照る日曇る日第1212回
超美貌の寡婦ユディトの色香に惑わされ、さんざん葡萄酒を飲んで熟睡していたためにベトリアであっさり首を掻かれた軍最高司令官のホロフェルネス。その姿は古来カラヴァジョ、クラナッハ、クリムトなどの名筆に描かれて人口に膾炙していますが、そのすべての源泉はこの「ユディト記」にあるのです。
ホロフェルネスは、エクバタナに首都をおいて権勢を誇ったメディアのアルファクサド王を滅ぼしたアッシリアの王ネブカドネツァルのナンバー2でしたが、結局イスラエル救国の女傑の血祭りにあげられたことによってのみ青史に名をとどめました。
しかし有名な画家たちのよって描かれたホロフェルネスの生首は、いずれもそんな不名誉などものともせず泰然自若としており、むしろユディトに殺されたことを喜んで受け入れているようにも見えるから不思議です。
圧倒的軍事力によって追い詰められ、絶対絶命の窮地に陥っていたイスラエルは、ユディトの奇跡的個人テロによって危機を脱し、包囲していた大軍を一発逆転の大敗に追いやった訳ですが、果たしてそれは歴史上の事実であったか否かは一切闇の中ずら。
されど「ユディト記」によれば、故地バトリアの地に凱旋した彼女は、ますます偉大な人物として崇められ、もはや二度と男に抱かれることなく105歳の天寿を全うし、祝福されながらこの世を去った、と記してあります。
愛しけやしわご大王の御代のいやさかを年の初めに祈る歌人は 蝶人