照る日曇る日第1211回
新進気鋭の歌人による短歌&エッセイ一体型作品集です。
一体型というのがちょっとわかりにくいけど、たとえば「黒柳徹子」編では、あたまに、
徹子の部屋の窓から見えてたえいえんみたいな二個目の太陽
という短歌が掲げられていて、それに続く2Pには黒柳徹子と「徹子の部屋」をめぐる気の利いた短文が添えられていて、
こんにちは黒柳徹子こんちはえいえんの続きごっごそませう
という締めの短歌で終わる3Pの文芸劇場がぜんぶで84セット用意されているわけです。
作者は「どこからでもお好きな所を読んでください」とおっしゃっておるが、よっぽど頭と心と手に自信がなかれば、こんな思いきったご開帳ができるわけがない。
ちなみに、「ものごころ」編の「しおりちゃん」の童話はかなり泣かせます。
なぜだろう三十二日梨だけを食べているのに梨にならない
齷齪とアクセルを踏む齷齪がだんだんアクセルになってく
そうめんとひやむぎは似て非なるもの二月と三月のあいだ辺りの
獣道分け入ってゆく指先が永久の泉をさぐりあててる
(みんちょうたい)と読み始めたらちがってた「明朝体に残るか不安」
一文字も読まずに置かれた聖なる書聖書は置き薬箱の隣り
最後の「聖書」の巻で作者が触れている聖書は、国際ギデオン協会が世界中の全国のホテルに寄贈しているもので、晩年にこの普及運動に全身全霊をあげて打ち込んだ私の祖父は、滋賀県大津の琵琶湖ホテルの贈呈式で挨拶に立ち、「主イエスキリストは」と語り始めたときに斃れて、帰らぬ人となったのだった。
「主イエスキリストは」と言いながら祖父小太郎は召天したり 蝶人