
芸能人の孫の話をふんふんと聞いてるトットちゃんはほんとに偉い 蝶人