東芝 粉飾の闇② 首絞める原発ののれん代
東芝は、原子炉メーカーとして国策である原発事業を進めてきました。
「わが国の原子力産業において培われた原子力発電技術を国際的に展開することは意義を有する」
政府が2005年に作成した「原子力政策大綱」は、こう強調していました。
ところが、米国では1979年のスリーマイル島の原発事故以来、原発新設は止まっていました。米国での原子力事業が行き詰まるなか、米国の2大原子炉メーカーの一つウエスチングハウス(WH)を救済したのは東芝でした。06年10月のことでした。
破格の買収額5000億円
買収総額54億ドルのうち東芝は42億ドルを支出。日本円で約5000億円を投じて77%の株式を取得し、WHを子会社化しました。沸騰水型の原子炉技術を持つ東芝は、加圧水型のWHを買収することで、世界の原子力市場での利権拡大を狙ったのです。
このとき、アメリカ側の説得に動いたのは東芝の社長、会長を歴任した西室泰三日本郵政社長でした。「西室氏に頼まれベーカー元駐日米大使が東芝のロビイストとして米議会を説得した」(経済ジャーナリスト)
当時、買収の本命といわれたのは、WHと同じ加圧水型の技術を持つ三菱重工業でした。買収額の椙場は2000億円程度とみられていました。東芝は、米国のもう一つの原子炉メーカーであるゼネラル・エレクトリック(GE)との結びつきを強めるライバル企業・日立製作所に対抗するため、破格の5000億円を提示。他を圧倒したのです。
当時の社長・西田厚聡(あつとし)氏の名による説明資料には、WH買収によって燃料・保全サービス分野での事業を獲得しつつ、長期的には原発の新規建設による事業拡大がうたわれていました。06年時4000億円の原子力事業が、15年には1・75倍の7000億円まで拡大するという強気の計画でした。
WH買収で、07年3月期の東芝の貸借対照表には、3508億円ののれん代と、ブランドネーム料503億円、合計4000億円超が資産として計上されました。
のれん代とは、各企業が持つ「ブランド」「ノウハウ」「顧客との関係」「従業員の能力」など無形の財産のことをいいます。無形の財産の価値は実際には計れないため、企業買収に使われた金額の内、買収対象となった企業が持つ純資産(現金や不動産、機械設備などから借入金などの負債を差し引いたもの)の価値を上回る部分が「のれん代」として計上される仕組みです。
のれん代を支えるのは将来的に生み出すと見込まれる収益力です。WHののれん代をもっともらしく見せるため、東芝は、原子力事業にばら色の未来図を描き続けました。
「当社の優位技術と豊富な納入実績をもとに、新規原子力発電プラントの受注を拡大し、サービス事業の拡大と原子燃料事業の強化により、原子力事業の一貫体制のさらなる強化を図り持続的成長に向けた収益基盤の確立をめざしています」(10年3月期年次報告)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/25/a2/fa149af0d002a0454e2128fdf1e34767.jpg)
東芝本社=東京都港区
福島の事故でもくろみ崩壊
東京電力福島第1原発事故が起こる1年前には、東芝の15年度の原子力事業の売上高予測は1兆円まで膨張していました。その後の歴史はWH買収があまりに高い買い物だったことを証明しました。
東芝は、原子力事業単体の売上高は公表していません。そこで原子力事業を含んだ電力・社会インフラ部門の売上高をみると、WH買収以前の06年3月期は1兆8823億円。14年3月期の売上高は1兆8122億円です。事業が拡大するどころか701億円も減少しています。
WHののれん代に込めた東芝のもくろみは福島原発事故で完全に崩れました。
収益が見込めなくなったのれん代は、価値が減少した分だけ減損処理する必要があります。ところが、東芝は「赤旗」の取材に対し「WHののれん代を減損処理したことは一度もない」と回答しています。のれん代にかかわる粉飾疑惑は、第三者委が指摘した利益水増し額1518億円の数倍に達する可能性があります。
WHののれん代を減損処理することは、原発に未来がないことを世間に示すことになります。原発推進の国策に乗ってWHを高額買収したのれん代のつけが、いま東芝の首をきつく絞めつけています。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年8月12日付掲載
競争力強化のために取得したアメリカの原発会社の株が、逆に経営を圧迫するとは…。
アメリカでは、スリーマイル島事故以来新しい原発を建設していない。
