照る日曇る日 第1210回
映画にしたらよさそうな題名なので読んでみたら、クラシックの音楽コンクールをネタにしたコンペ物だった。
これは昔から小説にもなったり、映画にもなったり、エッセイにも書かれたりしているので、さほど珍しい話ではないが、昨今のこの業界の話題や過去の巨匠の面影なども巧みに取り混ぜて、1次から3次、そして本選に至る演奏作品の特徴やコンテスタント(コンペ参加者のことらしいが、ほんとにこんな風に呼ぶのかしら。「プロテスタント」なら分かるけど)たちの肖像、そして彼らの内面の葛藤をドラマチックに描いていて興味深い。
さすがは直木賞作家!と褒めたたえたいところだが、塩野七生ほどの悪文ではないにしても、なんとお粗末な文章の連続であることか。
せっかくの題材なのに、作者はただプロットのあらましを新聞記事のように無味乾燥な、あるいは漫画のセリフのような幼稚な感情表現の言葉を羅列するのみで、これでは到底プロの仕事はいえまい。
初心に戻って、少しは向田邦子や佐藤賢一や橋本治などの作文作法を勉強し直してみてはどうだろう。
読み終えての内容が「蜜蜂と遠雷」という立派なタイトルと、どのように対応できているのかも甚だ疑問で、同じコンテンツを、例えば角田光代に書かせたら、もっと素晴らしい小説になっていたに違いない、と思わずにはいられなかった。
「日本第一の大天狗」と「日本第一の大悪霊」をこの世に送りし鳥羽上皇 蝶人