恒久的な住宅手当 ぜひ 先進国で唯一家賃補助制度ない日本
コロナ禍で「住まいの貧困」深刻に 東京で集会
新型コロナウイルスの感染拡大が続き、仕事や住まいを失う人が増えています。主要先進国で唯一、全面的な家賃補助制度がない日本で、社会保障としての恒久的な住宅手当を求める声はいよいよ切実です。11月上旬、「国民の住まいを守る全国連絡会(住まい連)」など住居関連3団体の主催で、住宅間題と居住保障を考える研究・交流集会が東京都内で開かれました。
(青野圭)
生活困窮者住居確保給付金をめぐる状況を、住まい連代表幹事の坂庭国晴さんが紹介しました。
2019年までの5年間、同給付金の新規支給件数は3900~6600件台で推移していました。20年には前年度の約34倍にあたる13万4900件余に急増、支給額も306億円余に跳ね上がりました。国は「生活困窮者の生活の下支えとして大きな役割を果たした」(10月31日、厚生労働省・第22回社会保障審議会「生活困窮者自立支援及び生活保護部会」資料)と、役割を認めざるを得ませんでした。
【生活困窮者自立支援制度の住居確保給付金】
リーマンショック後の2009年に失業者対策として始まった住宅手当が、15年の生活困窮者自立支援法の施行に基づいて制度化。当初は離職や廃業した人を対象にしましたが、コロナ禍のもと、受給要件の緩和や支給期間の延長などの「特例措置」によって申請・給付が急増しました。
“検討する必要”
“住居確保給付金をもとに、恒久的な家賃補助制度の実現を”の声も広がりました。6月の同部会では「住宅手当といった家賃補助的な施策も含め、普遍的な社会保障施策として検討する必要があるのではないか」と踏み込んだ指摘もありました。
しかし、前出の第22回の部会では「特例措置については、いずれ元の姿に戻していくことが原則」とされ、部会資料から「家賃補助的な施策」の文言も消えました(11月の第23回部会〈中間まとめ案〉で、特例措置の恒久化検討を「進めていくことが必要」と明記)。坂庭さんは「“社会保障施策として検討する必要がある”との文言が、一度でも国の文書に明記された事実は重い。実現に向けて粘り強く取り組みを続けたい」と語りました。
国立保健医療科学院・上席主任研究官の阪東美智子さんが“社会保障のなかで住居をどう保障していくか”について基調講演しました。
社会保障制度の意義と機能を整理(別項)。厚生労働省や国土交通省を中心とした、主に16年以降の住宅行政の議論と概要を紹介しました。
■国が示した社会保障制度の意義と機能
意義 「個人の力主活保護その他3%だけでは備えることに限界がある生活上のリスクに対して…社会全体で助け合い、支えようとする仕組み」
機能 ①生活安定・向上機能②所得再分配機能③経済安定化機能(厚生労働省「社会保障の教育推進に関する検討会報告」資料から)
社会保障給付費に占める「住宅」の割合について、阪東さんは「1%に満たないため、グラフで表すとゼロになります」と解説。(グラフ1)
一方、21年11月から始まった全世代型社会保障構築会議では、今年9月の第7回会議で、「『住まい』についてどう考えるか」が「当面の論点」の一つとして提示されたことを紹介。「最終的にどうなるかは分かりませんが、住まいが一つの焦点になっている」とのべました。
十分な規模必要
「どのような指標で見ても、どのような年齢層においても1990年代以降、住宅貧困が広がっています」
こう指摘したのは、神奈川大学経済学部助教の渡辺久里子さんです。
相対的貧困率(貧困者の割合)や住宅費過重負担率(所得に占める住宅費の割合)などのデータを駆使して、「住宅貧困」の実情を浮き彫りにしました。
渡辺さんは、GDPに占める社会保障としての住宅支出割合の国際比較(グラフ2)を紹介。
「日本は先進国の中でも最も低いグループに位置する。アメリカ並みにするには倍の予算が必要」と指摘。「日本は先進国で唯一、実質的に住宅手当がないといって差し支えありません。住居確保給付金ができて住宅手当に位置づけたとしても、重要なのは給付の規模が十分かどうかです」
コロナ禍で同給付金の支給件数・額が急増したとはいえ、「低所得世帯向けや民間賃貸住宅世帯に対する恒久的な支援策はありません。何らかの住宅保障が必要です」と渡辺さん。
生活保護と生活困窮者自立支援制度は、5年に1度の見直しの議論が進んでいます。15日には「住まい連」らが国交相にたいして、住宅セーフティネット法を改定して、低所得者向け住宅の支援を充実するよう申し入れています。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年11月25日付掲載
2019年までの5年間、生活困窮者自立支援制度の住居確保給付金の新規支給件数は3900~6600件台で推移。コロナ禍の20年には前年度の約34倍にあたる13万4900件余に急増、支給額も306億円余に跳ね上がりました。国は「生活困窮者の生活の下支えとして大きな役割を果たした」と。
社会保障のなかで住居をどう保障していくか。
社会保障の住宅給付の割合、GDP比で先進国の最低レベル。