原発発祥の地ともうべきアメリカが原発建設をやめているのに、それを成長戦略にするとは、福島原発事故以前でも愚かな事なのに…。
東芝は、原子炉メーカーとして国策である原発事業を進めてきました。
「わが国の原子力産業において培われた原子力発電技術を国際的に展開することは意義を有する」
政府が2005年に作成した「原子力政策大綱」は、こう強調していました。
ところが、米国では1979年のスリーマイル島の原発事故以来、原発新設は止まっていました。米国での原子力事業が行き詰まるなか、米国の2大原子炉メーカーの一つウエスチングハウス(WH)を救済したのは東芝でした。06年10月のことでした。
破格の買収額5000億円
買収総額54億ドルのうち東芝は42億ドルを支出。日本円で約5000億円を投じて77%の株式を取得し、WHを子会社化しました。沸騰水型の原子炉技術を持つ東芝は、加圧水型のWHを買収することで、世界の原子力市場での利権拡大を狙ったのです。
このとき、アメリカ側の説得に動いたのは東芝の社長、会長を歴任した西室泰三日本郵政社長でした。「西室氏に頼まれベーカー元駐日米大使が東芝のロビイストとして米議会を説得した」(経済ジャーナリスト)
当時、買収の本命といわれたのは、WHと同じ加圧水型の技術を持つ三菱重工業でした。買収額の椙場は2000億円程度とみられていました。東芝は、米国のもう一つの原子炉メーカーであるゼネラル・エレクトリック(GE)との結びつきを強めるライバル企業・日立製作所に対抗するため、破格の5000億円を提示。他を圧倒したのです。
当時の社長・西田厚聡(あつとし)氏の名による説明資料には、WH買収によって燃料・保全サービス分野での事業を獲得しつつ、長期的には原発の新規建設による事業拡大がうたわれていました。06年時4000億円の原子力事業が、15年には1・75倍の7000億円まで拡大するという強気の計画でした。
WH買収で、07年3月期の東芝の貸借対照表には、3508億円ののれん代と、ブランドネーム料503億円、合計4000億円超が資産として計上されました。
のれん代とは、各企業が持つ「ブランド」「ノウハウ」「顧客との関係」「従業員の能力」など無形の財産のことをいいます。無形の財産の価値は実際には計れないため、企業買収に使われた金額の内、買収対象となった企業が持つ純資産(現金や不動産、機械設備などから借入金などの負債を差し引いたもの)の価値を上回る部分が「のれん代」として計上される仕組みです。
のれん代を支えるのは将来的に生み出すと見込まれる収益力です。WHののれん代をもっともらしく見せるため、東芝は、原子力事業にばら色の未来図を描き続けました。
「当社の優位技術と豊富な納入実績をもとに、新規原子力発電プラントの受注を拡大し、サービス事業の拡大と原子燃料事業の強化により、原子力事業の一貫体制のさらなる強化を図り持続的成長に向けた収益基盤の確立をめざしています」(10年3月期年次報告)
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東芝本社=東京都港区
福島の事故でもくろみ崩壊
東京電力福島第1原発事故が起こる1年前には、東芝の15年度の原子力事業の売上高予測は1兆円まで膨張していました。その後の歴史はWH買収があまりに高い買い物だったことを証明しました。
東芝は、原子力事業単体の売上高は公表していません。そこで原子力事業を含んだ電力・社会インフラ部門の売上高をみると、WH買収以前の06年3月期は1兆8823億円。14年3月期の売上高は1兆8122億円です。事業が拡大するどころか701億円も減少しています。
WHののれん代に込めた東芝のもくろみは福島原発事故で完全に崩れました。
収益が見込めなくなったのれん代は、価値が減少した分だけ減損処理する必要があります。ところが、東芝は「赤旗」の取材に対し「WHののれん代を減損処理したことは一度もない」と回答しています。のれん代にかかわる粉飾疑惑は、第三者委が指摘した利益水増し額1518億円の数倍に達する可能性があります。
WHののれん代を減損処理することは、原発に未来がないことを世間に示すことになります。原発推進の国策に乗ってWHを高額買収したのれん代のつけが、いま東芝の首をきつく絞めつけています。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年8月12日付掲載
競争力強化のために取得したアメリカの原発会社の株が、逆に経営を圧迫するとは…。
アメリカでは、スリーマイル島事故以来新しい原発を建設していない。
原発発祥の地ともうべきアメリカが原発建設をやめているのに、それを成長戦略にするとは、福島原発事故以前でも愚かな事なのに…。