やはり住まいは人権です。
コロナ禍で「住まいの貧困」深刻に 東京で集会
新型コロナウイルスの感染拡大が続き、仕事や住まいを失う人が増えています。主要先進国で唯一、全面的な家賃補助制度がない日本で、社会保障としての恒久的な住宅手当を求める声はいよいよ切実です。11月上旬、「国民の住まいを守る全国連絡会(住まい連)」など住居関連3団体の主催で、住宅間題と居住保障を考える研究・交流集会が東京都内で開かれました。
(青野圭)
生活困窮者住居確保給付金をめぐる状況を、住まい連代表幹事の坂庭国晴さんが紹介しました。
2019年までの5年間、同給付金の新規支給件数は3900~6600件台で推移していました。20年には前年度の約34倍にあたる13万4900件余に急増、支給額も306億円余に跳ね上がりました。国は「生活困窮者の生活の下支えとして大きな役割を果たした」(10月31日、厚生労働省・第22回社会保障審議会「生活困窮者自立支援及び生活保護部会」資料)と、役割を認めざるを得ませんでした。
【生活困窮者自立支援制度の住居確保給付金】
リーマンショック後の2009年に失業者対策として始まった住宅手当が、15年の生活困窮者自立支援法の施行に基づいて制度化。当初は離職や廃業した人を対象にしましたが、コロナ禍のもと、受給要件の緩和や支給期間の延長などの「特例措置」によって申請・給付が急増しました。
“検討する必要”
“住居確保給付金をもとに、恒久的な家賃補助制度の実現を”の声も広がりました。6月の同部会では「住宅手当といった家賃補助的な施策も含め、普遍的な社会保障施策として検討する必要があるのではないか」と踏み込んだ指摘もありました。
しかし、前出の第22回の部会では「特例措置については、いずれ元の姿に戻していくことが原則」とされ、部会資料から「家賃補助的な施策」の文言も消えました(11月の第23回部会〈中間まとめ案〉で、特例措置の恒久化検討を「進めていくことが必要」と明記)。坂庭さんは「“社会保障施策として検討する必要がある”との文言が、一度でも国の文書に明記された事実は重い。実現に向けて粘り強く取り組みを続けたい」と語りました。
国立保健医療科学院・上席主任研究官の阪東美智子さんが“社会保障のなかで住居をどう保障していくか”について基調講演しました。
社会保障制度の意義と機能を整理(別項)。厚生労働省や国土交通省を中心とした、主に16年以降の住宅行政の議論と概要を紹介しました。
■国が示した社会保障制度の意義と機能
意義 「個人の力主活保護その他3%だけでは備えることに限界がある生活上のリスクに対して…社会全体で助け合い、支えようとする仕組み」
機能 ①生活安定・向上機能②所得再分配機能③経済安定化機能(厚生労働省「社会保障の教育推進に関する検討会報告」資料から)
社会保障給付費に占める「住宅」の割合について、阪東さんは「1%に満たないため、グラフで表すとゼロになります」と解説。(グラフ1)
一方、21年11月から始まった全世代型社会保障構築会議では、今年9月の第7回会議で、「『住まい』についてどう考えるか」が「当面の論点」の一つとして提示されたことを紹介。「最終的にどうなるかは分かりませんが、住まいが一つの焦点になっている」とのべました。
十分な規模必要
「どのような指標で見ても、どのような年齢層においても1990年代以降、住宅貧困が広がっています」
こう指摘したのは、神奈川大学経済学部助教の渡辺久里子さんです。
相対的貧困率(貧困者の割合)や住宅費過重負担率(所得に占める住宅費の割合)などのデータを駆使して、「住宅貧困」の実情を浮き彫りにしました。
渡辺さんは、GDPに占める社会保障としての住宅支出割合の国際比較(グラフ2)を紹介。
「日本は先進国の中でも最も低いグループに位置する。アメリカ並みにするには倍の予算が必要」と指摘。「日本は先進国で唯一、実質的に住宅手当がないといって差し支えありません。住居確保給付金ができて住宅手当に位置づけたとしても、重要なのは給付の規模が十分かどうかです」
コロナ禍で同給付金の支給件数・額が急増したとはいえ、「低所得世帯向けや民間賃貸住宅世帯に対する恒久的な支援策はありません。何らかの住宅保障が必要です」と渡辺さん。
生活保護と生活困窮者自立支援制度は、5年に1度の見直しの議論が進んでいます。15日には「住まい連」らが国交相にたいして、住宅セーフティネット法を改定して、低所得者向け住宅の支援を充実するよう申し入れています。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年11月25日付掲載
2019年までの5年間、生活困窮者自立支援制度の住居確保給付金の新規支給件数は3900~6600件台で推移。コロナ禍の20年には前年度の約34倍にあたる13万4900件余に急増、支給額も306億円余に跳ね上がりました。国は「生活困窮者の生活の下支えとして大きな役割を果たした」と。
社会保障のなかで住居をどう保障していくか。
社会保障の住宅給付の割合、GDP比で先進国の最低レベル。
やはり住まいは人権です。